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53 抱っこしてください
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騎士棟に来たついでに、リッキーの姿を探してみる。
ライアンの執務室を出て、あまり馴染みのない騎士棟内部を歩きまわる。気分は冒険だ。わくわくと足取り軽く進むぼくの少し後ろを、ロルフがニヤニヤしながらついてくる。ロルフは、いつもぼくのことを緩んだ顔で見つめている。
「リッキーどこだろう」
「なんでリッキーさんを探すんですか?」
「ライアンと仲良くしているか確認するの」
「はぁ」
どうでもよくないですか? と酷いことを言うロルフは、相変わらず何もわかっていない。ライアンとリッキーの恋愛模様は、ぼくの将来に関わるのだ。
「アル様? 珍しいですね、こんなところで」
出鱈目に騎士棟を歩いていた時である。前方から姿を見せた騎士さんが、「おや?」という顔をした。
二十代前半くらいのお兄さんである。よくリオラお兄様の隣にいる人だ。柔和な笑顔が印象的な黒髪のお兄さん。口元にある小さなほくろに、じっとぼくの視線が吸い寄せられる。この人は、原作小説にもたびたび登場していた。名前はジョナス。主にリオラお兄様の護衛を担当していた人だ。すらりと細身で、中性的な顔立ち。原作での出番はあまりなかったけど、いつもリオラお兄様の隣に居たから覚えている。
「ジョナス。何してるの?」
「私は団長に用がありまして。アル様は?」
「ぼくはライアンと会ってきました」
「副団長と?」
小首を傾げるジョナスの動きに合わせて、柔らかそうな黒髪がさらりと揺れる。なんか、きれいだな。
もともとぼくは、ジョナスのことを結構気に入っていた。原作にはあまり登場しないけど、口元のほくろが色っぽくて、おまけに物腰柔らかで。とにかく柔らかいイメージのお兄さんで、なんとなく好きだった。一時期リオラお兄様とくっつくんじゃないかと期待したこともある。
そこまで考えて、ピンとくる。
リオラお兄様の恋人候補。ジョナスも相応しいのでは?
だってジョナスはリオラお兄様の一番近くにいる。優しいお兄さんだし、リオラお兄様だってジョナスのことは信頼していた。まぁ、原作だとリオラお兄様が破滅行動をとったせいで、最終的にはジョナスもお兄様から離れていくわけだけど。
「ジョナス!」
「はい?」
急いでジョナスの腕にしがみつけば、ジョナスが困惑したように腰を屈めてくれる。ぼくと視線を合わせて「どうしました?」と優しく問いかけてくれる彼は、どこからどう見てもいい人だ。リオラお兄様の恋人候補にぴったり。
「恋人いますか?」
「え?」
面食らったらしいジョナスだが、さっと髪を耳にかけて「残念ながら。独り身ですよ」と苦笑する。その無駄に色っぽい仕草に、思わずロルフを振り返って確認する。ぼけっと突っ立っていたロルフは、ぼくと目が合うなり「ん?」と不思議そうな表情をする。
なんか、うん。
とりあえずジョナスと手を繋ごうと奮闘する。ちょこまか動くぼくの意図を察したのか。ジョナスが左手を差し出してきたので、遠慮なくしがみつく。
「抱っこしてください」
「え? 私がですか?」
「はい」
ジョナスを見上げれば、なぜかロルフが「嫌ですよ!」と力強く割り込んでくる。ロルフは関係ないでしょうが。
「ジョナス。抱っこしてくださぁい」
もう歩くの疲れましたと、床にぺたっと座り込んでアピールしてみる。「俺が抱っこしますよ!」と、ロルフが手を伸ばしてくるのでそれをあしらうのも忘れない。ぼくはロルフじゃなくて、ジョナスに抱っこしてもらいたい。
「いつもは抱っこしてなんて言わないじゃないですか!」
「今日は抱っこしてほしい気分」
「じゃあ俺でよくないですか!?」
「ジョナスがいい」
頑張ってジョナスに腕を伸ばすぼく。「なんで!?」とうるさいロルフに若干引いていたジョナスであるが、最終的にはぼくを抱き上げてくれた。
ぎゅっとジョナスの首にしがみつくようにして手をまわす。にこにこと満足していると、ぼくの視線の先に移動してきたロルフが不満そうに半眼となる。
ぼくは、ジョナスのことが結構好き。
香水でもつけているのか、ちょっと甘い匂いがする。へへっと笑えば、ジョナスが背中を軽く叩いてくる。なんだかいいと思う。すごく幸せ。
「ぼく、今日はジョナスと遊びます」
「ダメですよ!」
前のめりで返事をしてくるロルフにふるふると首を振って、ジョナスにしがみつく手に力を込める。絶対に離すものか。今日はずっとジョナスと一緒にいたい気分。
一緒に遊ぼうと誘ってみるが、ジョナスは「仕事が」と困ったようにぼくを床におろそうとしてくる。
ジタバタと抵抗を試みるが、あっさりと床に足がつく。ふんふん床を蹴るぼくの肩を、すかさずロルフが掴んでくる。そのままあっさりとジョナスから引き剥がされてしまう。何をするんだ。
「一緒に遊びたいです」
とりあえず丁寧にお願いしてみれば、ジョナスが前髪を触って小首を傾げる。さらっと流れる黒髪に、ついつい視線が引き寄せられる。
「今日は忙しいので、また今度でもいいですか?」
ジョナスがそう言うなら仕方がない。わかったと頷くぼくの手を取って、ジョナスが「じゃあまた今度遊びましょうか。約束ですね」と、握手してくる。こくこくと、ひたすら頷くぼく。
リオラお兄様の部屋に戻るというジョナスの背中をじっと見つめるぼくの横で、ロルフが「なんであの人に懐くんですか」と不満そうにしていた。
ライアンの執務室を出て、あまり馴染みのない騎士棟内部を歩きまわる。気分は冒険だ。わくわくと足取り軽く進むぼくの少し後ろを、ロルフがニヤニヤしながらついてくる。ロルフは、いつもぼくのことを緩んだ顔で見つめている。
「リッキーどこだろう」
「なんでリッキーさんを探すんですか?」
「ライアンと仲良くしているか確認するの」
「はぁ」
どうでもよくないですか? と酷いことを言うロルフは、相変わらず何もわかっていない。ライアンとリッキーの恋愛模様は、ぼくの将来に関わるのだ。
「アル様? 珍しいですね、こんなところで」
出鱈目に騎士棟を歩いていた時である。前方から姿を見せた騎士さんが、「おや?」という顔をした。
二十代前半くらいのお兄さんである。よくリオラお兄様の隣にいる人だ。柔和な笑顔が印象的な黒髪のお兄さん。口元にある小さなほくろに、じっとぼくの視線が吸い寄せられる。この人は、原作小説にもたびたび登場していた。名前はジョナス。主にリオラお兄様の護衛を担当していた人だ。すらりと細身で、中性的な顔立ち。原作での出番はあまりなかったけど、いつもリオラお兄様の隣に居たから覚えている。
「ジョナス。何してるの?」
「私は団長に用がありまして。アル様は?」
「ぼくはライアンと会ってきました」
「副団長と?」
小首を傾げるジョナスの動きに合わせて、柔らかそうな黒髪がさらりと揺れる。なんか、きれいだな。
もともとぼくは、ジョナスのことを結構気に入っていた。原作にはあまり登場しないけど、口元のほくろが色っぽくて、おまけに物腰柔らかで。とにかく柔らかいイメージのお兄さんで、なんとなく好きだった。一時期リオラお兄様とくっつくんじゃないかと期待したこともある。
そこまで考えて、ピンとくる。
リオラお兄様の恋人候補。ジョナスも相応しいのでは?
だってジョナスはリオラお兄様の一番近くにいる。優しいお兄さんだし、リオラお兄様だってジョナスのことは信頼していた。まぁ、原作だとリオラお兄様が破滅行動をとったせいで、最終的にはジョナスもお兄様から離れていくわけだけど。
「ジョナス!」
「はい?」
急いでジョナスの腕にしがみつけば、ジョナスが困惑したように腰を屈めてくれる。ぼくと視線を合わせて「どうしました?」と優しく問いかけてくれる彼は、どこからどう見てもいい人だ。リオラお兄様の恋人候補にぴったり。
「恋人いますか?」
「え?」
面食らったらしいジョナスだが、さっと髪を耳にかけて「残念ながら。独り身ですよ」と苦笑する。その無駄に色っぽい仕草に、思わずロルフを振り返って確認する。ぼけっと突っ立っていたロルフは、ぼくと目が合うなり「ん?」と不思議そうな表情をする。
なんか、うん。
とりあえずジョナスと手を繋ごうと奮闘する。ちょこまか動くぼくの意図を察したのか。ジョナスが左手を差し出してきたので、遠慮なくしがみつく。
「抱っこしてください」
「え? 私がですか?」
「はい」
ジョナスを見上げれば、なぜかロルフが「嫌ですよ!」と力強く割り込んでくる。ロルフは関係ないでしょうが。
「ジョナス。抱っこしてくださぁい」
もう歩くの疲れましたと、床にぺたっと座り込んでアピールしてみる。「俺が抱っこしますよ!」と、ロルフが手を伸ばしてくるのでそれをあしらうのも忘れない。ぼくはロルフじゃなくて、ジョナスに抱っこしてもらいたい。
「いつもは抱っこしてなんて言わないじゃないですか!」
「今日は抱っこしてほしい気分」
「じゃあ俺でよくないですか!?」
「ジョナスがいい」
頑張ってジョナスに腕を伸ばすぼく。「なんで!?」とうるさいロルフに若干引いていたジョナスであるが、最終的にはぼくを抱き上げてくれた。
ぎゅっとジョナスの首にしがみつくようにして手をまわす。にこにこと満足していると、ぼくの視線の先に移動してきたロルフが不満そうに半眼となる。
ぼくは、ジョナスのことが結構好き。
香水でもつけているのか、ちょっと甘い匂いがする。へへっと笑えば、ジョナスが背中を軽く叩いてくる。なんだかいいと思う。すごく幸せ。
「ぼく、今日はジョナスと遊びます」
「ダメですよ!」
前のめりで返事をしてくるロルフにふるふると首を振って、ジョナスにしがみつく手に力を込める。絶対に離すものか。今日はずっとジョナスと一緒にいたい気分。
一緒に遊ぼうと誘ってみるが、ジョナスは「仕事が」と困ったようにぼくを床におろそうとしてくる。
ジタバタと抵抗を試みるが、あっさりと床に足がつく。ふんふん床を蹴るぼくの肩を、すかさずロルフが掴んでくる。そのままあっさりとジョナスから引き剥がされてしまう。何をするんだ。
「一緒に遊びたいです」
とりあえず丁寧にお願いしてみれば、ジョナスが前髪を触って小首を傾げる。さらっと流れる黒髪に、ついつい視線が引き寄せられる。
「今日は忙しいので、また今度でもいいですか?」
ジョナスがそう言うなら仕方がない。わかったと頷くぼくの手を取って、ジョナスが「じゃあまた今度遊びましょうか。約束ですね」と、握手してくる。こくこくと、ひたすら頷くぼく。
リオラお兄様の部屋に戻るというジョナスの背中をじっと見つめるぼくの横で、ロルフが「なんであの人に懐くんですか」と不満そうにしていた。
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