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第3章 エルフとの会談

逃げるコータとネーロスタ

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火焔弾プロメティア

 言葉に反応するように、コータに向けられた手のひらに赤色を帯びた魔法陣が展開される。
 刹那で展開して魔法陣からは、この世を焼き付くさんばかりの紅蓮の焔が吹き出す。
 焔はうねりを上げ、次第に火球よりも小さい形を作り上げていく。
 大きさは小さい。が、1つ1つから感じる魔力量は、火球など話にならない。
 コータは魔法を発動したハイエルフの周囲に漂う5つの火球弾に目を配る。

 ――正直言って、ヤバすぎるだろ。

 国に投下されしものならば、その国は焼け落ちることは目に見えている。
 それほどまでに膨大な威力を誇っているだろう。

「ここで消えてもらう」

 ターゲットはもちろんネーロスタ。
 視線で判別できる。だが、この場にいるコータも無事では済まないことは明白。

「正直、防御魔法は苦手なんだよな」

 てか、まだちゃんと使ったことないかも。

 模擬戦争においても、守るより攻めるを重視していた。そのため、コータは防御魔法に関してはほとんど特訓をしていない。

「やるだけやってみるか。暴風の圧"ウィンディ・プロテクト"」

 自身の前に強い風がうずまき、自身を守る盾となる。
 そうイメージをし、コータは魔法制御を試みる。
 体内に循環する魔力と、放出する魔力。全てを感じて制御する。
 先程の魔法発動で、魔法制御に成功したことは大きいだろう。
 眼前に現れた緑色を帯びた魔法陣から、瞬時に暴風が巻き上がり、自身を守る盾となる。
 同時に、ハイエルフが火球弾を撃ち込んでくる。
 焔と暴風がふれあい、互いを相殺していく。

「まさかッ!? 我らハイエルフと同等の魔法だとでも言うのか!?」

 栄えあるハイエルフが、人間と同レベルの魔法を放つ。
 そのようなことはあってはならない。
 そう言わんばかりに、ハイエルフは目を見開き声を荒らげる。

「嘘でしょ……」

 コータの横では、ハイエルフと同様にネーロスタが驚きを露わにしている。

 ――そんなに凄いのか? 俺の魔法。

 何を以て凄いと言っていいのか。その基準が分からないコータには、驚かれてもあまりピンと来ない。
 だが、分かることだってある。それは、この場から逃げることがどれだけ重要であるか、ということだ。
 このままこの場に留まれば、次から次へと魔法が放たれ、コータの魔力が尽きることは目に見ている。
 だから――

「行きますよ」

 コータは事態に思考が追いつかず、フリーズしてしまっているネーロスタの腕を取る。他のエルフはコータが台風テンペストを放ち、ハイエルフたちの魔法が相殺されたときにこの場から姿を消している。
 あとは、ネーロスタだけなのだ。
 許可など取っている暇はない。
 強引に腕を引き、コータは駆け出す。

「ちょっ、ちょっと!」

 その強引な行動に、ネーロスタは戸惑いを隠せない。だが、コータはそれを聞き入れることはできない。
 ここで止まれば、すぐに魔法が編まれ攻撃されるのは必須。

「いいから。ここから逃げるんです」

 ハイエルフが強いということは、先程の魔法攻撃を見れば分かる。
 強いと分かる相手に数でも負けている。その状況で戦いを挑むのは、アホだ。アホのすることだ。
 コータは腕を引く力を弱めることなく、高等住民区と住民区を繋ぐ景観な場所。
 天に聳えるように生える樹、ソレイユが並び綺麗な小川が流れるそこを横に入る。
 ハイエルフが住まう樹海よりは樹々の量は少ない。だが、それでも樹々が並んでいるだけはあり、迷路のようになっている。

「どこに逃げようと無駄だぞ」

 少し後方より、そんな声が届く。

「今は逃げるんです。こちらが体勢を整えない限りは防戦一方になって、何もできません」

 コータの言葉にネーロスタは黙り込んだ。
 反撃をしようにも、すれば話が拗れる。
 ただ防御しているだけでは、いつかは破られてエルフがやられることになる。
 だから、逃げるが最善だということは理解していた。
 しかし、恐怖がネーロスタをその場に貼り付けていた。

「ありがと」

 だからこそ、引っ張ってでも逃がしてくれているコータに礼を告げた。蚊の鳴くような声で、コータに届いたかどうかも分からない。
 それでも、言葉にしておきたかった。
 ネーロスタの気持ち的に。

「何か言いましたか?」

「いえ、なんでもないです」

 ぎこちない笑みを浮かべたネーロスタが、そう言った時だった。
 高笑いのような声が周囲に轟いた。

 そして次の瞬間、耳を劈くようなパンッ! という轟音が鳴り響いた。
 強い空気の振動が鼓膜に達し、激しく鼓膜を揺らす。
 コータは握っていたネーロスタの腕を離し、思わず耳を塞いだ。

「なっ!?」

 音と同時に眼前に繰り広げられた光景に、コータは喘ぐような声を漏らした。

 樹々には大穴が穿たれ、ミシミシと軋みをあげており今にも折れそうである。

 ――魔法を使った様子もなかった。一体どうなっるんだよ。

 得体の知れない一撃に、恐怖が、焦りが、戸惑いが、全身を襲う。
 コータは何が行われたを確認するため、攻撃元を辿る。
 大穴が穿たれた樹を始点として、後方へと視線を流していく。

「ピストル……?」

 攻撃元を視認したコータは、そう洩らした。
 この世界にあるかどうかは分からない。だが、あのフォルムに似たものは見たことがあった。
 コータが元の世界に居た時にドラマや映画の中で使われていた拳銃。
 穿たれた樹に向かった銃口からは硝煙が上がったている。ハイエルフの手にあるものは、コータのよく知る拳銃、正しくそれだった。
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