73 / 88
73 びっくり
しおりを挟む
「ノエルお兄さん。これ可愛いと思いますか?」
リオラお兄様が去った後、ぼくは例の可愛くない置き物をノエルに見せてみた。昨日意地悪ノエルには見せたが、こっちの優しいノエルにはご紹介がまだだった。
変な顔で置き物を凝視したノエルは、やがて困惑気味に「これは何ですか?」と首を捻ってしまう。リオラお兄様いわく、鳥さんらしい。教えてあげれば、ノエルは「違いますよ! 鳥じゃないですよ!」と強めに否定してくる。そこはぼくも同意見。正直、ロルフと一緒に考えたがどう見ても鳥には見えない。
「リオラお兄様は、これ可愛いって言っています」
先程のリオラお兄様の発言を聞いていたノエルは、お兄様が消えた扉に視線を投げている。しかし、すぐに顔をぼくに向けると「リオラ様は変わった趣味をお持ちですね」と苦笑する。
ノエルは賢い子として知られているが、所詮は十歳児。時折びっくりするくらいストレートな物言いをする。原作でもそうだった。普段は良い子なのに、何かきっかけがあれば暴走する。そして主人公であるライアンとリッキーを巻き込んでしまうのだ。
今だって、ぼくから置き物を奪ったノエルは、しげしげと観察を始める。ちょっと重いのだが大丈夫だろうか。うっかり落としはしないだろうかとハラハラ見守っていると、ノエルがどんっと勢いよく置き物をテーブルに置いた。扱い方が雑でびっくり。
「これは可愛くないです。目が怖いですね。もうちょっと笑った顔にした方がいいと思います」
「ふむふむ」
真面目な顔で、置き物の評価をするノエルは、最後に「だからこれは全然ダメです。僕は好きじゃないです。あと鳥でもないと思います」と言い切った。ストレートだな。リオラお兄様が聞いたら泣いちゃうかもしれない。
だが、ノエルは原作小説でもこんな感じだった。基本的には良い子なのだが、場をかき乱すというか何というか。ノエルが登場するたびに、毎度事件が起こっていた。今のノエルには、原作小説で大暴れしていたあの独特な気配を感じる。すごく嫌な予感がする。
置き物の頭をペシペシ叩くノエルは、「これはきっと呪いの人形ですよ」と突拍子もないことを主張し始める。このお子様は一体何を言っているのだろうか。困惑するぼくの隣で、ロルフが必死に笑いを堪えている。
だが、ノエルの暴走は止まらない。ぼくとしては、ようやく本性を見せたかという感じだが、それにしても突っ走りすぎだと思う。突然どうしたというのか。
おそらく、オルコット公爵家に通い始めて時間が経った今、ようやくうちに慣れてきたのだろう。これまでグッと我慢していたものが、置き物をきっかけに出てきたのだと思う。
「これをどうにかした方がいいと思います」
「どうにかって?」
見当もつかないぼくは、ノエルを見上げることしかできない。怯む様子のないノエルは、自信満々に腰に手を当てる。
「処分した方がいいですね」
「リオラお兄様にもらった物なのに?」
「リオラ様も騙されているんですよ。これは絶対に良くない物です。だってそういう顔をしています。不気味です」
それはそうだけど。
置き物を処分すると意気込むノエルに、ぼくは困ってしまう。
リオラお兄様が悲しむから、一応は部屋に飾っておいたほうがいいと思う。確かに不気味ではあるが、実害はないのだから問題はないはずだ。しかし、ノエルは頑なだ。良くない物だと言い張っている。
「僕たちで処分してしまいましょう。見たところ木製なので燃やせば大丈夫ですよ」
何も大丈夫ではない。
物騒なノエルに、ぼくは思わずロルフを視界に入れる。どうにかしてと目線で助けを求めれば、ロルフが咳き込みながら何度も頷いた。どうやら笑いを堪えているうちに咽せてしまったらしい。大丈夫?
リオラお兄様が去った後、ぼくは例の可愛くない置き物をノエルに見せてみた。昨日意地悪ノエルには見せたが、こっちの優しいノエルにはご紹介がまだだった。
変な顔で置き物を凝視したノエルは、やがて困惑気味に「これは何ですか?」と首を捻ってしまう。リオラお兄様いわく、鳥さんらしい。教えてあげれば、ノエルは「違いますよ! 鳥じゃないですよ!」と強めに否定してくる。そこはぼくも同意見。正直、ロルフと一緒に考えたがどう見ても鳥には見えない。
「リオラお兄様は、これ可愛いって言っています」
先程のリオラお兄様の発言を聞いていたノエルは、お兄様が消えた扉に視線を投げている。しかし、すぐに顔をぼくに向けると「リオラ様は変わった趣味をお持ちですね」と苦笑する。
ノエルは賢い子として知られているが、所詮は十歳児。時折びっくりするくらいストレートな物言いをする。原作でもそうだった。普段は良い子なのに、何かきっかけがあれば暴走する。そして主人公であるライアンとリッキーを巻き込んでしまうのだ。
今だって、ぼくから置き物を奪ったノエルは、しげしげと観察を始める。ちょっと重いのだが大丈夫だろうか。うっかり落としはしないだろうかとハラハラ見守っていると、ノエルがどんっと勢いよく置き物をテーブルに置いた。扱い方が雑でびっくり。
「これは可愛くないです。目が怖いですね。もうちょっと笑った顔にした方がいいと思います」
「ふむふむ」
真面目な顔で、置き物の評価をするノエルは、最後に「だからこれは全然ダメです。僕は好きじゃないです。あと鳥でもないと思います」と言い切った。ストレートだな。リオラお兄様が聞いたら泣いちゃうかもしれない。
だが、ノエルは原作小説でもこんな感じだった。基本的には良い子なのだが、場をかき乱すというか何というか。ノエルが登場するたびに、毎度事件が起こっていた。今のノエルには、原作小説で大暴れしていたあの独特な気配を感じる。すごく嫌な予感がする。
置き物の頭をペシペシ叩くノエルは、「これはきっと呪いの人形ですよ」と突拍子もないことを主張し始める。このお子様は一体何を言っているのだろうか。困惑するぼくの隣で、ロルフが必死に笑いを堪えている。
だが、ノエルの暴走は止まらない。ぼくとしては、ようやく本性を見せたかという感じだが、それにしても突っ走りすぎだと思う。突然どうしたというのか。
おそらく、オルコット公爵家に通い始めて時間が経った今、ようやくうちに慣れてきたのだろう。これまでグッと我慢していたものが、置き物をきっかけに出てきたのだと思う。
「これをどうにかした方がいいと思います」
「どうにかって?」
見当もつかないぼくは、ノエルを見上げることしかできない。怯む様子のないノエルは、自信満々に腰に手を当てる。
「処分した方がいいですね」
「リオラお兄様にもらった物なのに?」
「リオラ様も騙されているんですよ。これは絶対に良くない物です。だってそういう顔をしています。不気味です」
それはそうだけど。
置き物を処分すると意気込むノエルに、ぼくは困ってしまう。
リオラお兄様が悲しむから、一応は部屋に飾っておいたほうがいいと思う。確かに不気味ではあるが、実害はないのだから問題はないはずだ。しかし、ノエルは頑なだ。良くない物だと言い張っている。
「僕たちで処分してしまいましょう。見たところ木製なので燃やせば大丈夫ですよ」
何も大丈夫ではない。
物騒なノエルに、ぼくは思わずロルフを視界に入れる。どうにかしてと目線で助けを求めれば、ロルフが咳き込みながら何度も頷いた。どうやら笑いを堪えているうちに咽せてしまったらしい。大丈夫?
609
お気に入りに追加
2,325
あなたにおすすめの小説
私のバラ色ではない人生
野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。
だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。
そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。
ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。
だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、
既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。
ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。
【完結】召喚された勇者は贄として、魔王に美味しく頂かれました
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
美しき異形の魔王×勇者の名目で召喚された生贄、執着激しいヤンデレの愛の行方は?
最初から贄として召喚するなんて、ひどいんじゃないか?
人生に何の不満もなく生きてきた俺は、突然異世界に召喚された。
よくある話なのか? 正直帰りたい。勇者として呼ばれたのに、碌な装備もないまま魔王を鎮める贄として差し出され、美味しく頂かれてしまった。美しい異形の魔王はなぜか俺に執着し、閉じ込めて溺愛し始める。ひたすら優しい魔王に、徐々に俺も絆されていく。もういっか、帰れなくても……。
ハッピーエンド確定
※は性的描写あり
【完結】2021/10/31
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、エブリスタ
2021/10/03 エブリスタ、BLカテゴリー 1位
【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。
airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。
どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。
2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。
ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。
あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて…
あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
賢者様が大好きだからお役に立ちたい〜俺の探査スキルが割と便利だった〜
柴花李
BL
オリンドは疲れていた。生きあぐねていた。見下され馬鹿にされ、なにをしても罵られ、どんなに努力しても結果を出しても認められず。
いつしか思考は停滞し、この艱難辛苦から逃れることだけを求めていた。そんな折、憧れの勇者一行を目にする機会に恵まれる。
凱旋パレードで賑わう街道の端で憧れの人、賢者エウフェリオを一目見たオリンドは、もうこの世に未練は無いと自死を選択した。だが、いざ命を断とうとしたその時、あろうことかエウフェリオに阻止されてしまう。しかもどういう訳だか勇者パーティに勧誘されたのだった。
これまでの人生で身も心も希望も何もかもを萎縮させていたオリンドの、新しく楽しい冒険が始まる。
前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。
夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。
陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。
「お父様!助けてください!
私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません!
お父様ッ!!!!!」
ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。
ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。
しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…?
娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる