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同じ国に生まれて、全く違う音楽を聴いてる

8、整理券がいるほどの大盛況イベントだけどわりと無くても見れる

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 家電アウトレットが開催されているのは、ライブなども行われるような大きなホールだった。
 その入り口に向かうと、

「ん?」

 響季が何かを見つける。
 大きな立て看板に、

《ぶんサカトークイベント整理券配布は終了しました》

 という文字が大きく書かれていた。

「えええっ!?整理券とかいるのっ?」
「えっ?」
「うわ…」

 響季の声に後ろの二人も声を上げる。
 そんなんいるの?と。
 それに響季が振り返り、どうすんだよパイセン、どうしよう、バカか調べとけよ、バカぁ?でもそれだったらホナミだって知らなかったんじゃ、♪ぴゅーぴゅぴゅーぴゅー、えっ!?こいつ頭の後ろで手ぇ組んで口笛吹いてごまかしてる!漫画かよ!と、視線と口笛だけで三人が責任をなすりつけていると、

「ああ、ぶんサカ参加される方ですか?大丈夫ですよ」

 係員らしきジャンパーを着たお兄さんが話しかけてきた。

「大丈夫、って?」
「整理券がなくても柵の外側からなら見れますし」
「柵?」
「はい」

 お兄さんは持っていたチラシを手に説明してくれたが、行って直接見た方f早いと三人は会場内に入った。

 場内の一部には大きなステージが設置され、その前に柵が、観覧スペースを設けられていた。
 スペース後方にも柵があり、柵の中が観覧スペースとなっているらしい。
 整理券を貰った人はその中で見れ、それ以外の人は後方柵の外側から見ろということらしい。
 今はイベントとイベントの合間なのか誰もいない。
 一応それらを確認すると、

「どうします?」

 貰ったチラシを見ながらどう時間を潰すか響季がパイセンに訊く。
 始まるまで少し時間がある。
 家電アウトレットだが三人共特に買いたいものはない。
 何も買うものがないのに電機屋に来たようなものだ。
 最新型落ちのケータイやパソコンなどの展示販売はあるが、響季は特に興味もない中、

「あ。カタセ、最新掃除機だって」
「おもちゃだ」
「ええっ!?」

 パイセンと零児は完全に真逆の方へ進みだした。
 パイセンはお掃除家電コーナーへ、零児はラジコンやカードゲームが売られているおもちゃコーナーへと歩いて行く。

「あの、」

 どっちを追うか、いきなり選択に迫られるが、

「ううっ…。れいちゃん一人でだいじょうぶ!?」
「うん」

 こっちは放っといても大丈夫だろうという思いから、パイセンの後を追った。
 一応さっきのデートの分の貯金もあるしと。


「うわあ、思ったより安いっすね。普通に買えちゃいそう」
「うん。今どんどん安いの出てるから。でも値段よりも」
「ああ、先に片付けとかないと意味ないっていう?」
「いやそれより、こういうのってさ、バッテリーが……」
「えー?そうなんすか」
「あとやっぱ海外の、一部のメーカーは」

と、謎に激安なお掃除ロボを前にあれやこれやと話していると、

「あれ?ホナミ、ほっといて大丈夫?」
「へ?」
 
 そういえばとパイセンがおもちゃコーナーの方を見る。
 急に零児の名を出され、響季が戸惑う。
 自分を取り合うためバチバチとライバル視していたのかと思ったが、ちゃんと気にかけてくれてるらしい。

「そうっすね。ちょっと見てきましょうか」



 そうして二人でおもちゃコーナーへと向かうと、

「うわあー!すげえー!」

 零児は展示販売されていたゴツい4WDラジコンを操作してギャギャギャギャ!とスーパーテクニックを披露し、男の子達に羨望の眼差しで見られていた。
 試遊スペースをふんだんに使ってのプレイに歓声が上がる。

「やらせてやらせて!」
「うい」

 そしてコントローラーをねだる子に渡してやる。

「うお、すげえー!」
「おおーっ」

 子供達が勝手に盛り上がり始め、なんだなんだとお父さん達も群がってくる。

「へえー。今のラジコンってすごいんだなあ」
「どうでしょうお父さん」
「え?」
「これならお父さんも一緒に楽しめますよ?」

 更にその一人に目をつけ、零児は勝手に売り込みを始めていた。

「ううーん。でもなあ。場所も取るし値段も」
「ところがどっこい、今ならお安いですし。お父さんは会社勤めで?」
「ええ?ああ、はい…」
「でしたら会社の駐車場などで走らせると爽快ですよ。こういったものは仲間と一緒にやるのが特に楽しいのです。会社の方に自慢すれば、ラジコン仲間も増えましょう」
「いやあでもいい大人が」
「いい大人がやるから面白いのですよ、お父さん。お子さんにではなくご自分で遊ぶ用に」
「…そうか」
「子供の頃、こんなラジコンが欲しくなかったですか」
「欲しかった…、かもしれない。たぶん。いや…、欲しかったっ、オレはっ」
「それが今手に入るのですよ。お父さん」
「お父さん買うの!?」
「……買うか」

 マークしたお父さんに買うよう仕向ける。
 言葉巧みに丸め込み、空気を察した子供の後押しもありお父さんの財布の紐はゆるゆるだ。

「何やってんだアイツは」
「さあ…」

 それを見ていたパイセンは、まだ零児のキャラクターが掴めきれず呆気にとられるが、響季はいつものことだと苦笑いする。そして、

「よっ」

 一台売れたところで零児は帰ってきた。
 軽く手を上げ、反対の手は腰のあたりに回し、二人のもとにぽてぽてと。
 響季はなんだか、親の買い物に付き合わされおもちゃ売り場で勝手に遊んでた子供を迎えに来たような気分だった。



 会場には小さいながらも売店スペースなどもあった。

「んまい」

 零児は揚げパスタなんていう喉オティンにぶっ刺さりそうで怖いものを食べていた。

「げえ、喉カサコソしそう」
「うんまい」
「ホナミ、結構変な食い物好きなの?」
「まあ…、結構。あ、パイセン。タピオカドリンクあるでよ」
「えー?でも量多いな。2つくらい買って三人で分けるか」
「へい。じゃあー、ミルクティーと」
「わっち、チョコミント」
「げえー!れいちゃんしか飲めねーじゃんそれ!」

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