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3 仕事のやり方
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「暇だなぁ」
「暇ならちょっとは手伝ってよ。てかそもそも君の仕事だろ」
昼休み。
昼食のため経理部はめっきり人が居なくなる。ジェシーはいつも仲のいい同僚を誘って食堂に行く。他の面々も息抜きに外へ行く。こんな書類の山に囲まれた陰湿な部屋に長居するのは気が滅入るのだろう。
ムードもへったくれもない寂れた部屋に、ルースがなにやら書き付ける音だけが響く。彼がやっているのは先程ジェシーが僕に押し付けてきた仕事だ。
「今日もルースは残業かな。お疲れ」
「いや誰のせいだと」
「もしかして僕のせい?」
「そりゃあーー」
そうだろう。
音にならなかった言葉を飲み込んで、ルースが目を見開く。かさついた感触の唇から顔をそっと離せば、可哀想なくらいに顔を真っ赤にしたルースがわたわたと手を振っていた。
「な、なにして」
「なにって、キス」
ふふっと微笑んでやれば、耐えきれなくなったルースが顔を俯けてしまう。うぶだなぁ。実に扱いやすい。
不正に近い手段で採用された僕は、当然ながら仕事ができない。いままで適当に引っ掛けてきた男共に養ってもらっていたのでマジで仕事ができない。
しかし王宮事務官として不自然ではない程度には仕事をこなさなければならない。クビになったら意味がないからな。そこで思いついたのは、僕の代わりに仕事をやってくれる奴を見つけ出すことだった。それがルースだ。見るからに童貞っぽいルースはチョロかった。ちょっと素顔を見せてやってキスのひとつでもしてやればあっさり落ちた。
「お仕事がんばってね」
可愛くウインクしてやればあとは心配いらない。僕の仕事はルースがうまく片付けてくれるだろう。
※※※
「今日はなにしてたんだ」
「買い物?」
「なにを買ったんだ」
「ううん、なにも。見ただけ」
そうか、と短く応じてエドワードはベッドに腰掛ける。
仕事を全部まるっとルースに押し付けて定時で帰ってきた僕は、その足で王宮内の殿下の部屋にやって来ていた。もちろん、途中で着替えて髪もきっちり整えた美男子スタイルである。
「朝は随分急いで帰ったらしいな。なにか予定でもあったのか」
仕事です、なんて口が裂けても言えない。
曖昧に笑って誤魔化して、殿下の隣に腰掛ける。男らしい骨ばった手をするりと撫でて、肩にしなだれかかる。首筋に触れられて、その手の冷たさに思わず小さく声が漏れる。
「なぁ、リア」
「ん?」
エドワードが両手で僕の頬を包むようにして上を向かせる。青い瞳に吸い込まれるように視線が絡め取られる。
「ここに住まないか?」
「……ん?」
住む? 絶対無理。
しかしエドワードは本気らしい。毎日通うのは大変だろうとか、僕の身の安全が心配だとかもっともらしい理由を並べ立てる。それを愛想笑いで聞き流して、どうにか話題をそらせようと頭を働かせる。
王宮に住むなんて冗談じゃない。
そこまでエドワードに依存したら、将来彼に捨てられた時に大変困ったことになる。
それに王宮内だと他の男を引っ掛けられない。僕の金づるはエドワードだけじゃないんだぞ。
「んっと、そこまではちょっと。僕も色々やりたいことあるし」
「そうか。無理強いはしない。気が向いたら言ってくれ」
「うん、ありがと」
真正面から抱きしめられる。そのまま柔らかなベッドに押し倒される。抵抗する気はないが、されるがままというのも面白くない。分厚い胸板をちょっと押せば、あっという間に腕を掴まれる。
「殿下」
「名前で呼んで」
「っ、エドワード」
「リア」
貪るようなキスに、お互い息が上がる。まだ夕食食べてないんだけど、という文句は飲み込んでおく。
首に手をまわせば、エドワードがくすりと笑った。
「積極的だな?」
「僕はいつも積極的だけど」
首筋にキスが降ってくる。跡はつけて欲しくないなぁなんて考えながらも身を委ねた。
「暇ならちょっとは手伝ってよ。てかそもそも君の仕事だろ」
昼休み。
昼食のため経理部はめっきり人が居なくなる。ジェシーはいつも仲のいい同僚を誘って食堂に行く。他の面々も息抜きに外へ行く。こんな書類の山に囲まれた陰湿な部屋に長居するのは気が滅入るのだろう。
ムードもへったくれもない寂れた部屋に、ルースがなにやら書き付ける音だけが響く。彼がやっているのは先程ジェシーが僕に押し付けてきた仕事だ。
「今日もルースは残業かな。お疲れ」
「いや誰のせいだと」
「もしかして僕のせい?」
「そりゃあーー」
そうだろう。
音にならなかった言葉を飲み込んで、ルースが目を見開く。かさついた感触の唇から顔をそっと離せば、可哀想なくらいに顔を真っ赤にしたルースがわたわたと手を振っていた。
「な、なにして」
「なにって、キス」
ふふっと微笑んでやれば、耐えきれなくなったルースが顔を俯けてしまう。うぶだなぁ。実に扱いやすい。
不正に近い手段で採用された僕は、当然ながら仕事ができない。いままで適当に引っ掛けてきた男共に養ってもらっていたのでマジで仕事ができない。
しかし王宮事務官として不自然ではない程度には仕事をこなさなければならない。クビになったら意味がないからな。そこで思いついたのは、僕の代わりに仕事をやってくれる奴を見つけ出すことだった。それがルースだ。見るからに童貞っぽいルースはチョロかった。ちょっと素顔を見せてやってキスのひとつでもしてやればあっさり落ちた。
「お仕事がんばってね」
可愛くウインクしてやればあとは心配いらない。僕の仕事はルースがうまく片付けてくれるだろう。
※※※
「今日はなにしてたんだ」
「買い物?」
「なにを買ったんだ」
「ううん、なにも。見ただけ」
そうか、と短く応じてエドワードはベッドに腰掛ける。
仕事を全部まるっとルースに押し付けて定時で帰ってきた僕は、その足で王宮内の殿下の部屋にやって来ていた。もちろん、途中で着替えて髪もきっちり整えた美男子スタイルである。
「朝は随分急いで帰ったらしいな。なにか予定でもあったのか」
仕事です、なんて口が裂けても言えない。
曖昧に笑って誤魔化して、殿下の隣に腰掛ける。男らしい骨ばった手をするりと撫でて、肩にしなだれかかる。首筋に触れられて、その手の冷たさに思わず小さく声が漏れる。
「なぁ、リア」
「ん?」
エドワードが両手で僕の頬を包むようにして上を向かせる。青い瞳に吸い込まれるように視線が絡め取られる。
「ここに住まないか?」
「……ん?」
住む? 絶対無理。
しかしエドワードは本気らしい。毎日通うのは大変だろうとか、僕の身の安全が心配だとかもっともらしい理由を並べ立てる。それを愛想笑いで聞き流して、どうにか話題をそらせようと頭を働かせる。
王宮に住むなんて冗談じゃない。
そこまでエドワードに依存したら、将来彼に捨てられた時に大変困ったことになる。
それに王宮内だと他の男を引っ掛けられない。僕の金づるはエドワードだけじゃないんだぞ。
「んっと、そこまではちょっと。僕も色々やりたいことあるし」
「そうか。無理強いはしない。気が向いたら言ってくれ」
「うん、ありがと」
真正面から抱きしめられる。そのまま柔らかなベッドに押し倒される。抵抗する気はないが、されるがままというのも面白くない。分厚い胸板をちょっと押せば、あっという間に腕を掴まれる。
「殿下」
「名前で呼んで」
「っ、エドワード」
「リア」
貪るようなキスに、お互い息が上がる。まだ夕食食べてないんだけど、という文句は飲み込んでおく。
首に手をまわせば、エドワードがくすりと笑った。
「積極的だな?」
「僕はいつも積極的だけど」
首筋にキスが降ってくる。跡はつけて欲しくないなぁなんて考えながらも身を委ねた。
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