99 / 127
99 無茶振り
しおりを挟む
「俺のことは置いておいて。どういったご用件で?」
こほんと咳払いをしたライアンは、すごく疲れた顔をしていた。ぼくの言葉を疑わないお母様は「どうでもいいですが。アルにおかしなことを教えないでくれる?」と、ライアンに鋭い目を向けている。
教えていませんよ、と慌てて否定するライアンはどうにか話を元に戻そうと苦労している。
口を挟む隙がないので、ぼくは空気を読んでにこにこしておいた。お母様が「可哀想にねぇ、アル。ライアンの言うことを真に受けたらダメよ?」と言うので、「はーい」とお返事しておいた。それにライアンが絶望したような表情をみせる。
「まあいいわ。それよりライアン。あなたちょっとお喋りする鳥を捕まえてきてくれる?」
「……はい?」
予想外の頼みだったのだろう。
目を見開いたライアンがお母様に聞き返している。
「アルがね。お喋りする鳥がほしいと言うのよ。こんなに可愛い息子の頼みですもの。どうにか叶えてやりたいと思うのが母親というものでしょう?」
「……え?」
意味がわからないと言わんばかりに、ライアンがお母様とぼくを見比べる。
「お喋りする鳥さん。お願いします」
ぺこっと頭を下げておけば、ライアンが眉間を押さえた。その難しい表情に、お母様が「明日までにお願いね」とさらなる無茶を重ねている。
明日はさすがに無理じゃない?
ライアンもそう思ったのだろう。「いくらなんでも明日は」と控えめに抗議している。
「そもそもそのお喋りする鳥とやらはどこにいるものなのですか?」
「さぁ? 私に訊かれても」
穏やかに微笑むお母様は、自身がライアンにとんでもない無茶振りしているという自覚はないのだろうか。ちょっぴりライアンが可哀想である。元はと言えば、ぼくが鳥さんほしいとわがまま言ったのが原因だしね。
どうにか助け船を出そうと考えるが、いい言葉が思いつかない。ぼくから話題を出した手前、やっぱりいらないですとは言い難い。というか、お喋りする鳥さんは普通にほしい。
うんうん考えていると、先にライアンが口を開いた。
「どうして俺に? 団長に頼んだほうがよろしいのでは?」
ハキハキ物を言うライアンは、ここには居ないガストン団長にすべてを押し付けようとしている。可哀想なガストン団長。でも、ガストン団長は頼りになりそうな見た目をしている。ちょっと顔は怖いけど。
ライアンの提案に、お母様はちょっぴり眉を顰めた。
ぼくとお揃いのブロンドの髪を無意味に触って、ため息を吐く。
「ガストンはちょっと。私、あの人のこと苦手なのよ」
できれば顔も見たくないと言い放つお母様に、今度はライアンが怪訝な顔をした。団長が何かやらかしたのかと心配そうな様子である。
「団長が何か失礼を? でしたら俺から改善するようにと伝えておきますので」
お母様はただでさえ騎士たちと距離がある。これ以上関係を拗らせては面倒だと思ったのだろう。素早く解決策を探るライアンに、お母様は「そう?」と探るような目を向ける。
ガストン団長は職務に忠実な人である。お母様と一緒にいるところはあまり見ない。嫌われるようなことをする隙なんてなかった気がするけど。
ぼくもライアンと一緒になって首を捻っておく。
俺がどうにかしますから、と安請け合いするライアンからは、これ以上騎士団が嫌われてたまるかという強い意志を感じた。副団長として、団長のフォローも仕事のうちだと考えたのかもしれない。
やがて緩く首を左右に振ったお母様はぽつりとこぼした。
「顔がね。ちょっとあの人、顔が怖いでしょう? 私どうにも苦手なのよねぇ」
「それはちょっと。俺にはどうにもできませんね」
遠い目をするライアンは、きっと絶望していた。
「ライアン。どんまい」
とりあえず彼の背中をペシペシ叩いておく。
あれだな。公爵家に仕える騎士ってのも大変だな。
こほんと咳払いをしたライアンは、すごく疲れた顔をしていた。ぼくの言葉を疑わないお母様は「どうでもいいですが。アルにおかしなことを教えないでくれる?」と、ライアンに鋭い目を向けている。
教えていませんよ、と慌てて否定するライアンはどうにか話を元に戻そうと苦労している。
口を挟む隙がないので、ぼくは空気を読んでにこにこしておいた。お母様が「可哀想にねぇ、アル。ライアンの言うことを真に受けたらダメよ?」と言うので、「はーい」とお返事しておいた。それにライアンが絶望したような表情をみせる。
「まあいいわ。それよりライアン。あなたちょっとお喋りする鳥を捕まえてきてくれる?」
「……はい?」
予想外の頼みだったのだろう。
目を見開いたライアンがお母様に聞き返している。
「アルがね。お喋りする鳥がほしいと言うのよ。こんなに可愛い息子の頼みですもの。どうにか叶えてやりたいと思うのが母親というものでしょう?」
「……え?」
意味がわからないと言わんばかりに、ライアンがお母様とぼくを見比べる。
「お喋りする鳥さん。お願いします」
ぺこっと頭を下げておけば、ライアンが眉間を押さえた。その難しい表情に、お母様が「明日までにお願いね」とさらなる無茶を重ねている。
明日はさすがに無理じゃない?
ライアンもそう思ったのだろう。「いくらなんでも明日は」と控えめに抗議している。
「そもそもそのお喋りする鳥とやらはどこにいるものなのですか?」
「さぁ? 私に訊かれても」
穏やかに微笑むお母様は、自身がライアンにとんでもない無茶振りしているという自覚はないのだろうか。ちょっぴりライアンが可哀想である。元はと言えば、ぼくが鳥さんほしいとわがまま言ったのが原因だしね。
どうにか助け船を出そうと考えるが、いい言葉が思いつかない。ぼくから話題を出した手前、やっぱりいらないですとは言い難い。というか、お喋りする鳥さんは普通にほしい。
うんうん考えていると、先にライアンが口を開いた。
「どうして俺に? 団長に頼んだほうがよろしいのでは?」
ハキハキ物を言うライアンは、ここには居ないガストン団長にすべてを押し付けようとしている。可哀想なガストン団長。でも、ガストン団長は頼りになりそうな見た目をしている。ちょっと顔は怖いけど。
ライアンの提案に、お母様はちょっぴり眉を顰めた。
ぼくとお揃いのブロンドの髪を無意味に触って、ため息を吐く。
「ガストンはちょっと。私、あの人のこと苦手なのよ」
できれば顔も見たくないと言い放つお母様に、今度はライアンが怪訝な顔をした。団長が何かやらかしたのかと心配そうな様子である。
「団長が何か失礼を? でしたら俺から改善するようにと伝えておきますので」
お母様はただでさえ騎士たちと距離がある。これ以上関係を拗らせては面倒だと思ったのだろう。素早く解決策を探るライアンに、お母様は「そう?」と探るような目を向ける。
ガストン団長は職務に忠実な人である。お母様と一緒にいるところはあまり見ない。嫌われるようなことをする隙なんてなかった気がするけど。
ぼくもライアンと一緒になって首を捻っておく。
俺がどうにかしますから、と安請け合いするライアンからは、これ以上騎士団が嫌われてたまるかという強い意志を感じた。副団長として、団長のフォローも仕事のうちだと考えたのかもしれない。
やがて緩く首を左右に振ったお母様はぽつりとこぼした。
「顔がね。ちょっとあの人、顔が怖いでしょう? 私どうにも苦手なのよねぇ」
「それはちょっと。俺にはどうにもできませんね」
遠い目をするライアンは、きっと絶望していた。
「ライアン。どんまい」
とりあえず彼の背中をペシペシ叩いておく。
あれだな。公爵家に仕える騎士ってのも大変だな。
414
お気に入りに追加
2,310
あなたにおすすめの小説
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました
西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて…
ほのほのです。
※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。
【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
悪役令息の死ぬ前に
やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」
ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。
彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。
さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。
青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。
「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」
男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる