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 結局、シャルお兄さんを見つけることはできなかった。

 ロルフがずっと「騎士棟ですよ。ガストン団長ですって」とぐちぐち言っていた。それをあしらうのは大変。

 自室に戻って、石をテーブルに置く。ロルフにタオルを用意してもらって、念入りに石を磨く。土を落とすと、すごくきらきらになる。窓越しにお日様の光を当てると、ガラス細工みたいで楽しい気分になる。

「きらきらできれい」

 これはどこに隠そうか。
 ロルフの目を盗んで、後でこっそり隠そうと思う。ぼくの大事物なので。

 とりあえず、石は後まわしだ。テーブルに戻して、姿勢を正す。

「リオラお兄様とシャルお兄さんがお付き合いすれば、完璧なのに」
「なにが完璧なんですか?」

 首を捻るロルフは、いまだに事態を正確に把握していない。

 だが、ぼくにできることなんて限られている。リオラお兄様の恋人は、リオラお兄様が自分で作るべきだ。ぼくには、それを少しだけお手伝いすることしかできない。

「リオラお兄様に、シャルお兄さんをおすすめしに行こう」
「おすすめ」

 真顔で呟くロルフに、ぼくはハッとする。そういえば、ロルフもリオラお兄様のことが好きだった。さすがお兄様。モテモテだ。

「ロルフの恋人は、あとで探してあげるから」
「お構いなく」

 緩く首を左右に振って遠慮してしまうロルフ。その悲しそうにも見える横顔に、ぼくは口元を覆う。

 そっと立ち上がって、ロルフの背中を「励まし励まし」と、ぽんぽん叩いておく。「え! かわいい!」と天を仰ぐロルフ。すっかり元気になったようで安心。

 その足で、リオラお兄様の部屋に向かう。お仕事中のお兄様は、ぼくが姿を見せると顔を上げてくれる。

「お兄様」
「アル。どうしたのかな?」

 手を止めて、にこりと微笑んでくれるお兄様は、相変わらず美人さんだ。

「お兄様は、信念ある人が好き」
「え、うん。突然どうしたんだい?」
「シャルお兄さんは、休憩にすごく信念あります」

 地面にべちゃっと落ちています、と説明すれば、リオラお兄様がどこか遠くを見つめ始める。

「あのね、アル。私のことを気にかけてくれるのはすごく嬉しいよ。ありがとう。でも」
「どういたしまして」

 ぺこりと頭を下げれば、お兄様がひくりと口元を引き攣らせる。

「あの、だからね。アル」
「そんなお兄様に、シャルお兄さんおすすめです!」
「おすすめ」

 ぽかんとするお兄様は、すぐに咳払いをすると「ありがとう」とお礼を述べてくる。

「いえいえ。ぼくは弟として、お兄様のこと応援してます」
「う、うん」

 それでシャルお兄さんはどうですか? と再度おすすめしてみるが、リオラお兄様は「困ったね」と頬を掻いてしまう。

「アル。私のことを心配してくれるのは嬉しいけどね。ガストンと私は恋人にはならないよ」
「ガストン団長じゃないです! シャルお兄さんです!」
「一緒だよ」
「違います!」

 きっぱり否定するが、お兄様は「一緒だよ」としつこい。困ったぼくは、背後で気配を消していたロルフを振り返ってみるが、ロルフがお兄様の勘違いを正す様子はない。まぁ、ロルフもガストン団長とシャルお兄さんは同一人物説を主張する人だから。当然といえば当然なのだが。

 どうやらリオラお兄様は、シャルお兄さんのことがそんなに好きじゃないみたいだ。困ったな。お兄様の恋人候補がいなくなってしまう。

 どうにかシャルお兄さんの魅力を伝えようと、ぼくは奮闘する。

「シャルお兄さんは、ぼくにお菓子を分けてくれる最高のお兄さんです」
「仲良くやっているんだね」
「はい! お兄様もシャルお兄さんと仲良くなれます!」

 今度一緒に遊びましょうと提案してみるが、リオラお兄様はあまり乗り気ではないらしい。仕事があるからね、とやんわりお断りしてくる。

「それより、アルも歳の近い友達がほしいんじゃない?」
「いえ、別に」

 なんで急にぼくの話になるのか。
 ぼくは五歳だが、前世の記憶がある賢い子なので。普通のお子様とは気が合わないと思う。「ぼくは大人。ロルフと遊ぶので大丈夫です」と伝えるが、どうやらリオラお兄様の中ではぼくの遊び相手を手配するということで決定しているらしい。

 なんだか嫌な予感がする。

 だって、原作小説でぼくの遊び相手として用意されたのは、意地悪お兄さんでお馴染みのノエルだ。まさかノエルと友達になれと言うつもりじゃないだろうな。絶対に嫌。
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