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2部 再起編

Project.32 あなたのため

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 私たちの新曲は浅篠さんの目の前で発表された。十六夜くんが別室で待機していた彼女をここまで移動させてきて、私たちが彼女の目の前でパフォーマンスをした。という流れで。終わったあとの彼女の反応は予想していたものと違って薄かったけれどそれでも何かを感じてくれたのか薬の影響で発狂しやすかった彼女は曲の披露している間だけ大人しくなっていた。曲が終わると彼女は泣いていた。何かが彼女の中で変わった、という感じだった。
 歌の力は偉大だし私もそれを改めて実感した。そしてそんな歌はたった1人のために作られ、披露された。本来ならここまでされて嬉しくない人間のが居ないだろう。それは多分、薬でどん底まで落ちた人間も同じだ。彼女は今、どん底にいるままか、這い上がるかの選択を求められている。

「......どうだったかな」
「きっと響くものは響いたさ。俺達が今不安になってどうする」
「何はともあれ僕達が浅篠さんに出来ること、というならこれで全てです。あとは彼女自身の力に頼りましょう」

 とは言うものの、補助がないといけないのは確かなので引き続き十六夜君が彼女の身の回りの事をやりつつ、ということにはなるとのこと。少しずつの変化でいい。少しずつ、私達は変わっていける。罪の意識など探せばいくらでも彼女の中では見つかるだろう。だけど、もう一度日の目を浴びたい。という気持ちは多分誰かになにか影響されなければ罪の意識など後ろめたい気持ちに埋まってしまう。人間は器用にできてないから。悪いことをしてしまえばその罪の意識に耐えきれないか、元から罪の意識などなく、余計にそれを繰り返すか。基本的にはそこの二択になるだろう。だけど時間をかければ第三、第四の選択肢は絶対に出てくるはずだ。

 私達は浅篠さんにとってのその第三の選択肢になろうと今日やり切った。あとは......時間経過を見るだけだ。
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