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35 可愛い
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「シャルお兄さん。リオラお兄様とはいい感じですか?」
「え。い、いえ。実を言うとあまり」
前髪が邪魔で顔の見えないシャルお兄さんだが、困っている雰囲気は伝わってきた。どうやらリオラお兄様とは、あんまり上手くいっていないらしい。そうだと思った。だってリオラお兄様は、シャルお兄さんのことをなぜかガストン団長だと思い込んでいるから。これでは、リオラお兄様とシャルお兄さんの仲が進展するわけない。
だが、シャルお兄さんには頑張ってもらわねば。胸の前で拳を握って、お兄さんを励ましておく。
「頑張ってください。ぼく、お兄さんのこと応援するので」
「ありがとうございます」
お礼を述べたシャルお兄さんであったが、ぼくのことを見据えた彼は「ところで」と首を捻ってしまう。
「アル様は、なぜ私をリオラ様の恋人にしようと?」
こうなった原因に心当たりがないのですが、と困ったように首筋へと手を持っていくシャルお兄さん。
そういえば、シャルお兄さんには恋人ご紹介しますと説明しただけだった。お兄さんからすれば、ぼくの行動は突拍子もないものだったのかもしれない。しかし何と説明するべきなのか。ここがBL小説の世界で、ぼくには今後起きるであろう展開がわかっていると説明したところで、シャルお兄さんは理解してくれないと思う。だってぼくと毎日一緒のロルフでさえ信じてくれないから。
「えっと。リオラお兄様には恋人いなくて可哀想だから。恋人ご紹介してあげようと思いました」
結局、そんな当たり障りのない誤魔化しをする。リオラお兄様が心配です! とごり押しすれば、シャルお兄さんが「左様で」と大きく頷いた。
「アル様は、お兄様のことが心配なんですね」
「そう。お兄様は恋愛下手くそだから心配です」
原作小説でも、リオラお兄様はライアン一筋になるあまり破滅した。なんというか、引き際を理解していなかったのだ。おまけにリッキーに負けてたまるかというプライド的なものもすごかった。リオラお兄様が、自分にチャンスがないと理解して、早々にライアンを諦めていれば、破滅エンドは免れたはずだ。
だからぼくとしては、リオラお兄様の目をライアン以外に向けたい。ライアンに執着さえしなければ、リオラお兄様の破滅は回避可能だと思うのだ。
「ぼくは、恋愛には詳しいので。リオラお兄様を一生懸命サポートしています」
「はぁ」
怪訝な様子のシャルお兄さん。ぼくの背後では、ロルフが「詳しい? え、どこからそんな自信が」とぶつぶつ言っている。なんだか悪口を言われているような気がして、くるっと振り返る。ロルフのことをジトっと見上げれば、「なんでもないです」との棒読みが返ってきた。絶対にぼくに何か言いたいことがある顔をしているのに。
「ぼくは恋愛得意です!」
一応念押ししておけば、ロルフが「そういうことにしておきましょう」と、ぼくを小馬鹿にしたように肩をすくめていた。そういうことにしておきましょうだと?
「ロルフ! ぼくを馬鹿にしたな!」
謝ってと地団駄を踏むぼくに、ロルフは「えぇ?」と意外そうな顔を見せた。
「してませんよ! 可愛いなって思っただけで」
どうやらぼくを馬鹿にしたという自覚がないらしい。しかし、可愛いという言葉にぼくの怒りは鎮まってしまう。可愛いと言われて、悪い気分にはならない。
「ぼくは可愛い」
「はい! 可愛いです!」
可愛いと言い合うぼくとロルフを交互に眺めたシャルお兄さんは「なにこの謎のやり取り」と呆気に取られていた。
いけないいけない。
シャルお兄さんのことを忘れていた。
「シャルお兄さんも自信を持ってください。髪の毛もじゃもじゃだけど、お兄さんはすごくいい人」
「この髪型そんなに気に入らないですか?」
自分の前髪をしきりに触るシャルお兄さんは、「私は結構気に入っているのですが」と不満そうだ。別に嫌いというわけではないけど。前髪が邪魔で目元が見えない点が、ぼくは不満。おめめ見えた方がいいと思う。
「シャルお兄さん。おめめ見せてくれたら、きらきらの石をあげます」
「石……?」
もしかしたらシャルお兄さんもきらきら好きかもしれない。きらきらの石につられてくれないかなと期待を込めてお願いしてみるが、シャルお兄さんは面食らったように固まってしまう。
まさか、きらきらの石好きじゃない?
「すごくきらきらしてます。ぼくの宝物です。使い道はないけど」
頑張ってきらきらの石の魅力を伝えてみるが、シャルお兄さんは「はぁ」と煮え切らない。きらきらにつられない人がこの世に存在するなんて。
ちょっぴりショックを受けるぼくの背中を、ロルフが忙しく撫でてくる。「アル様?」と呼びかけられて、ようやく我に返る。
「きらきらの石、無力」
しゅんと肩を落とすぼく。
「そのきらきらの石とやらで、全部どうにかなると思っていたんですか?」
シャルお兄さんに控えめに問われて、うんうん頷いておく。「アル様が可愛い!」と天を仰ぐロルフは、相変わらず忙しそうだった。
「え。い、いえ。実を言うとあまり」
前髪が邪魔で顔の見えないシャルお兄さんだが、困っている雰囲気は伝わってきた。どうやらリオラお兄様とは、あんまり上手くいっていないらしい。そうだと思った。だってリオラお兄様は、シャルお兄さんのことをなぜかガストン団長だと思い込んでいるから。これでは、リオラお兄様とシャルお兄さんの仲が進展するわけない。
だが、シャルお兄さんには頑張ってもらわねば。胸の前で拳を握って、お兄さんを励ましておく。
「頑張ってください。ぼく、お兄さんのこと応援するので」
「ありがとうございます」
お礼を述べたシャルお兄さんであったが、ぼくのことを見据えた彼は「ところで」と首を捻ってしまう。
「アル様は、なぜ私をリオラ様の恋人にしようと?」
こうなった原因に心当たりがないのですが、と困ったように首筋へと手を持っていくシャルお兄さん。
そういえば、シャルお兄さんには恋人ご紹介しますと説明しただけだった。お兄さんからすれば、ぼくの行動は突拍子もないものだったのかもしれない。しかし何と説明するべきなのか。ここがBL小説の世界で、ぼくには今後起きるであろう展開がわかっていると説明したところで、シャルお兄さんは理解してくれないと思う。だってぼくと毎日一緒のロルフでさえ信じてくれないから。
「えっと。リオラお兄様には恋人いなくて可哀想だから。恋人ご紹介してあげようと思いました」
結局、そんな当たり障りのない誤魔化しをする。リオラお兄様が心配です! とごり押しすれば、シャルお兄さんが「左様で」と大きく頷いた。
「アル様は、お兄様のことが心配なんですね」
「そう。お兄様は恋愛下手くそだから心配です」
原作小説でも、リオラお兄様はライアン一筋になるあまり破滅した。なんというか、引き際を理解していなかったのだ。おまけにリッキーに負けてたまるかというプライド的なものもすごかった。リオラお兄様が、自分にチャンスがないと理解して、早々にライアンを諦めていれば、破滅エンドは免れたはずだ。
だからぼくとしては、リオラお兄様の目をライアン以外に向けたい。ライアンに執着さえしなければ、リオラお兄様の破滅は回避可能だと思うのだ。
「ぼくは、恋愛には詳しいので。リオラお兄様を一生懸命サポートしています」
「はぁ」
怪訝な様子のシャルお兄さん。ぼくの背後では、ロルフが「詳しい? え、どこからそんな自信が」とぶつぶつ言っている。なんだか悪口を言われているような気がして、くるっと振り返る。ロルフのことをジトっと見上げれば、「なんでもないです」との棒読みが返ってきた。絶対にぼくに何か言いたいことがある顔をしているのに。
「ぼくは恋愛得意です!」
一応念押ししておけば、ロルフが「そういうことにしておきましょう」と、ぼくを小馬鹿にしたように肩をすくめていた。そういうことにしておきましょうだと?
「ロルフ! ぼくを馬鹿にしたな!」
謝ってと地団駄を踏むぼくに、ロルフは「えぇ?」と意外そうな顔を見せた。
「してませんよ! 可愛いなって思っただけで」
どうやらぼくを馬鹿にしたという自覚がないらしい。しかし、可愛いという言葉にぼくの怒りは鎮まってしまう。可愛いと言われて、悪い気分にはならない。
「ぼくは可愛い」
「はい! 可愛いです!」
可愛いと言い合うぼくとロルフを交互に眺めたシャルお兄さんは「なにこの謎のやり取り」と呆気に取られていた。
いけないいけない。
シャルお兄さんのことを忘れていた。
「シャルお兄さんも自信を持ってください。髪の毛もじゃもじゃだけど、お兄さんはすごくいい人」
「この髪型そんなに気に入らないですか?」
自分の前髪をしきりに触るシャルお兄さんは、「私は結構気に入っているのですが」と不満そうだ。別に嫌いというわけではないけど。前髪が邪魔で目元が見えない点が、ぼくは不満。おめめ見えた方がいいと思う。
「シャルお兄さん。おめめ見せてくれたら、きらきらの石をあげます」
「石……?」
もしかしたらシャルお兄さんもきらきら好きかもしれない。きらきらの石につられてくれないかなと期待を込めてお願いしてみるが、シャルお兄さんは面食らったように固まってしまう。
まさか、きらきらの石好きじゃない?
「すごくきらきらしてます。ぼくの宝物です。使い道はないけど」
頑張ってきらきらの石の魅力を伝えてみるが、シャルお兄さんは「はぁ」と煮え切らない。きらきらにつられない人がこの世に存在するなんて。
ちょっぴりショックを受けるぼくの背中を、ロルフが忙しく撫でてくる。「アル様?」と呼びかけられて、ようやく我に返る。
「きらきらの石、無力」
しゅんと肩を落とすぼく。
「そのきらきらの石とやらで、全部どうにかなると思っていたんですか?」
シャルお兄さんに控えめに問われて、うんうん頷いておく。「アル様が可愛い!」と天を仰ぐロルフは、相変わらず忙しそうだった。
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