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「秋良がいなくなった。」

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「秋良?...晩ご飯だよ??おーい、秋良??具合でも悪いの??部屋のドア開けるよ?」

 こう言って俺が、秋良の部屋のドアを開けた時、秋良は部屋に居らず、暗い部屋の机の上には、置き手紙が一枚置かれていた。

 俺は嫌な予感がして、置き手紙をおそるおそる見ると、そこには急いで書いたのか、走り書きで次のように書かれていた。

~シェアハウスの大好きな皆へ~

 俺は、突然であり、誠に勝手ながら...シェアハウスを出て行くことに決めました。
 理由は沢山あるので、言えませんが...。でも、このシェアハウスで過ごした時間は俺にとってかけがえの無いもので...。これ以上書くと、この手紙が涙で読めなくなるので、これぐらいで...。
 俺は、これからも変わらずに大学に通うし、他に家を探して暮らすのでどうか、心配しないでください。
 それから、龍...最後まで、俺の側にいてくれてありがとう。

~神代 秋良~

 俺は、訳が分からなくて、暫く部屋に佇んでいた。

 すると、秋良を呼びに行ってなかなか帰ってこない俺を、心配したのか虎太郎が、秋良の部屋を訪ねに来た。

 そして、部屋の中で固まっている俺を見つけて、虎太郎は俺の向かい側に来ると、俺の持っていた紙を乱暴に奪い取り、ざっと目を通すと次の瞬間、走って部屋を飛び出していった。

 俺も、虎太郎の様子にやっと正気を取り戻し、急いで皆の集まるリビングへと向かった。

 リビングに行くと、そこには先に部屋を出ていった虎太郎が声を荒げて、皆に秋良がいなくなった事を伝えていた。

 そんな虎太郎の様子に、俺はどうしようかと悩んだ末、虎太郎の肩を掴むと、食事の並んだ机へと座るよう、半ば強引に指示をだした。

 虎太郎は、俺に何か言いたそうだったが、俺があまりにも怖い顔をしていたのだろう。

 何も言わずにおとなしく席に着いてくれた。

 バイトから、䴇も龍も帰ってきていたから、その二人もリビングに呼ぶと、俺は重たい空気の中静かに口を開いた。

「...ごめんね。ご飯を食べようと言うときに...。そして龍と䴇は、バイトで疲れているところ悪いんだけど、大事な話だし、一刻を争うかもしれないから。どうしても今でなくちゃいけなかったんだ。あのね、さっき...部屋に秋良を呼びに行ったんだけど、秋良が......家出をした。行方不明って訳じゃないけど、でも机には、これが置かれていた。秋良の手紙だ。これを見る限りだと、本当はこのシェアハウスにいたかったけど、でも、何かやむを得ない事情があって、仕方なくこの家を出たとしか考えられないんだ。秋良のことだから、きっと大丈夫だと思う。でも、もしも事件に巻き込まれているのだとしたら、それこそ命に関わる事かもしれないんだ。...皆を疑っているわけじゃないけど、誰か秋良がいなくなった事情を知っている人はいないか??もし、知っているのだとしたら、どんな些細なことでもかまわないから教えて欲しい。」

 俺がこう言うと、皆俯いたまま、何も言わずにじっと押し黙っていた。

 そんな重たい空気の中、口を開いたのは、䴇だった。

「...あの、俺...実は、秋良さんと龍さんが最近大学であんまりいい関係じゃないの見ていたんです。この間、講義の合間の休み時間に、秋良さんと龍さんがすれ違うところ見たんですけど...。前までは、秋良さんを見つけた龍さんが、チーターのごとく走って行く姿を微笑ましく見ていたんです。でも、この間は、秋良さんが龍さんの存在に気がついたのに、龍さんは、その視線を無視するように、友達と足早に去っていきました。あの、龍さんこれって...。」

 䴇の言葉に龍は、ぎっという椅子の音を立て勢いよく席を立つと、何も言わずに䴇へと近づき、次の瞬間、䴇の目の前にあったお味噌汁のお椀を、䴇の頭上にひっくり返した。

 そして、驚いた様子で龍を見つめる䴇に、龍は乱暴に䴇の腕を引っ張り、床に投げ飛ばすと、そのまま䴇の胸ぐらを掴み、顔を思い切り殴ったのだ。

「おい!!お前、どういうつもりだ!!!お前と秋良は、付き合っていたんだろう??なんでお前が、俺と秋良の関係を、ぐちぐち言ってんだよ!!!俺は、お前たちの『こらっ!!龍!!!!何やってんだ!!いい加減にしろ!!逆上もいいところだぞ!!!』・・・はぁ!!?なんで、俺が悪いみたいになってんだよ!!!!もとはと言えば、コイツが...!!!!!」

 こういった龍に俺は何も理由を聞かず、冷たい目を向けて一言こう言ったんだ。

「...龍、部屋に戻れ!!!!!」

「チッ...くそっ、分かったよ。...鈴斗さんなんて、大嫌いだ。俺も、早いとこ家決めて、こ・ん・な!...胸くそ悪い、キモい集団の集まり...最悪のシェアハウスなんて出て行ってやるから。...皆どうせ、俺が嫌いなんだろう??嫌いなら嫌いってそう素直に、ハッキリ言えよな...。いいよ、分かってるから。」

「...あっ、待って!!龍にっ『虎太郎!!放っておきなさい!!!』......なんで??龍にーが訳もなく、人を殴る訳ないでしょ!?『どんなことがあっても、暴力...手を出したら負けだ。...例え、相手にムカついたとしても、人は殴ったら駄目なんだよ。』...っ!!...今の鈴斗にーは、嫌いだ。意気地なし!!俺、今日はご飯いらないから。...ご飯なんて食べてる暇あったら、秋良捜しに行く方がいいに決まってる。...鈴斗さん...俺初めて鈴斗さんに幻滅した。」

 俺の言葉を無視して虎太郎は、俺にがんを飛ばすと、ソファに脱ぎ散らかしてあったコートを羽織り、慌ただしく玄関を出て行った。

 そんな虎太郎の姿に、部屋に残っていた青ちゃんは、悲しそうな顔をして、俺の横に来ると、小さくこう言った。

「鈴にー、俺は鈴にーの言っていること...よく分かるよ??でも、さっきのは、虎太郎のほうが、大人だったと思う。ごめん、鈴にー...俺......ちょっと頭冷やしてくる。」

 青ちゃんは、泣きそうな顔をして静かに家を出て行った。

 多分、空き地に行って息が切れるまで踊ってくるつもりだろうな。

 俺は、リビングを去っていった仲間に何も言えなくて...。

 目の前で、頭から味噌汁のしずくを垂らしながら、今にも泣きそうな顔をしている、䴇に向き直ると、こう声を掛けた。
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