21 / 127
21 ちょろまかし
しおりを挟む
その日の夜。
お部屋でのんびりしていたぼくの所へ、リオラお兄様がやって来た。
ロルフは、ちょうどミルクの用意をしに厨房へと行っていた。はちみつたっぷりね、と散々念押ししたのだが少し心配である。ロルフは、なぜかぼくのはちみつをちょろまかすから。さては、ちょろまかしたはちみつをこっそり舐めているのかもしれない。ぼくのはちみつがピンチだ。
「どうかしましたか、お兄様」
大人なぼくは、ロルフが居なくてもきっちりお兄様をお出迎えする。椅子にご案内すれば、お兄様は「ありがとう」と微笑んだ。いつ見ても綺麗なにこにこ笑顔である。
よいしょと向かいに腰を下ろして、リオラお兄様を見上げる。
就寝前だというのに隙のないきらきらお兄様は、なんだか眉尻をちょびっと下げてお困り顔である。なにか大変なことでもあったのだろうか。
やがて手を組んだお兄様は、気まずそうに視線をぼくに注いでくる。
「あのね、アル」
「なんですか」
「ガストン団長に悪気はないんだよ」
「?」
なぜ急にガストン団長。
よくわからないが、「わかりました!」と元気にお返事しておく。リオラお兄様は繊細なので。余計なストレスをかけてはいけない。いつか爆発してしまう。
「ガストン団長はね、休憩中のだらしない姿をアルに見られて気にしているみたいだから」
大目に見てあげてね、と小さく笑うお兄様。
これは、あれだ。ガストン団長とシャルお兄さんは同一人物説の話をしているに違いなかった。
リオラお兄様、まだ真実に気が付いていないのか。思えばお兄様は、激ニブさんである。BL小説の登場人物なくせして、色々と察しが悪い。リオラお兄様って、おとぼけキャラだったっけ? なんかイメージと違うなぁ。
しかし、騎士団の裏切り疑惑もまだ晴れてはいない。裏でライアンが糸を引いている可能性もある。お兄様はライアンにベタ惚れのはずだから。少しくらいライアンがおかしなことをしても、なんとなく流してしまう可能性があった。
はて、どうするべきか。
ここでぼくが、ガストン団長とシャルお兄さんは別人ですと主張しても、「そんなことないよ」で話が終わってしまう。ここは一旦、わかったふりをしてしまおうか。
もんもんと考えていたぼくであるが、タイミングよくロルフが戻ってきた。片手には、あったかミルク。
「ロルフ! ごくろう」
「もっと褒めてください!」
ドヤ顔でミルクを掲げるロルフは、褒められ待ちをしていた。そんな大人気ないロルフに、リオラお兄様があわれむような目を向けている。
「はい、はちみつ入りミルクです」
コトンと音を立てて、ぼくの前にミルクが置かれる。両手でコップを包み込んでから、はっとする。お兄様の分がない。
ムムッとお兄様を見上げる。迷った末に、ぼくは「半分いりますか?」と尋ねてみた。苦笑するリオラお兄様は「私はいいよ。アルの分だろう?」と遠慮してくれた。
これで安心して独り占めできる。
にやにやしながらミルクを口に含む。
「む! はちみつ少ない!」
ロルフめ! またちょろまかしたな!
「甘くない! はちみつ多めって言ったのに」
ジタバタするぼくを眺めて、お兄様は「むし歯になるよ」と宥めてくる。なんでぼくに注意をするのか。ロルフを叱るべきだ。
「お兄様! ロルフはいっつも、はちみつちょろまかしてます! ぼくのはちみつこっそり舐めてます!」
「舐めてませんよ!?」
慌てて否定するロルフは、己の悪事がリオラお兄様に露見して焦っているようであった。
「ぼくのはちみつ返してくださぁい!」
「盗んでなんかいませんよ!」
助けてください、リオラ様と。なぜかお兄様に助けを求めるロルフ。当のお兄様は、困惑していた。
「アル? もう遅いからね。その話は明日にしようか」
「ぼくのはちみつが、どうなってもいいってことですか!」
「ほら、早く飲まないと冷めちゃうよ?」
「む」
お兄様の言うことも一理ある。せっかくのあったかミルクが、ひえひえミルクになってしまう。それはダメ。
はちみつの件は気になるが、気持ちを切り替えてミルクを飲む。何回口をつけても、やはり甘さが足りない。ぼくのはちみつ。今頃、ロルフのお腹の中かもしれない。じっと、ロルフのことを半眼で見つめておく。「盗んでないですってば」と、ロルフがもごもご言い返している。すごく怪しい。
「ロルフはたまに嘘をつきます。ぼくを揶揄って遊んでいます」
「冤罪ですよ」
どこが冤罪なんだ。ぼくの舌足らずをニヤニヤ笑っているじゃないか。ここぞとばかりに、リオラお兄様にロルフの悪行を報告しておく。眉尻を下げて「そうなんだ」と小首を傾げるお兄様は、いかにロルフが悪い男なのか理解してくれたと思う。
ムスッと頬を膨らませながらミルクを味わうが、やっぱりはちみつが足りなかった。
お部屋でのんびりしていたぼくの所へ、リオラお兄様がやって来た。
ロルフは、ちょうどミルクの用意をしに厨房へと行っていた。はちみつたっぷりね、と散々念押ししたのだが少し心配である。ロルフは、なぜかぼくのはちみつをちょろまかすから。さては、ちょろまかしたはちみつをこっそり舐めているのかもしれない。ぼくのはちみつがピンチだ。
「どうかしましたか、お兄様」
大人なぼくは、ロルフが居なくてもきっちりお兄様をお出迎えする。椅子にご案内すれば、お兄様は「ありがとう」と微笑んだ。いつ見ても綺麗なにこにこ笑顔である。
よいしょと向かいに腰を下ろして、リオラお兄様を見上げる。
就寝前だというのに隙のないきらきらお兄様は、なんだか眉尻をちょびっと下げてお困り顔である。なにか大変なことでもあったのだろうか。
やがて手を組んだお兄様は、気まずそうに視線をぼくに注いでくる。
「あのね、アル」
「なんですか」
「ガストン団長に悪気はないんだよ」
「?」
なぜ急にガストン団長。
よくわからないが、「わかりました!」と元気にお返事しておく。リオラお兄様は繊細なので。余計なストレスをかけてはいけない。いつか爆発してしまう。
「ガストン団長はね、休憩中のだらしない姿をアルに見られて気にしているみたいだから」
大目に見てあげてね、と小さく笑うお兄様。
これは、あれだ。ガストン団長とシャルお兄さんは同一人物説の話をしているに違いなかった。
リオラお兄様、まだ真実に気が付いていないのか。思えばお兄様は、激ニブさんである。BL小説の登場人物なくせして、色々と察しが悪い。リオラお兄様って、おとぼけキャラだったっけ? なんかイメージと違うなぁ。
しかし、騎士団の裏切り疑惑もまだ晴れてはいない。裏でライアンが糸を引いている可能性もある。お兄様はライアンにベタ惚れのはずだから。少しくらいライアンがおかしなことをしても、なんとなく流してしまう可能性があった。
はて、どうするべきか。
ここでぼくが、ガストン団長とシャルお兄さんは別人ですと主張しても、「そんなことないよ」で話が終わってしまう。ここは一旦、わかったふりをしてしまおうか。
もんもんと考えていたぼくであるが、タイミングよくロルフが戻ってきた。片手には、あったかミルク。
「ロルフ! ごくろう」
「もっと褒めてください!」
ドヤ顔でミルクを掲げるロルフは、褒められ待ちをしていた。そんな大人気ないロルフに、リオラお兄様があわれむような目を向けている。
「はい、はちみつ入りミルクです」
コトンと音を立てて、ぼくの前にミルクが置かれる。両手でコップを包み込んでから、はっとする。お兄様の分がない。
ムムッとお兄様を見上げる。迷った末に、ぼくは「半分いりますか?」と尋ねてみた。苦笑するリオラお兄様は「私はいいよ。アルの分だろう?」と遠慮してくれた。
これで安心して独り占めできる。
にやにやしながらミルクを口に含む。
「む! はちみつ少ない!」
ロルフめ! またちょろまかしたな!
「甘くない! はちみつ多めって言ったのに」
ジタバタするぼくを眺めて、お兄様は「むし歯になるよ」と宥めてくる。なんでぼくに注意をするのか。ロルフを叱るべきだ。
「お兄様! ロルフはいっつも、はちみつちょろまかしてます! ぼくのはちみつこっそり舐めてます!」
「舐めてませんよ!?」
慌てて否定するロルフは、己の悪事がリオラお兄様に露見して焦っているようであった。
「ぼくのはちみつ返してくださぁい!」
「盗んでなんかいませんよ!」
助けてください、リオラ様と。なぜかお兄様に助けを求めるロルフ。当のお兄様は、困惑していた。
「アル? もう遅いからね。その話は明日にしようか」
「ぼくのはちみつが、どうなってもいいってことですか!」
「ほら、早く飲まないと冷めちゃうよ?」
「む」
お兄様の言うことも一理ある。せっかくのあったかミルクが、ひえひえミルクになってしまう。それはダメ。
はちみつの件は気になるが、気持ちを切り替えてミルクを飲む。何回口をつけても、やはり甘さが足りない。ぼくのはちみつ。今頃、ロルフのお腹の中かもしれない。じっと、ロルフのことを半眼で見つめておく。「盗んでないですってば」と、ロルフがもごもご言い返している。すごく怪しい。
「ロルフはたまに嘘をつきます。ぼくを揶揄って遊んでいます」
「冤罪ですよ」
どこが冤罪なんだ。ぼくの舌足らずをニヤニヤ笑っているじゃないか。ここぞとばかりに、リオラお兄様にロルフの悪行を報告しておく。眉尻を下げて「そうなんだ」と小首を傾げるお兄様は、いかにロルフが悪い男なのか理解してくれたと思う。
ムスッと頬を膨らませながらミルクを味わうが、やっぱりはちみつが足りなかった。
1,852
お気に入りに追加
2,310
あなたにおすすめの小説
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
転生して悪役になったので、愛されたくないと願っていたら愛された話
あぎ
BL
転生した男子、三上ゆうきは、親に愛されたことがない子だった
親は妹のゆうかばかり愛してた。
理由はゆうかの病気にあった。
出来損ないのゆうきと、笑顔の絶えない可愛いゆうき。どちらを愛するかなんて分かりきっていた
そんな中、親のとある発言を聞いてしまい、目の前が真っ暗に。
もう愛なんて知らない、愛されたくない
そう願って、目を覚ますと_
異世界で悪役令息に転生していた
1章完結
2章完結(サブタイかえました)
3章連載
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
悪役令息の死ぬ前に
やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」
ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。
彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。
さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。
青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。
「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」
男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる