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第1部 高校編

Project.07 念願の

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 網谷君を口説き落とす作戦はすぐに実行された。まずは彼の好きなものを研究し尽くし、とりあえずは物でつってみる。効果は覿面だった。物凄い食いつきようで話を聞いてくれた。オマケに最初は警戒していたはずの表情も餌付けのお陰が柔らかくなっている気がした。こんなやり方で内心痛むところがあるけれど、これも目指したいアイドルのため…やむをなしである。

「網谷くんはコンプレックスを活かそうと思ったことは無いの?」
「コンプレックスを活かす?」
「君の見た目なら男女で人気出るアイドル目指せるかなぁって思うんだけどさ」

 少しだけまた表情が硬くなったが、前に断られた時よりは遥かにまともな顔であった。おそらくは話を聞き興味を持ってくれたってことなんだろうけど沈黙は少しだけ長く感じた。

「網谷さ、軽音部よりもっと自分を見てくれるところが欲しいんじゃないないのか?」
「でも僕はやりたい音楽があったから……」
「軽音以外にその才能がいかせるなら?」

 少しだけ心が揺らいだような表情をした。どこかで網谷くん自体も軽音部は楽しいけれど自分のやりたいのとは少し違う、というのを分かっていたということだろう。自分が本当に求められている場所で求められら才能を発揮出来る。それってアイドルに限らず誰しもが一番望んでいるものなのではないだろうか? でもそれはきっと自分の中で篭っている間は絶対に見つからない。見つけようと自分で動かないから。きっとその揺らぎなんだろう。

「作曲……したら誰が作詞を?」
「俺がやる」
「出来るの?」
「出来る。……ってかお前といつか曲作りたくて必死になって勉強した」

男同志の友情、と言うには少しばかり網谷くんが可愛すぎる。その光景を見た女子はきっとたちまち自分の中に眠る闘争本能に心が揺れ動くだろう……良き……そんな感じの見てもらい方もありだろう。なによりこれは天然ものである。営業ではない、ガチなのだ。そうとわかれば暫くは私が口を出す余裕はないだろう。いや、出しては行けない……!とても絵になっているし作曲も作詞も両方一緒に活動してくれると約束してくれた。正直これ以上の喜びはないだろう。

「網谷くん。改めて、私たちとアイドルやってくれますか?」
「……もし本当に僕が目指したい場所じゃなかった、そう思ったら降りますよ?」
「それでもいいよ。そう思わないくらい全力でやるんだもん」
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