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第一章 「隣国王との出会い」

「俺の仕事。」

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 俺の名前は、アラン・マリーク。....俺は、今日も朝早くから農作業にいそしんでいた。

 そんな俺の住むこの国は、なんとも変わった風習のある村だ...。

 なんでも...16歳を迎えた青年は、五穀豊穣のために、儀式の生け贄として、殺される運命にあるそうだ。

 ...じゃあ、なんで16歳の俺が生きれていられるのかというと....。

 「あらっ???リオンじゃないのよ!!!今日も朝早くから農作業お疲れ様。....そうそう、聞いた???近々、隣町の王子が、結婚相手を探すために、舞踏会を開くそうよ!うちの娘も舞踏会に参加するって張り切って、バイトで頑張って貯めた貯金で、ドレスを買うって言っていたわ~。リオンも、もういい年だし、この際だから舞踏会に参加してみたらどうかしら??王子が駄目でも、他の殿方ともご縁があるかもしれないしねぇ~。.........あっ、まずいわ。お鍋火に掛けっぱなしで、出てきちゃった。じゃあね、リオン。あんまり無理をするんじゃ無いよ???アンタ、ただでさえ身体がほっそりしているんだから。もし手が必要なら、私の12歳になる息子を貸してあげるからね。いつでも言ってちょうだい!!!」

 「あはは、細いのは否定できないですね...。(笑)ありがとうございます。ナシェルおばさん。舞踏会ですか....私には縁のなさそうな話ですが、一応覚えておきます。」

 笑顔で言葉を返した俺を、ちらっと振り返りながら、ナシェルおばさんはにこにこと手を振ってだけど、火にかけた鍋が気になるのか、急いで家に帰っていった。

 さてと....俺も、そろそろ家に帰ろうかな。

 丁度、畑の手入れも終わったし。

 俺は、こう考えるや否や、歩きにくい作業用のドレスで軽く手を拭い、畑で採れたトマトやきゅうりなどを篭に入れて、帰路についたのだった。

 家に帰ると、ベットで眠っているはずの母親がキッチンに立っていた。

 俺はその姿を目に留めると、慌てて母親に駆け寄って、背後からこう声をかけた。

 「母さん、駄目じゃ無いか...。母さんは体が弱いんだから....ほら、何か食べたかったのなら、僕が作るから母さんは、リビングの椅子にでも座っといて。ね??」

 俺は母を心配しながら、椅子のあるリビングに誘おうとした。

 だが、そんな俺に母は、困った顔をして小さな声でこう言った。

 「毎日毎日、アランには世話を掛けているから。朝早くから、畑仕事に行くお前に悪いと思って、せめてご飯ぐらいはって...。」

 俺は、母さんの言葉に心底びっくりしたが、申し訳なさそうな顔をする母さんに微笑みを向けて、半ば強引にリビングへと連れて行ったのだった。

 「母さん...???何回も言うけど、アランは16歳の時に、祭りの生け贄として死んだんだ。今ここに居るのは、リオン。アランじゃない。もしも、俺が生きているなんてばれたら、母さんだって無事じゃ済まないんだよ???分かったら、これからはリオンって呼ぶようにしてね。」

 「...あっ...分かったわ。....リオン。」

 小さく注意を促した俺に母さんは、とても辛そうな表情をすると、キッチンに向かう俺の後ろ姿に小さく

 『ごめんね...。』

 と言葉を発していた。

 俺は、母親のその言葉に強く胸が締め付けられ......咄嗟に聞こえないふりをした。

 はぁ、全く...世間にはどうしてこうも格差があるのだろうか??

 俺と母親の会話で、なんとなくこの世界についてのルールが分かったんじゃないのかな??

 まぁ、時間が許す限りは説明しようか。

 ...まず、俺は本来ならばこの国で死んでいるはずの人間だ。

 理由はさっきも言ったように、この国の風習で五穀豊穣のために、16歳になった青年は、豊穣祭で神への生け贄として殺されてしまうから。

 でも俺には、体を悪くした母親がいる。

 もし俺が生け贄として死んだら、農作業すらままならない母親の面倒を、一体誰が見てくれるって言うんだ??

 俺と母には、もう頼れる身寄りが誰一人として残ってないんだ....。

 全員、あの忌まわしき隣国の国王に皆殺しにされたから....。

 俺の家系は...ある商人に騙されて、気がついたときにはすでに遅かった。

 隣国の国王は、俺の親戚一同の話に全く聞く耳を持たず、必死に声を上げる一同に、なんの躊躇いもなく死刑判決を宣告したのだ。

 まぁ、そんなこと...もうどうでもいいさ。

 今、俺が一番に考えなければならないことは、母さんのこと...。

 この先も俺は、自身の性別を偽って生きていかなければならないんだ。

 これは......運命(さだめ)、仕方がない。

 こんなことを考えながら、リオンはキッチンで昼食の準備をしながら、せっせと家事に勤しむのだった...。


 「母さん??もう夜も深いし、早く寝ないと体に毒だよ???....ん???何見てるの???」

 俺は、夕飯を終え...風呂と題した井戸の近くで、傷付いた体を乱暴に水で洗い流すと、女物の寝具を着て、リビングに向かった。

 リビングには、もう眠ったと思っていた母親が、何かの紙を片手にじっと悩んでいるのか、独りうなっている姿があった。

 俺はびっくりして、そっと背後から母親に近づくと、母の見ている紙をのぞき見たのだった。

 すると、そこには...。

 「母さん...。ごめんね、僕女じゃ無いから、母さんに夢を見せてあげることさえ出来ない...。」

 「っ!!!...ちっ、違うのよ。....母さんは、お前がいてくれるだけで幸せなのよ??....うふふ、もう夜も遅いし、眠るわね??...おやすみ、リオン。」

 「...あっ、おやすみ...母さん。」

 俺の言葉に、酷く取り乱した様子の母さんは、手に持っていた一枚の紙を近くの机に置くと、そのまま自室へと消えていった。

 そう...母さんが見ていたのは、俺が朝方ナシェルおばさんから聞いていた、隣国王子の婚約者を決める舞踏会の案内チラシだった。

 俺は、その時....決心した。

 「母さんには、孫の顔を拝ませてあげることは出来ないけど、おいしいものぐらいは...。お土産として、持って帰ってくることが出来る。あまり乗り気じゃないけど....俺....舞踏会に行ってくるよ。」

 その日の月は、とても綺麗だった...。

 まるで、これからのリオンの人生を表しているかのように....。
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