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木山春斗の勇者録/花沢美雨の勇者録

思い出

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「木山さーん!!」
「な、なんだい? 晴ちゃん」
「今月分の給料出てませんよ!!!」
「ああ、ごめんごめん。はい」
「はいじゃありませんよ!!」
「な、なんでそんなに気が立ってるのかな……?」
「当たり前ですっ!!!」

 そう言って手渡しされた何かを眺めながら僕は思い出す。
 あっ……

 手渡されたのはカレンダーだった。今日は――

「お姉ちゃんの誕生日、祝ってくれる約束でしたよね!?」
「はは、ごめん」
「ごめんじゃないですよ!!」

 あ、熱いなあ。スポコンかな? まあいいや。関係ないしね。とりあえず、この状況はまずいぞ。どうするかな。

「誕生日は祝います、祝いますよ? でもね、晴ちゃん……順序ってやつが――」
「んなもん関係ねえです!!」
「え、ええ……」

 んな無茶な。無理言って僕は用意してたものがあるんだけどなあ……どうしよう。萎える。でも渡さないわけにはいかないから渡すんだよね。結局は。
 誕生日……そういや、あいつも……慎二ももう時期だったな――

「? 木山さん?」
「ううん、なんでもない」
「あ、はい」

 ちょくちょくネットスラング挟むのやめてもらえませんか……対応できないんで……

「お姉ちゃんは今日もオカルト版に張り付いてるんでよろしくお願いしますね~」
「まーたネット掲示板かあ……よく飽きないね、君たちも」
「飽きないのが私達ですから!!」
「お、おう?」

 取りあえず、私とこう。じゃないとおかしくなりそうだ。責められまくってね?

「じゃあ、行きますよーっ!」
「え、どこに?」
「決まってるじゃないですか! 家ですっ!」
「いや、まだ仕事が――」
「んなもんどうでもいいですよ!!」

 り、理不尽すぎる……!!
 でもその理不尽もお姉ちゃん愛から来てるんだろうな。うらやましいよ……僕には、一目ぼれで追いかけ続けて届かない女性がいたからね。

 YIK――根源をたどると、約20年前。第二次世界大戦の時だ。僕たちは戦争を止めるために7人のオクタヴィアを集めることになった。まさか――それがあんなことになるとは思っても見なかったけど。それでも、僕たちがやってきたことに間違いはなかった。確かに――あったとすれば、彼女を、ヴィヴィアンを守れなかったことだろう。
 オクタヴィア――懐かしいな。

「ケビン」
「ん?」
「昔話でも、あいつらに聞かせてやろうぜ」
「……オクタヴィア戦争か」
「ああ」

 オクタヴィア戦争――
 最大死者10万人。負傷者100万人。という最悪を引き起こした最悪の戦争だ。それが――今のブラック企業の元になっていたのかもしれない。今を思えば、だが――
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