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43 ラッキー

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「ライアンも一緒に遊びますか?」
「俺は仕事がありますから」
「そうですか。残念」

 副団長であるライアンは忙しいに違いない。
 引き止めるのも悪いので、素直にばいばいと手を振っておく。ぼくとしては、ライアンにノエルを紹介できて満足。

「アル様はお友達がたくさんですね」

 感心したように発せられた言葉に、ぼくは頷く。ぼくが五歳だからというのもあるだろうが、みんな優しくしてくれる。

「うん。ノエルお兄さんもお友達です」

 きょとんとするノエルを見上げて、彼の手をとる。握り返してくれるノエルは、「僕も友達ですか。嬉しいですね」とにこにこ。そこになぜかロルフが割り込んでくる。

「俺は!? 俺はどうなるんですか!」
「ロルフは、ぼくのお世話係さん」
「俺だけ友達じゃない!? え、ひどい!」

 ライアンだけずるいと、ひとり大声を出すロルフにノエルが引き攣った顔をしている。年上のお兄さんが取り乱す様子に、ちょっとビビっているのだろう。しかし、ロルフの挙動がおかしいのはいつものことだ。いちいち気にしていたら、きりがない。

「ロルフは、いつもきょどーふしん」
「誰が挙動不審ですか」

 スパッと文句を言ってくるロルフは、不満そうな顔。ぼくの説明に機械的にこくこく頷くノエルも、ロルフのことは変な人だと認識したらしい。

 ノエルは、意外と空気の読めるお子様だった。初めて会った時のノエルは、なんだか無駄に偉そうなお兄さんだったのに。ここ最近は、基本的におとなしいし、変なことも言わない。普通に優しいお兄さんだ。

 人格が変わりすぎて、ちょっと怖いくらいである。


※※※


「リオラお兄様。でっかい鳥さんはどうなりましたか」
「え!」

 絶句するお兄様は、食事の手を止めてぼくの顔を凝視してくる。

 ノエルと一日楽しく遊んで別れた後。リオラお兄様との夕食の時間。雑談の中ででっかい鳥さんについて訊ねれば、お兄様は露骨に動揺した。「お兄様?」と首を捻るぼくに、リオラお兄様は静かに息を呑む。なにをそんなに緊張しているのか。

「アル? 私はでっかい鳥さんとやらを用意するとは言っていないよ」
「そうでしたっけ?」

 お兄様にでっかい鳥さんがほしいと頼んだことは覚えている。その後の返答は忘れた。なんだかぼくに都合の悪いお返事だったような気がする。忘れたので、お兄様が「いいよ」と言ったということにして、話を進めようと思ったのに。

「ぼく。でっかい鳥さんほしいです」
「そうは言われてもね」

 そういう鳥はいないよ、と嫌なことを言うお兄様に、しゅんと肩を落とす。

 しかし、いつまでも落ち込んでいるわけにはいかない。ぼくは忙しいので。

「リオラお兄様は、歳の差気にしますか?」
「急にどうしたの?」

 目を瞬くお兄様をチラッと見てから、お肉をもぐもぐ。「アル? 歳の差ってなんのこと?」とリオラお兄様がしきりに話しかけてくるけど、ちょっと待って。ぼくは今、美味しいお肉をもぐもぐするのに忙しいから。

 変な顔をするお兄様は、根気強く待ってくれているらしい。ようやく口の中が空っぽになったぼくは、フォークを置く。

「リオラお兄様の恋人さん。年下でもいいですか?」
「えっと」

 躊躇うお兄様は、よくわからないとでも言いたげだ。

「私のことを気にかけてくれるのは嬉しいけどね。恋人は自分でどうにかするから大丈夫だよ」
「遠慮せずに」
「いや、遠慮じゃなくて」

 苦笑するお兄様は、「アルにそういう話はまだはやいかな」とぼくを馬鹿にするような発言をする。その言葉を、黙って聞き流せるぼくではない。

「ぼくは大人です! はやくないです!」
「大人ではないと思うけど」

 やんわり否定してくるお兄様に、ぼくは拳を握りしめる。

「ぼくはもう五歳です!」
「うん。そうだね」

 それより、と話を逸らすお兄様は、お皿にのっている苺をしめした。

「食べないの?」
「食べます!」

 急いで苺を口に放り込む。すると、お兄様は自分の分の苺もぼくに差し出してきた。なんてことだ。びっくりするぼくに、お兄様は「これも食べていいよ」と素敵なことを言う。

 なんか突然ラッキー。
 にこっと笑うぼくに、リオラお兄様も小さく笑っていた。
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