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49 優しい兄

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「ノエルお兄さんは双子ですか?」
「え?」

 ロルフの主張が気になったので、一応リオラお兄様に確認しておこうと思う。早速部屋を訪れて質問すれば、リオラお兄様は「違うと思うけど」とあっさりと言ってのけた。そこに迷いはない。

 違うってよ、とロルフを振り返ると、彼は複雑な顔をしていた。

 そうだよな。やっぱりノエルが双子なんていう設定は原作にはなかった。だからリオラお兄様の言葉は嘘ではないと思う。でも、ノエルの様子がおかしいのも事実だ。その原因も突き止めなければならない。ぼくの平穏な生活のために。

「どうしてそんなことを訊くの? なにかあったのかな?」

 首を捻るお兄様に、ぼくはノエルの様子がおかしいことを教えてあげた。ついでなので、あいつがぼくのクッキーをほとんど食べてしまったことも告げ口してやる。おかげでぼくはクッキーをちょっとしか食べることができなかった。

「ぼくのおやつだったのに。ノエルお兄さんが食べました。ひどいです。ぼくはすごく悲しいです」
「そ、そうなんだ」

 仲良くしてねと苦笑するリオラお兄様は、何もわかっていない。ぼくはノエルと仲良くしてやろうと毎日努力している。文句も言わずに一緒に遊んであげているし、おやつにも誘ってあげた。それを台無しにしたのはノエルの方だ。あいつはすごく横暴。

「ノエルお兄さんは、たまにすごく我儘になります。ぼく困ってます」

 両手で頭を抱えて困ったアピールをしておく。言葉で伝えるよりも、実際に困った顔を見せた方が説得力が増すと思うのだ。ちらっとリオラお兄様を窺えば、眉間に皺を寄せて困った顔をしていた。なんだかぼくよりも困った顔をしている。

「というか。ノエル来たの? 今日は来られないはずじゃ」
「来ました。ぼくのクッキーを奪えるだけ奪って帰っていきました」

 ひどい奴です! と文句を言うが、リオラお兄様は突然ノエルがやって来たことを不思議に思っているらしい。そこはぼくとロルフも疑問に思っていた。ノエル本人は予定が変わったとか言っていた。本当だろうか。

 考えるが、答えは出ない。出ないので、この話題は終わりにしようと思う。正直言って、ノエルについて考えても楽しくない。もっと楽しいことを考えるべきだ。

「でっかい鳥さん」

 期待の目でリオラお兄様を見つめると、お兄様が露骨に顔を俯けて、ぼくの目を見てくれなくなった。なんてこった。もう一度、小声で「でっかい鳥さん」と呟いておく。地道にアピールしておけば、いつかお兄様がでっかい鳥さん連れてきてくれると信じている。

 わざとらしい咳払いをしたリオラお兄様は、「クッキー食べられなかったんだっけ?」と話を蒸し返してくる。

「そうです。いつもよりも少なくなってしまいました」

 ノエルお兄さんのせいで、と付け足しておく。ノエルの意地悪っぷりをこまめに報告しておけば、きっとリオラお兄様もノエルの本性に気が付いてくれると思う。意地悪ノエルと遊ぶのは、ぼくにとっては負担なのだとわかってほしい。

 でも猫被りの優しいノエルお兄さんと遊ぶのは結構楽しいから、悩みどころだ。

「だったらこれをあげるから」

 そう言って、リオラお兄様は机にのっていたクッキーを差し出してくれた。どうやらリオラお兄様のところにも同じおやつが用意されていたらしい。

「リオラお兄様は食べない?」

 びっくりして問いかけるぼくに、お兄様は「もう食べたから。残りでよければどうぞ」と微笑んでくれる。びっくり展開に、思わず後ろのロルフを確認する。「よかったですね、アル様」と、にこにこするロルフに、ぼくは大きく頷きを返す。

「お兄様。ありがとうございます」
「はーい」

 部屋に戻って食べようと思う。ロルフがクッキーを受け取るのをしっかり確認して、そそくさと廊下に出る。はやく食べないと。また誰かに奪われたら大変だ。

「ロルフ! 急いで! クッキーが無くなっちゃうよ!」
「無くなったりしませんよ。慌てなくても大丈夫です」
「無くなるんだよ! 急いで!」
「はいはい」

 苦笑するロルフを急かして、ぼくは部屋に駆け込んだ。クッキーは大事だからね。
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