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120 励まし

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「お兄様が破滅しないように頑張って見張るよ。ロルフも手伝ってね」

 今日も今日とて破滅回避のために頑張っているぼく。はいはいとやる気のない返事をするロルフにはあんまり期待できないかもしれない。

 先日。
 リオラお兄様にライアンとリッキーがお付き合いしているとうっかり教えてしまった。

 だが、そこから特に怪しい動きはない。
 オルコット公爵家は実に平和である。だが油断はできないのだ。ぼくの目の届かないところでリッキーに陰湿な嫌がらせしてるかもしれない。お兄様を止められるのは、事情を知っているぼくしかいない。

 そうして気合いを入れ直すぼくであったが、四六時中リオラお兄様のことばかり考えるわけにもいかない。ぼくだって忙しいのだ。

「ノエルお兄さん。こんちは」
「こんにちは」

 やって来たノエルの相手をしなければならない。
 リオラお兄様は、ぼくがノエルと遊んでいて満足しているらしい。優しいお兄さんが遊んでくれてよかったねと嬉しそうにしていた。

 確かにノエルは優しいけど。時折びっくりするようなことをする。だからあまり油断はできないのだ。

「あのね、ノエルお兄さん」
「ん? なんですか?」
「リオラお兄様ね。この前失恋したの。だから優しくしてあげてね」

 とりあえずノエルがお兄様の地雷を踏まないように先回りしておかなければ。
 こそこそと耳打ちすれば、ロルフが「あぁ! ちょっとアル様。それはあまり言いふらさない方が」とあわあわしている。

 ちょっぴり眉を寄せたノエルは、「リオラ様が失恋ですか」と深く頷く。あまり深く突っ込んでこないノエルは、腕を組んでぼくを見下ろした。

「でも具体的にはどう優しくすればいいんですか?」
「……励ます?」
「なるほど」

 真剣な顔のノエルは、「わかりました!」と大声を出した。ロルフがひとりで大慌てしている。

「では次にお会いした時にでも励ましておきます」
「お願いしまぁす」

 ノエルは優しいから大丈夫だろう。もしかしてここからお兄様との恋愛に発展したりして。

 でも歳の差がなぁ。ノエルはしっかりしているけど、それは十歳にしてはというだけであって、リオラお兄様と比べるとまだまだお子様。この二人が恋人になるのは多分むり。

 こうなったらジョナスに頑張ってもらうしかないかも。でもジョナスの気持ちは謎。いつもリオラお兄様のそばに居るけど、それだけ。特にリオラお兄様と仲が良いという話は聞かないし、原作でも特に目立った動きはなかった。

「ノエルお兄さん。お庭をお散歩します」
「いいですよ」

 にこやかに応じるノエルと連れ立って、庭を目指す。ロルフも一緒に廊下を歩いていると、前方からリオラお兄様がやって来た。なんてタイミング。早速お兄様を励ますチャンスだ。

 ロルフが「しまった!」と絶望している意味はわからない。でもロルフの行動はいつも謎なので気にしないでおく。

「お兄様ぁ!」

 ぶんぶん手を振れば、リオラお兄様が「やぁ」と寄ってくる。ノエルに「いつもアルと遊んでくれてありがとう」と優しく声をかけるお兄様に、ノエルが「仕事ですから」と素っ気なく返す。

 ぼくと遊ぶのお仕事なの?

 びっくりしてノエルを見つめれば、「なんですか?」と首を捻られてしまった。でもそうか。ノエルはお兄様に頼まれてぼくと遊んでいるんだもんな。よく考えたら彼にとってはお仕事なのだろう。

 でもぼくの前でそんなはっきり言う必要ある?
 ノエルは時折びっくりするくらい明け透けな物言いをする。さすが十歳。リオラお兄様も苦笑している。
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