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第4章 「真実の幕開け」

「内原の本性。」

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 「それで内原さん。原稿はいつ仕上がりそうですか??」

 日下部は、柊が持ってきた紅茶と蜂蜜ケーキをごちそうになりながら、原稿の多量に乗っかっている机とにらめっこをしている内原に、遠慮がちに声を掛けたのだった。

 「う~ん、彼は智暁(ともあき)のことを愛していた...。いいや、ここは情熱的に二人きりの空間を作り出して、諒(りょう)がロールキャベツ男子という裏設定から、智暁のことを無理矢理...そして、大人の階段を登らせる...とか???...ちょっとまった~!!!!やっぱりここは、清純派の恋愛をテーマに...。」

 「...あの~、すみません。気持ちよさそうに妄想しているときに...申し訳ないのですが...その~、マエモトに出していただける原稿は...。」

 日下部の声に、はっと我に返った内原は、焦った様子で原稿の紙束をがさがさと漁りだした。

 そうして50枚ほどある紙の束を日下部に渡すと、再び空想の世界へと入り込んでしまった。

 「....あの~、原稿はこれで合ってますよね???...すみませんが、原稿チェックをさせていただきます。」

 「...う~ん、智暁と諒の恋を邪魔する新たなライバル登場っていうのも...悪くない。...名前は...そう...創一(そういち)。おおお!!!!これは、いい案かも知れない。早速書き書きスタートだ!!!」

 今私が持っている....この原稿は、感動ものって感じがするのよね...。

 てっきり私の好きなBLかと思ったけど...って、もしかして...本当にそうなんじゃ。

 ...でも、40いってるだろうおじさんがBLを書き書きする???

 あ~、どうしよう。

 今渡されている原稿の内容なんかじゃなくて、あの内原さんが熱心に空想しているあの物語がのぞき見たい。

 今なら、変態の気持ちもわかる気がするわ。

 でも、なんて言えば???

 ...ただの編集者の分際で、こんなことお願いできる訳もないし....。

 あ~、もう!!

 どうしたらいいのよ!!!!

 日下部はこんな事を考えながら、目の前で楽しそうに空想をしている内原の声が耳に入ってくるせいで、本当はチェックをしなければならない原稿の内容が全く頭に入らず、この状況にひとりで悪戦苦闘している日下部なのであった。

 「よしっ...この話の構成から次に進んでいくとして...。そうだな...智暁は、諒と一緒に大学で行動を共にしているとする。そんな状況に面白みを感じない創一は、智暁にちょっかいをかけだす。...そんな創一に諒が怒りをふつふつとさせる。...おおお、筆が進むぞ~!!!!こんなに調子のいいときは無い!!!!」

 「...うっ...うううっ...駄目だ!!!!もう限界よ!!!...内原さん、今書き書きされている物語は、もしかしてもしかしなくても...BL小説ではないですか!???」

 「あとは、智暁と諒の愛のシーンで...って、えっ!!!!!なんで!!!!あなた今なんて!!!!俺がBLを書いていると言ったのか????」

 「.....っ...。(しっ...しまった...!!!!やってしまった、この馬鹿な私!!!!いくら名前が男の子の名前だとしても、それがBLであるとは限らないじゃないのよ!!!!あー、どうしよう!!!こんなこと、謝っても許してもらえるはず無い...。)」

 日下部が、内原の原稿を読んでいる目の前では、それはそれは楽しそうな顔をして、ずっと筆を走らせている内原が、終始物語に出てくるであろう登場人物の名前を、これでもかというほどに連呼していた。

 その為、流石の日下部も自分の中に秘めているBL魂に火が付いてしまい、勢いよく目の前の内原に質問を投げかけたのだった。

 そんな日下部の行動に肩を一瞬ふるわせると、内原はそれまでの笑顔を封印し、ばっと顔をあげて日下部に冷たい視線を投げかけたのだった。

 日下部は、内原を怒らせてしまったと悟り、とっさにいいわけを考えてこう言った。

 「いっ、いや~、最近はやりのBLって小説家さんも書かれたりするのかな~。なんて思いまして...!!!!(我ながら、なんという最悪のいいわけだ...。こんなことなら、会社が主催している礼儀作法の講習会にでも出れば良かったわ...。)」

 日下部は、目の前で血相を変えている内原に対して、苦し紛れのいいわけをしてしまい、何度も後悔にさいなまれていた。

 「......お前....よく分かったな。そうだよ、俺が書いているのはファンタジーものと感動もの...それに加えて、BLものだ。今まで担当してきた編集者さん達は、みんな俺の原稿をもらうとさっさと帰って行っていた。だがアンタは、俺のこの小さなつぶやきから、俺の書いているジャンルを当ててしまった。....あんた...本当にタダの編集者か???」

 内原は、クビをきられるとびくびくしていた日下部に対して、次の瞬間、興奮ぎみに日下部の考察力への疑問を投げかけたのだった。

 日下部は呆気にとられながら、もう隠しきれないと判断し、目の前で真剣なまなざしを送ってくる内原に、自分の裏の顔について語り出したのだった。

 全てを聞き終えた内原は、驚いた顔が隠せずにただじっと日下部を見つめていた。

 「あの...それで、私のこの本性を知って、どうなさるおつもりですか??」

 「...いや...どうもこうも......。あの...実は、俺...あなたの漫画のお陰でこの仕事が出来ているんです...。」

 「...えっ...えっ!???」

 日下部が驚くのも無理はない...。

 さっき日下部の事を鋭い目付きで睨みつけていた内原の姿は、どこにもなく代わりに残ったのは、一種のあこがれにも似た強い視線を送る全く別の内原の姿だったのだ...。

 動揺している日下部には、まるで気付かずに内原は、先々話を進めていった。

 「いや~、先生!!こんなところでお会い出来るなんて...夢にも思いませんでした!!まさか、俺がお世話になってる編集社のいち編集者だったとは...それで最近は描かないんですか???」

 「いや...えっと......最近色々ありまして...(主に魔族との冒険)...でも、そろそろ描けそうなので、描くつもりです...。」

 「へぇ、そうなんですね。編集者としてお忙しいのによくやりますよね!!...それで、誠に申し上げにくいのですが...俺の...この作品、読んでいただくことできませんか???」

 「...はっ、はい。読むのは全然...(というよりも、5分前の私の心情はどこに行ったの!?...あんなに興味が湧いていたはずの内原さんの作品が、こんなに簡単に読めてしまっていいの!??)。」

 日下部は、こんなことを考えながら目の前で40代にはとても見えないほど、モジモジと恥ずかしそうにする内原の原稿を恐る恐る手を取ったのだった。

 「この作品......とても面白いです!!!智暁と諒のぜつみょーな感じが...なんとも言えない萌えポイントです!!!!」

 「おおおー!!!先生がこんなに褒めてくださるなんて明日は雨が降るかもしれん...!!!」

 「いいえ、そんな大袈裟な...。」

 「大袈裟じゃなくて、大真面目ですよ!!!......あの...つかぬ事を聞きますけど...その...これからも、私の専属編集者になって頂けますか??...もちろん、マエモト編集に出す作品期限は、きっちり守ります。その代わり...私のBL作品の編集者になっていただくことは出来ませんか????」

 困った顔の日下部をよそに内原は、自分の言いたいことを早口で口にすると、そのまま内原の中での仕事が終わりを告げたのか、自室のドアを開けるとリビングへと向かっていったのだった。

 内原が部屋を出て行った後、ひとり部屋にとり残されていた日下部は、内原の話を全て理解するとこう叫ぶのだった。

 「.....いやいやいやいや、ちょっと待とうや....うんうん、一旦落ち着こ....って、落ち着けるわけ無いやン!!!!!!!はぁ!!!!いや、これからどうなるねん!!!!!!内原さん!????ちょっと、私まだ引き受けるなんて一言もいってないですし....!!!!!ちょっ...内原さーん!!!!!」
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