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67 疲れてしまう
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朝。
起きるなり窓の外を確認する。天気は晴れ。よしよし。
ひとりで満足するぼくに、ロルフも「晴れてよかったですね」とにこやかに声をかけてくる。特に用事はないが、昨日が雨だったから晴れると嬉しい。
朝食をすませるなり、早速外へと飛び出す。ところどころ地面がぬかるんでいるが遊ぶのに支障はない。大きな水たまりへと一直線に走るぼくのことを、ロルフが大慌てで追いかけてくる。
「水たまりにバシャってしていい?」
「ダメですよ」
「ちょっとだけです」
「ちょっとでもダメです。絶対に」
ロルフの目を盗んで、水たまりに片足を突っ込もうとするが、直前で阻止されてしまう。ぼくの水遊びを邪魔しないでほしい。この水たまりも、いつまであるかわからないというのに。
ぼくの肩を掴んでくるっと向きを変えてくるロルフは、「あっちで遊びましょう」と、玄関を指し示す。
玄関で遊んでもね。楽しくない。ロルフの手をすり抜けて、再び庭へと駆け出す。そうして出鱈目に走っていれば、前方に落ちている白シャツが目に入った。
「ロルフ!」
「なんですか? てか、向こうで遊びましょうって。お洋服汚したらダメですよ」
「シャルお兄さん! 落ちてます!」
「またですか」
半眼になるロルフの手を引いて、ゆっくりお兄さんへと近寄る。いつものように地面にべちゃっとしているお兄さんは、どうやら器用にも乾いた地面を探して倒れているらしい。相変わらず休憩への信念がすごい。こりゃリオラお兄様の恋人にピッタリだ。
「シャルお兄さん、こんちは」
「これはアル様。朝からお元気で」
ぼくはいつでも元気。
朝からぐだっとしているシャルお兄さんは、やる気皆無であった。顔だけを持ち上げようと奮闘したらしいが、途中で諦めた。モジャモジャ髪の毛は、あちこちに跳ねまくっている。
「お兄さん。どうして朝からお疲れですか」
「……うーん。どうしてでしょうか。これも仕事が忙しすぎるせいですね、間違いなく」
仕事やめたい、とぐちぐち言い始めるシャルお兄さんは、どんより暗い空気を纏っている。なんか朝から力が抜ける。一応「お洋服汚れます」と教えてあげるが、「いいんですよ。私の服なんてどうでも」と、どんよりとした声が返ってくる。なんでこんなに卑屈なのだろうか。もっとわくわくした気持ちで生きたほうが、人生楽しいと思う。
ロルフとそっと顔を見合わせる。
シャルお兄さんは、ぼく的にはリオラお兄様の恋人候補として一番良いと思うのだが、リオラお兄様はなかなか強敵だった。なぜかシャルお兄さんのことをガストン団長だと言い張っている。どこからどう見ても別人なのに。モジャモジャ髪の毛で目元の隠れているシャルお兄さんには、やる気がない。いつもふにゃっとしていて、頼りないのだ。一方のガストン団長は、きちんと髪を整えてピシッとしている。たまにぼくのことを冷たい目で見下ろしてくる。騎士団をまとめあげる頼りになる団長さん。
この正反対のふたりが、同一人物だなんて有り得ない。だが、この同一人物説には、ライアンもロルフも賛成している。不思議。
「シャルお兄さん。今日はぼくが一緒に遊んであげまぁす」
「え?」
素っ頓狂な声を発するお兄さんに駆け寄って、だらりと地面に伸びしている手を掴む。そのまま引っ張り上げようと奮闘するのだが、シャルお兄さんは意外と体格がよろしい。五歳のぼくではどうにもできない。
「ロルフ、手伝って。ぼくじゃ力不足です」
「はぁ」
いいですよ、と力なく頷いたロルフは、ぼくと一緒になってシャルお兄さんを引っ張ってくれる。ぼくとロルフがここまで頑張っているというのに、シャルお兄さんは地面に伏せたまま「あー、仕事したくない」とぶつぶつ言っている。
はやく起きなさい。ぼくが疲れるでしょうが。
起きるなり窓の外を確認する。天気は晴れ。よしよし。
ひとりで満足するぼくに、ロルフも「晴れてよかったですね」とにこやかに声をかけてくる。特に用事はないが、昨日が雨だったから晴れると嬉しい。
朝食をすませるなり、早速外へと飛び出す。ところどころ地面がぬかるんでいるが遊ぶのに支障はない。大きな水たまりへと一直線に走るぼくのことを、ロルフが大慌てで追いかけてくる。
「水たまりにバシャってしていい?」
「ダメですよ」
「ちょっとだけです」
「ちょっとでもダメです。絶対に」
ロルフの目を盗んで、水たまりに片足を突っ込もうとするが、直前で阻止されてしまう。ぼくの水遊びを邪魔しないでほしい。この水たまりも、いつまであるかわからないというのに。
ぼくの肩を掴んでくるっと向きを変えてくるロルフは、「あっちで遊びましょう」と、玄関を指し示す。
玄関で遊んでもね。楽しくない。ロルフの手をすり抜けて、再び庭へと駆け出す。そうして出鱈目に走っていれば、前方に落ちている白シャツが目に入った。
「ロルフ!」
「なんですか? てか、向こうで遊びましょうって。お洋服汚したらダメですよ」
「シャルお兄さん! 落ちてます!」
「またですか」
半眼になるロルフの手を引いて、ゆっくりお兄さんへと近寄る。いつものように地面にべちゃっとしているお兄さんは、どうやら器用にも乾いた地面を探して倒れているらしい。相変わらず休憩への信念がすごい。こりゃリオラお兄様の恋人にピッタリだ。
「シャルお兄さん、こんちは」
「これはアル様。朝からお元気で」
ぼくはいつでも元気。
朝からぐだっとしているシャルお兄さんは、やる気皆無であった。顔だけを持ち上げようと奮闘したらしいが、途中で諦めた。モジャモジャ髪の毛は、あちこちに跳ねまくっている。
「お兄さん。どうして朝からお疲れですか」
「……うーん。どうしてでしょうか。これも仕事が忙しすぎるせいですね、間違いなく」
仕事やめたい、とぐちぐち言い始めるシャルお兄さんは、どんより暗い空気を纏っている。なんか朝から力が抜ける。一応「お洋服汚れます」と教えてあげるが、「いいんですよ。私の服なんてどうでも」と、どんよりとした声が返ってくる。なんでこんなに卑屈なのだろうか。もっとわくわくした気持ちで生きたほうが、人生楽しいと思う。
ロルフとそっと顔を見合わせる。
シャルお兄さんは、ぼく的にはリオラお兄様の恋人候補として一番良いと思うのだが、リオラお兄様はなかなか強敵だった。なぜかシャルお兄さんのことをガストン団長だと言い張っている。どこからどう見ても別人なのに。モジャモジャ髪の毛で目元の隠れているシャルお兄さんには、やる気がない。いつもふにゃっとしていて、頼りないのだ。一方のガストン団長は、きちんと髪を整えてピシッとしている。たまにぼくのことを冷たい目で見下ろしてくる。騎士団をまとめあげる頼りになる団長さん。
この正反対のふたりが、同一人物だなんて有り得ない。だが、この同一人物説には、ライアンもロルフも賛成している。不思議。
「シャルお兄さん。今日はぼくが一緒に遊んであげまぁす」
「え?」
素っ頓狂な声を発するお兄さんに駆け寄って、だらりと地面に伸びしている手を掴む。そのまま引っ張り上げようと奮闘するのだが、シャルお兄さんは意外と体格がよろしい。五歳のぼくではどうにもできない。
「ロルフ、手伝って。ぼくじゃ力不足です」
「はぁ」
いいですよ、と力なく頷いたロルフは、ぼくと一緒になってシャルお兄さんを引っ張ってくれる。ぼくとロルフがここまで頑張っているというのに、シャルお兄さんは地面に伏せたまま「あー、仕事したくない」とぶつぶつ言っている。
はやく起きなさい。ぼくが疲れるでしょうが。
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