上 下
7 / 7
一章 理不尽な別れと新たな出会い

かつて心から信頼し慕っていた人物達

しおりを挟む
「おーい、あんた!! おーい!! ったく……」

 男らしい野太い声が聞こえ、俺は目を覚ました。

「……あれ、何だ? 俺何してたっけ……」
「おいおい、大丈夫なのかあんた。記憶喪失でもしたか?」

 野太い声のほうに寝起きで半開きの目をやると、頭に白いタオルを巻いて防具を着たおっさんが俺を心配そうに見つめている。

「いや、記憶喪失はないと思うけど……あ……そうだ」

 思い出した。
 俺は確かヤケクソでソロ仕事をして、仕事途中に少女と会って化け物に遭遇して、逃げようとしたら墜落したんだった。
 ってことは、はッ!?

「おっさん……あんた、さっきの少女か!? そんな姿してたのか……嘘だよな。嘘だと言ってくれ!!」

 嫌だ。あんな可愛くてエロティックな少女が実はこんな姿だったなんて。
 そんなの、俺はこれから二度と女性を信用できなくなる。

「……兄ちゃん、やっぱ寝ぼけてるなぁ。この髭が、ごつい腕が、少女に見えるか!? 見えるんなら撤退船から病院へ直行してやるよ」
「そんな訳ないよな」
「急に冷静になるなよ……ちょっと悲しいだろ」
「あの子は何処へ――」

 クイッ。
 俺の白シャツが軽く引っ張られた。

「あ……」
「無事、です。私が少女、シフォンです」

 引っ張られたほうに振り向くと、先程まで共に悪戦苦闘していた少女がいた。

「良かった……無事か。君の名前、シフォンって言うんだな。可愛い名前だ」
「あ、ありがとうございます。あの、名前聞いてませんでしたよね。聞いてもいいですか?」
「もちろん。俺の名前はエクリル・マドムウェルだ。よろしく、シフォン」

 お互いの名前を告げた後、俺はシフォンに手を差し出した。
 激戦を乗り切った労いの握手だ。
 シフォンの手に触れたいとか、そんなことは思っていない。

「はい。よろしくお願いします、エクリルさん!」

 シフォンは、差し出した手に喜んで答えてくれた。
 純粋で健気で、なんていい子なんだ。ベリーキュート。

「なああんたら。熱い握手を邪魔したいわけじゃないんだが、こっちも生活のことなんかがあってだな。最近嫁とのあいだにチビが産まれたんだ。そんなわけで大黒柱として仕事頑張ってるわけよ。だから硬貨を支払ってほしいんだが」
「「あ……」」
「硬貨はあるかい?」

 そうだった。
 俺達は仕事の途中で、撤退船を使おうって話をしてたな。
 ってことは、このおっさんは撤退船の人か。

「俺は気絶してて撤退船を呼んだ覚えなんてない……ってことは、シフォンが撤退船を呼んでくれたんだな。ありがとう、助かる」
「いえ、大丈夫です……。エクリルさんが気絶したのは私のせいだし、こんなことしかやれることがないから……」
「シフォンのせいなんて全く思ってないって。まぁとにかく硬貨を払おう。おっさんがチビを養っていけなくなるからな」
「ガハハハッ!! ボロボロのとこ悪いな。こっちも商売だからよ。チビを気遣ってくれてありがとうな」

 そう言って高らかに笑うおっさんに金を支払った後、俺達は帰還の為に撤退船に乗り込んだ。

 ※

「成る程。そういうことだったのか」

 撤退船の船内で、俺は自分が気絶した後のことをシフォンに聞いていた。

「つまり、俺が気絶した後、爆速スピードで暴走する自分を奇跡的に制御できて、なんとか着地。気絶する俺を寝かして撤退船を呼んだってことか」
「はい。本当に奇跡的に、ですけど」

 なんとまあ情けない話だろうか。
 空を飛ぶことに慣れていないこの子が歯を食いしばって頑張っていたのに、普段から空を飛んでいる俺が意識ぶっ飛んでたなんて。

「ごめんな。ホントは俺がリードすべきところを……」
「いえ、仕方ないことだと思います。私こそ、スピード調節もできないのに飛んでしまってごめんなさい」
「そこだ。俺が気になっているのはそこなんだよ」

 そう、俺が気になっていたシフォンの疑問点。

「レンザスに来て一週間って言ってたよな? レンザスに来たってことは、シフォンは冒険者か? まぁ俺が言えた立場じゃないんだけどさ、もっとこう、他の国で経験とか積まないのか?」
「はい、駆け出しですけど、私は冒険者です。ここに来る前、故郷ではそれも考えました。でも、夢を叶えるにはここが一番かなって思ったんです。ここが一番成長できそうだったので」
「夢? どんな夢か聞いてもいいか?」

 冒険者は常に危険が伴う。
 モンスターと戦ったり、危険な場所を冒険したり。
 こんな危険な仕事、夢がないと続けていくのは難しい。

「あの、恥ずかしいんですけど……『アスタロト』へ行ってみたいんです」
「アスタロト……まじか」

 『世界危険指定地域アスタロト』は、まだ実態があまり分かっていない未開の地で、並の冒険者や狩人がアスタロトに立ち入ることはない。
 というか、立ち入れない。
 上位パーティーや有名騎士団の団員でもない限り、すぐに命を落とすだろう。
 しかも、噂では危険な宗教団体が、自分達の理想郷を作るためにアスタロトの進行を暗に進めているとか。
 このように危険なアスタロトだが、冒険者にとっては憧れの地だ。
 まだ人の手が加わっていないからこそ、ロマンを感じる。
 俺も例に漏れず憧れたことはあったが、あまりにレベルが違いすぎるのでほぼほぼ諦めている。

「何でアスタロトへ? やっぱ未開の地だから、気になるのか?」
「あ、はい。それもあるんですけど……」

 シフォンは、何やら恥ずかしそうにゴニョニョしはじめた。
 ゴニョニョ可愛いなおい。

「や、別に言いたくないならいいんだ。それにしても、いい夢じゃないか!! シフォンは凄いな」
「あ……ありがとう、ございます!!!!」
「うおっ――!?」

 シフォンの大声が響き渡る。
 
「あ……すいません!! つい……」
「大丈夫大丈夫」

 声のボリュームをミスったみたいだ。
 よくあることだ。仕方ない。
 それほど夢に本気ということなんだろう。

「おーい、ボルリオに着いたぜ。準備しな」

 俺達が色々話していると、おっさんが到着を報告してくれた。
 俺達冒険者が使う撤退船は、目的地に到着すると、空中の撤退船から地上にロープ網が垂らされる。
 そしてそのロープ網で地上まで降りるというのが撤退船の仕組みだ。

「よし、シフォン。着いたみたいだ。降りるか」
「あ……はい」
「どうした?」

 ボルリオに着いた途端、シフォンは何故か浮かない表情になってしまった。
 理由を聞こうとしたが、何か闇が深そうだったので止めておくことにした。

 ※

 俺達が仕事の報告をしするために訪れたボルリオでは、常に冒険者、狩人なんかで賑わっている。
 今回も例に漏れず、ガヤガヤと人だかりができていた。

「よし、それじゃあ俺は報告しにいくか。何とか討伐できて本当によかった。いきなり負けてちゃ幸先悪いからな」

 三年目の奴が、針龍ニードルドラゴンに負けましたなんて報告したら、流石に担当の人に笑われてしまう。

「あ……シフォンは報告無いし、ここまでだよな。短い間だったけど、改めて、本当に世話になった!! 色々あったけど、なんかそれ含めて楽しかったよ。ありがとな」
 
 そう、短い時間だったけど、何だかシフォンと共に冒険するのは楽しかった。
 冒険が楽しいなんて気持ち、生きるのに必死で忘れかけていたかもしれない。

「あの……えっと……私も、なんです」
「え? 私も?」

 シフォンも、俺との旅が楽しかったと、そう言ってくれるのだろうか。
 これは、恋が始まりそうな予感が――

「私も、実はさっき討伐依頼の任務を受けていたんですけど……負けてしまって」
「――あえ? シフォンも任務途中だったの?」

 もしかして、負けたから言い出し辛かったのか。

「はい。そうなんです。私――」
「おいお前ら、見ろよ!! 夢だけはいっちょ前のザコ冒険者がいたぜぇ!! また失敗したのかぁ~?」

 突然、ボルリオの建物内に大声が響き渡った。
 誰かが何かを叫んでいる。傍迷惑な奴だ。
 急な出来事に俺も多少驚いたが、もっと驚いていたのはシフォンだった。
 ビクッと肩を震わせ、顔がみるみる青ざめていく。
 冷や汗もかいているようだった。

「シフォン……? どうした?」

 何故そこまで怖がっているのか。
 俺はそれを確かめるべく、大声を出した奴の方へ振り返った。
 そこには――




「……は?」



 
 そこには、かつて俺が苦楽を共にしたパーティーメンバー。かつて俺が心から信頼し、慕っていた人物達。
 キルフェン達がいた。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

鬼神の刃──かつて世を震撼させた殺人鬼は、スキルが全ての世界で『無能者』へと転生させられるが、前世の記憶を使ってスキル無しで無双する──

ノリオ
ファンタジー
かつて、刀技だけで世界を破滅寸前まで追い込んだ、史上最悪にして最強の殺人鬼がいた。 魔法も特異体質も数多く存在したその世界で、彼は刀1つで数多の強敵たちと渡り合い、何百何千…………何万何十万と屍の山を築いてきた。 その凶悪で残虐な所業は、正に『鬼』。 その超絶で無双の強さは、正に『神』。 だからこそ、後に人々は彼を『鬼神』と呼び、恐怖に支配されながら生きてきた。 しかし、 そんな彼でも、当時の英雄と呼ばれる人間たちに殺され、この世を去ることになる。 ………………コレは、そんな男が、前世の記憶を持ったまま、異世界へと転生した物語。 当初は『無能者』として不遇な毎日を送るも、死に間際に前世の記憶を思い出した男が、神と世界に向けて、革命と戦乱を巻き起こす復讐譚────。 いずれ男が『魔王』として魔物たちの王に君臨する────『人類殲滅記』である。

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

辺境の契約魔法師~スキルと知識で異世界改革~

有雲相三
ファンタジー
前世の知識を保持したまま転生した主人公。彼はアルフォンス=テイルフィラーと名付けられ、辺境伯の孫として生まれる。彼の父フィリップは辺境伯家の長男ではあるものの、魔法の才に恵まれず、弟ガリウスに家督を奪われようとしていた。そんな時、アルフォンスに多彩なスキルが宿っていることが発覚し、事態が大きく揺れ動く。己の利権保守の為にガリウスを推す貴族達。逆境の中、果たして主人公は父を当主に押し上げることは出来るのか。 主人公、アルフォンス=テイルフィラー。この世界で唯一の契約魔法師として、後に世界に名を馳せる一人の男の物語である。

【18禁】ゴブリンの凌辱子宮転生〜ママが変わる毎にクラスアップ!〜

くらげさん
ファンタジー
【18禁】あいうえおかきくけこ……考え中……考え中。 18歳未満の方は読まないでください。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...