38 / 62
38 口止め
しおりを挟む
「ち、違います」
「リア様ですよね?」
「いいえ違います。僕はリアムです」
僕を凝視していた副団長ギルは、ようやく僕を解放してくれた。ギロッと睨まれたザックが姿勢を正している。
「どういうことか説明していただけますか?」
腕を組んだギルが、僕を見据えてくる。
説明なんてしたくない。というか僕はリアだと認めたわけではない。いやリアなんだけどさ。まだ足掻くぞ?
「ですから。僕は事務官のリアムです。誰かとお間違えでは?」
うるさい心臓をなんとか宥めて平静を装う。ゆるく首を振ってやれやれと呆れてみせれば、ギルが眉を寄せた。
「結局、昨日の店で揉めていた男は殿下には秘密のセフレってことでいいんでしたっけ?」
「違うから! 過去のね、過去。今はもう無関係だから」
なんてことを言うのか。万が一エドワードにバレたら怒られるどころじゃ済まないぞ、まったく。
「……馬鹿」
「はぁ⁉︎」
なにやらザックが僕を罵倒した。反射的に凄んで気がついた。
「あ」
今のは僕がリアだと白状したようなものだ。
慌てて口を閉じて、にこりと笑ってみる。だが当然ながら誤魔化せなかった。「誤魔化すのが下手ですね」とわかったような口を利いたギルが苦い顔をする。
「一体どうしてこんなことに」
盛大にため息をついたギルは、ザックに責めるような視線を送っている。軽く両手を上げて降参ポーズをしているザックは困ったように眉尻を下げている。
しかしこれは大変な事態だ。まさかこんなあっさりバレるとは思っていなかった。
なんとかせねば。
もはやここから誤魔化すのは無理だろう。だとすれば口止めしかない。
「副団長!」
嫌な顔をするギルは、なぜか僕から距離を取り始める。それに負けじと詰め寄れば、ますます嫌な顔をされた。失礼だろ。
「エドワードには黙っててください!」
副団長は潔癖というか、融通が利かないというか。そんな感じの男なので下手に色仕掛けなんてすると嫌悪される可能性がある。そうすると優秀な騎士である彼はすぐさまエドワードに報告に行きそうな気がする。ここは素直に、直球でお願いしよう。
「無理です」
すげなく却下してきた副団長。ここで引き下がるわけにはいかない。
「そこをなんとか!」
「無理ですよ。私の仕事知っていますか? 殿下を裏切るわけにはまいりません」
「そんな大袈裟な」
ちょっとエドワードに黙っておいてほしいだけである。裏切りとかそんな大層な話ではない。だがギルのプライド?的に許せないらしい。やはり潔癖っぽいな。面倒だ。
こういう面倒な男の扱い方は心得ている。今まで僕がどれだけの男を手玉にとってきたと思っているのか。舐めないでもらいたい。
こういう潔癖な男は、ようは筋を通すと主張すればよいのだ。
「バレてしまったら仕方がない。本当はこのまま隠し通したいけど無理そうだね」
「諦めていただけましたか」
「でもエドワードは本当になにも知らないんだよ。僕のことを無職のヒモだと思ってるから。リアムって偽名で働いてること知らないんだ」
眉を寄せるギル。よしよし、勝負はここからだ。
「だからさ。エドワードには僕の方から言っておくよ。だから黙っててくれない? 僕が自分で言いたいんだ」
上目遣いでお願いすれば、ギルがぐっと言葉を飲み込むような仕草をした。
「確かに。殿下にはリア様ご自身でお伝えになる方がよろしいでしょうね」
そうだろう。考えるように腕を組んだギルは、「本当に全部正直に伝えますか?」と疑いの目を向けてくる。頑張れ僕! もうひと押しだ!
精一杯にしおらしい表情を作って俯く。
「もちろん。だってもう副団長にはバレちゃったし。隠し通すのは無理でしょ?」
「……そうですね」
小さく頷いたギルは「くれぐれもお願いしますよ」と念押ししてくる。
「近いうちにちゃんと言うから」
「近いうちって。今からでも言うべきでは?」
「いきなり言ったらエドワードがびっくりしちゃう」
「そりゃあ殿下は驚かれるでしょうが」
「時機をみて、僕からお伝えします」
だから任せて欲しいとお願いすれば、ギルは渋々ながらも納得してくれた。よかった。先延ばし作戦成功だ。頑張ったぞ、僕。
なにやらザックが冷たい目でこちらをみている気がする。頼むから余計なことは言ってくれるなよ。
「リア様ですよね?」
「いいえ違います。僕はリアムです」
僕を凝視していた副団長ギルは、ようやく僕を解放してくれた。ギロッと睨まれたザックが姿勢を正している。
「どういうことか説明していただけますか?」
腕を組んだギルが、僕を見据えてくる。
説明なんてしたくない。というか僕はリアだと認めたわけではない。いやリアなんだけどさ。まだ足掻くぞ?
「ですから。僕は事務官のリアムです。誰かとお間違えでは?」
うるさい心臓をなんとか宥めて平静を装う。ゆるく首を振ってやれやれと呆れてみせれば、ギルが眉を寄せた。
「結局、昨日の店で揉めていた男は殿下には秘密のセフレってことでいいんでしたっけ?」
「違うから! 過去のね、過去。今はもう無関係だから」
なんてことを言うのか。万が一エドワードにバレたら怒られるどころじゃ済まないぞ、まったく。
「……馬鹿」
「はぁ⁉︎」
なにやらザックが僕を罵倒した。反射的に凄んで気がついた。
「あ」
今のは僕がリアだと白状したようなものだ。
慌てて口を閉じて、にこりと笑ってみる。だが当然ながら誤魔化せなかった。「誤魔化すのが下手ですね」とわかったような口を利いたギルが苦い顔をする。
「一体どうしてこんなことに」
盛大にため息をついたギルは、ザックに責めるような視線を送っている。軽く両手を上げて降参ポーズをしているザックは困ったように眉尻を下げている。
しかしこれは大変な事態だ。まさかこんなあっさりバレるとは思っていなかった。
なんとかせねば。
もはやここから誤魔化すのは無理だろう。だとすれば口止めしかない。
「副団長!」
嫌な顔をするギルは、なぜか僕から距離を取り始める。それに負けじと詰め寄れば、ますます嫌な顔をされた。失礼だろ。
「エドワードには黙っててください!」
副団長は潔癖というか、融通が利かないというか。そんな感じの男なので下手に色仕掛けなんてすると嫌悪される可能性がある。そうすると優秀な騎士である彼はすぐさまエドワードに報告に行きそうな気がする。ここは素直に、直球でお願いしよう。
「無理です」
すげなく却下してきた副団長。ここで引き下がるわけにはいかない。
「そこをなんとか!」
「無理ですよ。私の仕事知っていますか? 殿下を裏切るわけにはまいりません」
「そんな大袈裟な」
ちょっとエドワードに黙っておいてほしいだけである。裏切りとかそんな大層な話ではない。だがギルのプライド?的に許せないらしい。やはり潔癖っぽいな。面倒だ。
こういう面倒な男の扱い方は心得ている。今まで僕がどれだけの男を手玉にとってきたと思っているのか。舐めないでもらいたい。
こういう潔癖な男は、ようは筋を通すと主張すればよいのだ。
「バレてしまったら仕方がない。本当はこのまま隠し通したいけど無理そうだね」
「諦めていただけましたか」
「でもエドワードは本当になにも知らないんだよ。僕のことを無職のヒモだと思ってるから。リアムって偽名で働いてること知らないんだ」
眉を寄せるギル。よしよし、勝負はここからだ。
「だからさ。エドワードには僕の方から言っておくよ。だから黙っててくれない? 僕が自分で言いたいんだ」
上目遣いでお願いすれば、ギルがぐっと言葉を飲み込むような仕草をした。
「確かに。殿下にはリア様ご自身でお伝えになる方がよろしいでしょうね」
そうだろう。考えるように腕を組んだギルは、「本当に全部正直に伝えますか?」と疑いの目を向けてくる。頑張れ僕! もうひと押しだ!
精一杯にしおらしい表情を作って俯く。
「もちろん。だってもう副団長にはバレちゃったし。隠し通すのは無理でしょ?」
「……そうですね」
小さく頷いたギルは「くれぐれもお願いしますよ」と念押ししてくる。
「近いうちにちゃんと言うから」
「近いうちって。今からでも言うべきでは?」
「いきなり言ったらエドワードがびっくりしちゃう」
「そりゃあ殿下は驚かれるでしょうが」
「時機をみて、僕からお伝えします」
だから任せて欲しいとお願いすれば、ギルは渋々ながらも納得してくれた。よかった。先延ばし作戦成功だ。頑張ったぞ、僕。
なにやらザックが冷たい目でこちらをみている気がする。頼むから余計なことは言ってくれるなよ。
146
お気に入りに追加
1,325
あなたにおすすめの小説
パン屋の僕の勘違い【完】
おはぎ
BL
パン屋を営むミランは、毎朝、騎士団のためのパンを取りに来る副団長に恋心を抱いていた。だが、自分が空いてにされるはずないと、その気持ちに蓋をする日々。仲良くなった騎士のキトラと祭りに行くことになり、楽しみに出掛けた先で……。
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
気付いたらストーカーに外堀を埋められて溺愛包囲網が出来上がっていた話
上総啓
BL
何をするにもゆっくりになってしまうスローペースな会社員、マオ。小柄でぽわぽわしているマオは、最近できたストーカーに頭を悩ませていた。
と言っても何か悪いことがあるわけでもなく、ご飯を作ってくれたり掃除してくれたりという、割とありがたい被害ばかり。
動きが遅く家事に余裕がないマオにとっては、この上なく優しいストーカーだった。
通報する理由もないので全て受け入れていたら、あれ?と思う間もなく外堀を埋められていた。そんなぽややんスローペース受けの話
ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話
かし子
BL
貴族が絶対的な力を持つ世界で、平民以下の「獣人」として生きていた子。友達は路地裏で拾った虎のぬいぐるみだけ。人に見つかればすぐに殺されてしまうから日々隠れながら生きる獣人はある夜、貴族に拾われる。
「やっと見つけた。」
サクッと読める王道物語です。
(今のところBL未満)
よければぜひ!
【12/9まで毎日更新】→12/10まで延長
配信ボタン切り忘れて…苦手だった歌い手に囲われました!?お、俺は彼女が欲しいかな!!
ふわりんしず。
BL
晒し系配信者が配信ボタンを切り忘れて
素の性格がリスナー全員にバレてしまう
しかも苦手な歌い手に外堀を埋められて…
■
□
■
歌い手配信者(中身は腹黒)
×
晒し系配信者(中身は不憫系男子)
保険でR15付けてます
「陛下を誑かしたのはこの身体か!」って言われてエッチなポーズを沢山とらされました。もうお婿にいけないから責任を取って下さい!
うずみどり
BL
突発的に異世界転移をした男子高校生がバスローブ姿で縛られて近衛隊長にあちこち弄られていいようにされちゃう話です。
ほぼ全編エロで言葉責め。
無理矢理だけど痛くはないです。
愛されて守られる司書は自覚がない【完】
おはぎ
BL
王宮図書館で働く司書のユンには可愛くて社交的な親友のレーテルがいる。ユンに近付く人はみんなレーテルを好きになるため、期待することも少なくなった中、騎士団部隊の隊長であるカイトと接する機会を経て惹かれてしまう。しかし、ユンには気を遣って優しい口調で話し掛けてくれるのに対して、レーテルには砕けた口調で軽口を叩き合う姿を見て……。
騎士団第1部隊隊長カイト×無自覚司書ユン
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる