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44 はちみつ
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「あ。リオラお兄様にノエルのこと訊くの忘れた」
「そうですか」
それは大変ですね、とたいして大変とは思っていないような口振りで苦笑するロルフは、片手に持っていたミルクを差し出してくる。
夕食も終わり、自室に引っ込んでのんびりしていた時である。せっかくリオラお兄様に歳の差恋愛について尋ねに行ったのに、お返事聞く前に帰ってきてしまった。
というか、あれはお兄様が話をそらしたのが悪いと思う。よく考えると、突然苺をもらえてラッキーとニヤニヤしていたぼくだが、あれはリオラお兄様による誤魔化しだったのだ。苺につられた自分が憎い。
そんなモヤモヤした気持ちを忘れようと、寝る前のミルクに手を伸ばす。早速ひとくち飲んでみるが、案の定甘さが足りない。どうして毎日こうなのか。ぼくは、はちみつたっぷりの甘いミルクが飲みたいだけなのに。なんでこうもままならないのか。
「ロルフ! はちみつ足りないんだけど!」
大声で抗議するが、ロルフは困ったように眉間に皺を寄せるだけで、はちみつを追加してくれない。
「もう! はちみつ!」
返してくださいとバタバタ暴れてやる。腕をぶんぶん振りまわすぼくだが、苛々はおさまらない。
「はちみつは、ぼくが管理します」
「ダメですよ」
「ちゃんと見張るので大丈夫です」
「はちみつをずっと見張るんですか?」
なんのために、と面食らうロルフ。なんのためにって。君がはちみつ泥棒しないか見張るためだ。
「ノエルお兄さん、明日も来ますか?」
今日は帰り際に「また明日」というひと言がなかった。気になってロルフに質問すれば、「明日はいらっしゃらないようですよ」との返事。なるほど。つまり、明日はノエルと遊ぶ必要はないのだろう。
「久しぶりに、ゆっくりできるね」
「今日はゆっくりできなかったんですか?」
「うん。ノエルお兄さんの相手はつかれる」
十歳のお子様と遊ぶのは、色々と気を使う。おまけにノエルは意地悪だから、警戒もしなければならない。一瞬たりとも気が抜けないのだ。
ホッと息を吐くぼくは、甘さが足りないミルクを飲み干した。
※※※
「今日は、のんびりします」
「はい! わかりました!」
元気に手をあげるロルフは、気合いバッチリ。のんびりするのに、なんでそんなに力が入っているのだろうか。謎だ。もっとリラックスした方がいいと思う。
ノエルから解放されたぼくは、朝からにこにこだ。ストレスの元凶が居ないだけで、こんなに心が平穏になるなんて。
「リオラお兄様。いつになったらでっかい鳥さん捕まえてきてくれるかな」
「リオラ様には無理じゃないですか?」
「なんで」
酷い決めつけをするロルフは、リオラお兄様のことをみくびっている。リオラお兄様は何でもできるので、きっとでっかい鳥さんも連れてきてくれると信じている。
部屋でごろごろするぼくは、きらきらの石をお手入れしつつ、久々のまったり時間を満喫する。
「ロルフ、ロルフ」
「なんですか?」
「ロルフもきらきらほしい?」
「ほしいです!」
前のめりに答えてくるロルフは、よっぽどきらきらの石が欲しいみたいだ。いつもぼくが独り占めして悪いので、ひとつくらいは譲ってあげてもいい。しかし、タダであげるわけにはいかない。
「はちみつと交換してあげます」
「はちみつ、ですか」
半眼になるロルフは、突然おとなしくなった。はちみつをぼくに差し出したくないのだろうか。そもそも、あれはぼくが舐めるようのはちみつだ。なんでロルフが管理しているのか。
「はちみつ持ってきて」
「ダメですよ」
「なんで?」
「ダメですよ。甘いものばかり」
「ぼくのなのに」
しゅんと悲しい顔を作ってみると、ロルフが「え、可愛い。どうしよう」と悩み始める。だが、悩むだけではちみつ持ってこない。なんて奴。
むぅっとほっぺたを膨らませて、下を向く。
「きらきらの石あげないからね!」
「いいですよ、別に」
「いいの!?」
なんで? きらきらなのに?
「どういう感性? きらきらの石嫌いな人がいるなんて」
「そんな引かなくても」
口元を引き攣らせるロルフは、別に石はどうでもいいと言う。でも先程きらきらの石欲しいって言っていなかったか? あれはなんだったんだ。
「そうですか」
それは大変ですね、とたいして大変とは思っていないような口振りで苦笑するロルフは、片手に持っていたミルクを差し出してくる。
夕食も終わり、自室に引っ込んでのんびりしていた時である。せっかくリオラお兄様に歳の差恋愛について尋ねに行ったのに、お返事聞く前に帰ってきてしまった。
というか、あれはお兄様が話をそらしたのが悪いと思う。よく考えると、突然苺をもらえてラッキーとニヤニヤしていたぼくだが、あれはリオラお兄様による誤魔化しだったのだ。苺につられた自分が憎い。
そんなモヤモヤした気持ちを忘れようと、寝る前のミルクに手を伸ばす。早速ひとくち飲んでみるが、案の定甘さが足りない。どうして毎日こうなのか。ぼくは、はちみつたっぷりの甘いミルクが飲みたいだけなのに。なんでこうもままならないのか。
「ロルフ! はちみつ足りないんだけど!」
大声で抗議するが、ロルフは困ったように眉間に皺を寄せるだけで、はちみつを追加してくれない。
「もう! はちみつ!」
返してくださいとバタバタ暴れてやる。腕をぶんぶん振りまわすぼくだが、苛々はおさまらない。
「はちみつは、ぼくが管理します」
「ダメですよ」
「ちゃんと見張るので大丈夫です」
「はちみつをずっと見張るんですか?」
なんのために、と面食らうロルフ。なんのためにって。君がはちみつ泥棒しないか見張るためだ。
「ノエルお兄さん、明日も来ますか?」
今日は帰り際に「また明日」というひと言がなかった。気になってロルフに質問すれば、「明日はいらっしゃらないようですよ」との返事。なるほど。つまり、明日はノエルと遊ぶ必要はないのだろう。
「久しぶりに、ゆっくりできるね」
「今日はゆっくりできなかったんですか?」
「うん。ノエルお兄さんの相手はつかれる」
十歳のお子様と遊ぶのは、色々と気を使う。おまけにノエルは意地悪だから、警戒もしなければならない。一瞬たりとも気が抜けないのだ。
ホッと息を吐くぼくは、甘さが足りないミルクを飲み干した。
※※※
「今日は、のんびりします」
「はい! わかりました!」
元気に手をあげるロルフは、気合いバッチリ。のんびりするのに、なんでそんなに力が入っているのだろうか。謎だ。もっとリラックスした方がいいと思う。
ノエルから解放されたぼくは、朝からにこにこだ。ストレスの元凶が居ないだけで、こんなに心が平穏になるなんて。
「リオラお兄様。いつになったらでっかい鳥さん捕まえてきてくれるかな」
「リオラ様には無理じゃないですか?」
「なんで」
酷い決めつけをするロルフは、リオラお兄様のことをみくびっている。リオラお兄様は何でもできるので、きっとでっかい鳥さんも連れてきてくれると信じている。
部屋でごろごろするぼくは、きらきらの石をお手入れしつつ、久々のまったり時間を満喫する。
「ロルフ、ロルフ」
「なんですか?」
「ロルフもきらきらほしい?」
「ほしいです!」
前のめりに答えてくるロルフは、よっぽどきらきらの石が欲しいみたいだ。いつもぼくが独り占めして悪いので、ひとつくらいは譲ってあげてもいい。しかし、タダであげるわけにはいかない。
「はちみつと交換してあげます」
「はちみつ、ですか」
半眼になるロルフは、突然おとなしくなった。はちみつをぼくに差し出したくないのだろうか。そもそも、あれはぼくが舐めるようのはちみつだ。なんでロルフが管理しているのか。
「はちみつ持ってきて」
「ダメですよ」
「なんで?」
「ダメですよ。甘いものばかり」
「ぼくのなのに」
しゅんと悲しい顔を作ってみると、ロルフが「え、可愛い。どうしよう」と悩み始める。だが、悩むだけではちみつ持ってこない。なんて奴。
むぅっとほっぺたを膨らませて、下を向く。
「きらきらの石あげないからね!」
「いいですよ、別に」
「いいの!?」
なんで? きらきらなのに?
「どういう感性? きらきらの石嫌いな人がいるなんて」
「そんな引かなくても」
口元を引き攣らせるロルフは、別に石はどうでもいいと言う。でも先程きらきらの石欲しいって言っていなかったか? あれはなんだったんだ。
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