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2 すべての始まり
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だが来てしまったものは仕方がない。こういう異世界転移ものは元の世界に帰ることはできないと相場が決まっている。おそらくなんらかのアクシデントで、俺がそこの女子高校生の召喚に巻き込まれてしまったのだろう。人生一の災難だよ。
せめてこの世界の人たちに人の心がありますようにと願うばかりだ。ものによっては奴隷同然の扱いをされたり、酷ければここで切り捨てられる可能性もある。
どうか、どうかこの世界の方たちが「なんてことだ! まったくの一般人を巻き込んでしまった。こちらの不手際で申し訳ない。お詫びといってはなんですが生活は保証いたします」的なことを言ってくれますように。てか言わせる。じゃないと俺の命が危ない。
こっそりと決意を固めた俺は、目の前の男共を見据える。見たところ現代と変わらぬ人間たちである。獣人とかそんなファンタジーな存在は見あたらない。いや召喚術とか十分ファンタジーだけどさ。
とりあえず悲劇の主人公っぽく泣き落としでもしてみるか。良心に訴えれば彼らも俺のことを哀れに思ってくれるに違いない。
一応、演技の仕事をしたこともある。嘘泣きも多分できる。見よ、俺の演技力! と意気込んだのも束の間。
男たちに囲まれて護衛されていた女子高校生が「うそ」と小さく呟いた。どうやらようやく俺の存在に気がついてくれたらしい。いいぞ、そこの女子高校生さん。君は俺の味方をしてくれると信じている。見たところ君は非常に大事に扱われているっぽい。初見で「貴様」呼ばわりされた俺とは違う。
さぁ、今から悲劇の主人公を演じてみせる! 女子高校生さんもできれば俺の味方してくれ。
と、残りのピザを口に全部突っ込んでもぐもぐしていた時。ついに事件は起きてしまった。
女子高校生が絹を裂くような悲鳴を上げたのだ。
すごくびっくりした。ピザを喉に詰まらせるかと思った。異世界に来て死因がピザによる窒息死になるところだった。いくらなんでもダサすぎるって。せめてドラゴンや魔王にやられたくらいにしてもらわないと。ピザて。
これに慌てたのは俺だけではなかった。
異世界住民さんたちも慌てふためいた。彼らは咄嗟に俺へと剣を向けた。なぜだよ。いや、わからなくもないけどね? この場においてイレギュラーな存在は俺だけだもんね。でもパジャマ姿でピザ食ってる平凡男子のどこにそんな危険性を見出したんか?
殺されてはたまらない。素早く両手を上げて降参ポーズをとった俺に、異世界住民さんたちはいまだに剣を突きつけてくる。
それを止めたのは女子高校生さんだった。
「やめてください!」
ようやくなんか召喚された聖女っぽいセリフを吐いた女子高校生さんは、近くにいた偉そうな騎士っぽい人に剣を下ろすよう懇願している。なんて優しい子。こんな異世界召喚とかいうわけわからん状況の中、平気な顔でピザ食ってる怪しげな成人男性を助けに入るなんて。なんていい子。俺は感動した。これがあれか。異世界に召喚される女子高校生の持ち合わせる優しさというものなのか。
しかしここからちょっと風向きが怪しくなった。
女子高校生の懇願に、男たちは優しい声で「ですが聖女様」と言い返している。俺に対するのと明らかに声色が違う。やはりあの子が聖女か。
その様子を降参ポーズのまま黙って見守っていたのだが、くるりと聖女が俺の方へと向き直った。そして視線があったその瞬間「あ、無理! やばい本物!」とテンション高めの小声が響いた。
ん? なんかこれはあれだな。どこかで見覚えのある反応だな。
首を捻る俺に、微妙に視線を外した聖女が「あの!」と問いかけてくる。
「……はい」
「ひぃいいい!」
やばい喋った! と顔を覆った聖女はジタバタと慌ただしい動きをみせる。なんだろう。すごく覚えのある反応だ。俺の中にひとつの可能性がむくむくと湧き上がる。そしてそれは次の瞬間、確信へと変わった。
「あ、あの! カミ様ですよね」
カミ様。その言葉を聞いた瞬間、俺の中の仕事スイッチがカチンと入った。
「ミナトって呼んでね?」
パチンとウインクを飛ばしてにっこり微笑む。もはやお決まりのやり取りだ。一体何度繰り返してきたことか。
きゃあ! と黄色い悲鳴をあげる聖女は間違いなく俺のファンの子だった。
荒神湊。通称カミ様。絶賛活躍中の大人気アイドルとは俺のことである。
せめてこの世界の人たちに人の心がありますようにと願うばかりだ。ものによっては奴隷同然の扱いをされたり、酷ければここで切り捨てられる可能性もある。
どうか、どうかこの世界の方たちが「なんてことだ! まったくの一般人を巻き込んでしまった。こちらの不手際で申し訳ない。お詫びといってはなんですが生活は保証いたします」的なことを言ってくれますように。てか言わせる。じゃないと俺の命が危ない。
こっそりと決意を固めた俺は、目の前の男共を見据える。見たところ現代と変わらぬ人間たちである。獣人とかそんなファンタジーな存在は見あたらない。いや召喚術とか十分ファンタジーだけどさ。
とりあえず悲劇の主人公っぽく泣き落としでもしてみるか。良心に訴えれば彼らも俺のことを哀れに思ってくれるに違いない。
一応、演技の仕事をしたこともある。嘘泣きも多分できる。見よ、俺の演技力! と意気込んだのも束の間。
男たちに囲まれて護衛されていた女子高校生が「うそ」と小さく呟いた。どうやらようやく俺の存在に気がついてくれたらしい。いいぞ、そこの女子高校生さん。君は俺の味方をしてくれると信じている。見たところ君は非常に大事に扱われているっぽい。初見で「貴様」呼ばわりされた俺とは違う。
さぁ、今から悲劇の主人公を演じてみせる! 女子高校生さんもできれば俺の味方してくれ。
と、残りのピザを口に全部突っ込んでもぐもぐしていた時。ついに事件は起きてしまった。
女子高校生が絹を裂くような悲鳴を上げたのだ。
すごくびっくりした。ピザを喉に詰まらせるかと思った。異世界に来て死因がピザによる窒息死になるところだった。いくらなんでもダサすぎるって。せめてドラゴンや魔王にやられたくらいにしてもらわないと。ピザて。
これに慌てたのは俺だけではなかった。
異世界住民さんたちも慌てふためいた。彼らは咄嗟に俺へと剣を向けた。なぜだよ。いや、わからなくもないけどね? この場においてイレギュラーな存在は俺だけだもんね。でもパジャマ姿でピザ食ってる平凡男子のどこにそんな危険性を見出したんか?
殺されてはたまらない。素早く両手を上げて降参ポーズをとった俺に、異世界住民さんたちはいまだに剣を突きつけてくる。
それを止めたのは女子高校生さんだった。
「やめてください!」
ようやくなんか召喚された聖女っぽいセリフを吐いた女子高校生さんは、近くにいた偉そうな騎士っぽい人に剣を下ろすよう懇願している。なんて優しい子。こんな異世界召喚とかいうわけわからん状況の中、平気な顔でピザ食ってる怪しげな成人男性を助けに入るなんて。なんていい子。俺は感動した。これがあれか。異世界に召喚される女子高校生の持ち合わせる優しさというものなのか。
しかしここからちょっと風向きが怪しくなった。
女子高校生の懇願に、男たちは優しい声で「ですが聖女様」と言い返している。俺に対するのと明らかに声色が違う。やはりあの子が聖女か。
その様子を降参ポーズのまま黙って見守っていたのだが、くるりと聖女が俺の方へと向き直った。そして視線があったその瞬間「あ、無理! やばい本物!」とテンション高めの小声が響いた。
ん? なんかこれはあれだな。どこかで見覚えのある反応だな。
首を捻る俺に、微妙に視線を外した聖女が「あの!」と問いかけてくる。
「……はい」
「ひぃいいい!」
やばい喋った! と顔を覆った聖女はジタバタと慌ただしい動きをみせる。なんだろう。すごく覚えのある反応だ。俺の中にひとつの可能性がむくむくと湧き上がる。そしてそれは次の瞬間、確信へと変わった。
「あ、あの! カミ様ですよね」
カミ様。その言葉を聞いた瞬間、俺の中の仕事スイッチがカチンと入った。
「ミナトって呼んでね?」
パチンとウインクを飛ばしてにっこり微笑む。もはやお決まりのやり取りだ。一体何度繰り返してきたことか。
きゃあ! と黄色い悲鳴をあげる聖女は間違いなく俺のファンの子だった。
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