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 ロルフと一緒に、庭をうろうろする。すべてはリオラお兄様の恋人探しのためである。

「リオラ様の恋人探すのは理解しました」
「うん」
「ですが、その恋人候補とやらは果たして屋敷の庭園に居るんですか?」
「見落とさないように、よく探してね」
「……もしかして、お相手は人間とは限らない感じですか?」

 変なことを口走るロルフは、いまだに失恋のショックを引きずっている。恋人候補なんだから、お相手は人間限定に決まっているだろうに。

 虫でも探しているのか。地面を真剣に眺めているロルフは、頼りにならない。ぼくがしっかりしないと。

「うーん? 今日はいないかもしれない」
「なにをお探しなんですか?」
「落ちてるお兄さん」
「……」

 黙り込んだロルフは、すっと立ち上がると騎士棟方面へと顔を向けた。

「ガストン団長であれば騎士棟にいらっしゃるのでは?」
「だから。ガストン団長は落ちてるお兄さんじゃないもん」
「もん……」

 なにやら口元を押さえたロルフは、天を仰いでしまう。「もう一回言ってもらえます?」といつもの意味不明なリクエストをまるっと無視して、再び捜索へと戻る。

「落ちてるお兄さん! 今日は落ちていませんかぁ!?」
「アル様って、もしかして大声出しておけば全部なんとかなると思っている感じですか? めっちゃ可愛いっすね」

 ぶつぶつ呟いているロルフは放っておいて、庭をくまなく捜索する。

 いつもお兄さんがべちゃっとしている辺りを中心に見てまわったのであるが、一向に見つからない。そういえば、お兄さんはいつもべちゃっと休憩していると言っていた。今は休憩時間ではないのかもしれない。だとしたらお兄さんが落ちていないことにも納得である。

 そうしてひと通り捜索して、飽きたぼくは地面にべたっと座り込んでみる。

「突然のエネルギー切れ?」

 ロルフがふるふるしているが、無視してやった。

 地面にお尻をくっつけて休憩してみる。あのお兄さんみたく全身でべたっとする勇気はない。あんまり汚すとリオラお兄様に叱られるからな。

 両足を投げ出して、ぺたっと座って休憩すること数分。いつの間にか隣にしゃがみ込んでいたロルフが、ぼくのことを凝視していた時である。

 何者かの足音がして、顔を上げる。

 じっと音がした辺りを見つめていると、花壇の向こう側に人影が見えた。綺麗に手入れの行き届いた花壇へとゆったり近寄ってくるその影には、見覚えがあった。

「リッキー!」

 とりあえず名前を呼んでおけば、リッキーが小さく息を呑んだのがわかった。どうやら座り込むぼくとロルフの姿は、花壇の陰に隠れて見えなかったらしい。「ここです!」とひらひら手を振ると、ようやくリッキーと視線があった。

「アル様」

 大慌てで膝をつくリッキーは、「お邪魔でしたか。申し訳ありません」と律儀に頭を下げてくる。

「ううん。邪魔じゃないよ。今はきゅーけーしてたので」
「休憩ですね」

 なぜか口を挟んでくるロルフをむすっと睨んで、リッキーへと視線を戻す。ロルフは、事あるごとにぼくの舌足らずを馬鹿にしてくるのだ。嫌な従者である。

 ぼくの前に膝をついたままのリッキーは、なんだか思い詰めたような顔をしていた。そういえば、ぼくは公爵家のお坊ちゃんで、リッキーはうちで働く騎士である。お坊ちゃんであるぼく相手に緊張しているのかもしれない。

 リッキーは、原作小説でも真面目なキャラだった。心優しいリッキーに、ライアンがベタ惚れするのだ。いかにもBL小説の受けといったキャラである。

 きちんとハーフアップにされた茶髪をぼんやり眺めて、思案する。リッキーはすごく優しい。その優しいリッキーとは対照的に、リオラお兄様はバリバリの悪役をやっていた。心優しきリッキーは原作通りであるが、その隣にライアンの姿はない。いつもベッタリだったように記憶しているのだが。ここも原作と違う。

「リッキーは、ライアンのこと好き?」
「え、副団長ですか?」

 小首を傾げたリッキーは、悩むように眉尻を下げてしまう。

「あの、アル様」

 苦しげに声を発したリッキーは、ぼくとの会話に緊張しているらしい。ぼくは大人なので、黙って先を促す。

「ライアン副団長は、とてもいい人です」
「うん」
「ですから、副団長とも仲良くしていただけると。申し訳ありません。余計なことを言いました」
「ううん」

 なんだか苦しそうな顔をするリッキーを、慌てて励ます。大丈夫、ぼくは気にしてないと伝えると、ようやく表情が柔らかくなった。

 どうやらリッキーは、ぼくとライアンが揉めていると勘違いしているらしい。そういえば、リオラお兄様もそんなことを言っていた。

「ぼくは、ライアンと仲良しなので、ご心配なく」

 リッキーを安心させるために「仲良しです!」と両手を上にあげておく。ふっと笑いを堪えるロルフのことは気にしない。

 目を瞬いたリッキーは、「そうですか」と胸を撫で下ろす。それにしても。

「それで? リッキーは、ライアンのこと好き?」

 ライアンのことで、リッキーがここまで心を痛めるなんて。こりゃ両想いに違いない。わくわくと問いかければ、「ライアン副団長は、私の大事な人です」と核心をつく返事があった。

「大事な人!?」

 こりゃ大変だ。バッチリ両想いだ。はわわと口元を覆ってリッキーを見上げておく。「はい」と小さく頷いたリッキーは、照れたような顔をしていた。

「副団長は、私の恩人です。私に、騎士という道を示してくれた」

 ひぁ! やるなライアン!

 少しだけ顔を赤くして俯くリッキーは、変な色気があった。さすがBL小説の受け。守りたくなるこの照れ笑い。さすがである。
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