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第1話 あやかしだって恋愛したい!
3 俺はお前の兄ではない
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「は?」
僕が呆然としていると、兄は再び同じ問いを投げかけた。神を信じるかと。
こいつはなにを言っているのだろうか。もしや暑さで頭をやられたのか。
真面目一筋の兄である。もしや怪しげな宗教にはまったのではないだろうなと心配すれば、僕の困惑を読み取ったのだろう兄が「いや」と付け足した。
「別に変な意味はないんだ。ただ、少し気になってな」
「気になってって。何年一緒にいるんだよ。信じてるわけないだろ。僕が一度でも真面目に神に祈ってるところ見たことある?」
ないだろうと返せば、兄はそうだなと歯切れ悪く答える。
なにかおかしい。
なんとも言えない違和感を覚えて身じろぎすれば、兄がぎゅっと目を閉じた。なにかを決意するかのように間を空けて、黒い瞳が僕を見つめる。
なぜだろう。嫌な感じがする。見慣れたはずの兄の顔が、どこか他人のように感じられた。
「……兄さん?」
不安になって呼びかければ、兄が顔をしかめた。
「じゃあ、あやかしは?」
今度こそ、僕は絶句する。この兄は真面目な顔でなにを言っているのか。黙り込む僕に、兄はなおも言い募る。
「妖怪と言った方がわかりやすいか? とにかく、そういうものの存在を信じるか?」
たっぷりと間を置いて、僕は首を横に振った。そして同時に悟った。
深刻な雰囲気を醸し出すから何事かと思えば。
どうやら、兄も退屈で仕方がないらしい。僕のことを暇人だと揶揄するが、それは兄も一緒だったのだ。それならば、そうだと素直に言えばいいのに。わざわざこんな回りくどい方法を取らなくても、話相手くらいはしてやるのに。……いや、たぶん普通に言われても軽くあしらって終わりだろう。
兄にこんな面倒なやり方を取らせてちょっとだけ申し訳ないと思い、僕は仕切り直そうと咳払いをした。
「……暇なら、一緒にゲームでもする?」
「いや、暇ではないな」
精一杯の譲歩をあっさり拒否されて落ち込んだのは内緒だ。せっかく僕が気をつかってやったのに。むっとして口を閉じれば、兄が背筋を伸ばした。まだなにか言いたいことがあるのだろうか。
「俺は、おまえに言わなければならないことがある」
「なんだよ」
遊んでないで勉強しろとでも言うつもりか。大学三年のくせになにもせずふらふらしている兄にだけは言われたくない。あんたの小言は聞きたくないと視線を逸らせば、「優斗」と咎めるような声が届いた。
「すごく、大事な話なんだ」
「だからなんだよ。早くして」
だんだんと苛立ってきて、そんな棘のある言い方となる。
だが、兄は気にしなかったようだ。ちょっと強く言い過ぎたかな。けれども、そんな小さな後悔は、次に発せられた兄の言葉ですぐに打ち消えた。
「俺は、おまえの兄じゃない」
僕が呆然としていると、兄は再び同じ問いを投げかけた。神を信じるかと。
こいつはなにを言っているのだろうか。もしや暑さで頭をやられたのか。
真面目一筋の兄である。もしや怪しげな宗教にはまったのではないだろうなと心配すれば、僕の困惑を読み取ったのだろう兄が「いや」と付け足した。
「別に変な意味はないんだ。ただ、少し気になってな」
「気になってって。何年一緒にいるんだよ。信じてるわけないだろ。僕が一度でも真面目に神に祈ってるところ見たことある?」
ないだろうと返せば、兄はそうだなと歯切れ悪く答える。
なにかおかしい。
なんとも言えない違和感を覚えて身じろぎすれば、兄がぎゅっと目を閉じた。なにかを決意するかのように間を空けて、黒い瞳が僕を見つめる。
なぜだろう。嫌な感じがする。見慣れたはずの兄の顔が、どこか他人のように感じられた。
「……兄さん?」
不安になって呼びかければ、兄が顔をしかめた。
「じゃあ、あやかしは?」
今度こそ、僕は絶句する。この兄は真面目な顔でなにを言っているのか。黙り込む僕に、兄はなおも言い募る。
「妖怪と言った方がわかりやすいか? とにかく、そういうものの存在を信じるか?」
たっぷりと間を置いて、僕は首を横に振った。そして同時に悟った。
深刻な雰囲気を醸し出すから何事かと思えば。
どうやら、兄も退屈で仕方がないらしい。僕のことを暇人だと揶揄するが、それは兄も一緒だったのだ。それならば、そうだと素直に言えばいいのに。わざわざこんな回りくどい方法を取らなくても、話相手くらいはしてやるのに。……いや、たぶん普通に言われても軽くあしらって終わりだろう。
兄にこんな面倒なやり方を取らせてちょっとだけ申し訳ないと思い、僕は仕切り直そうと咳払いをした。
「……暇なら、一緒にゲームでもする?」
「いや、暇ではないな」
精一杯の譲歩をあっさり拒否されて落ち込んだのは内緒だ。せっかく僕が気をつかってやったのに。むっとして口を閉じれば、兄が背筋を伸ばした。まだなにか言いたいことがあるのだろうか。
「俺は、おまえに言わなければならないことがある」
「なんだよ」
遊んでないで勉強しろとでも言うつもりか。大学三年のくせになにもせずふらふらしている兄にだけは言われたくない。あんたの小言は聞きたくないと視線を逸らせば、「優斗」と咎めるような声が届いた。
「すごく、大事な話なんだ」
「だからなんだよ。早くして」
だんだんと苛立ってきて、そんな棘のある言い方となる。
だが、兄は気にしなかったようだ。ちょっと強く言い過ぎたかな。けれども、そんな小さな後悔は、次に発せられた兄の言葉ですぐに打ち消えた。
「俺は、おまえの兄じゃない」
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