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同じ国に生まれて、全く違う音楽を聴いてる

2、日本の伝統行事 百合ハーレムの匂いがするぞ

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 長時間生歌番組 ミュージックスフィア。
 我らがアニソンディーヴァ ドルチェガーデン。
 彼女達が出演する時間帯は前々日の夜になってようやく公式サイトが発表しだした。
他のアーティスト陣たちも一緒にだがどのブロック、何時から何時までなどざっくりしたものだが、

「やべえ。結構いい時間じゃん」

 夜10時から11時半の間とある。なかなかいい時間帯で響季はワクワクする。
 そして、お茶の間にあの歌声が響き渡るとしたら。
 世間に見つかってしまうかもしれない。話題になってしまうかもしれない。

「よし、よしよし」

 PCを前に響季が腕組みしてうんうん頷く。
 何がよしなのか分からないが、ちょっとぐらいは日本を震撼させるんじゃないかと期待してしまう。
 たとえ出来なくてもすでに海の向こうの世界は震撼してるのだからどうでもいいが。

 そして、この日のためにレコーダの容量も頑張って増やした。
 世間では話題だからと毎週録画して、結局見てないテレビアニメ三ヶ月分をガッツリ消去。
結局映画も消し、だいぶ増えた。
 準備も整ったところで、さあて明後日はどうしましょうかと響季が考える。
 あまり興味のないアーティストのライブを見ましょうか、時間調整の懐かし歌謡曲映像なんかも見ちゃいましょうか。
 それとも放送時間までお外で遊ぶか。
 いやいやそれだと夜を迎える前に眠くなって、気づいたら生出演終わってたなんてこともありうる。
 画質の悪い録画映像を見るなんてもったいない。
 やはり祝日だしダラダラ家で過ごして出演を待とうと考えていたら、

♪てけてれレ~、てれんレてれれ~

「おっ?」

 響季のケータイが、ドラマ 実在性ミリオンアーサー挿入歌 アーサー&ガウェインの あきらめてブランデゴリスを奏でる。
 設定したメロディで誰からかわかる。小阪パイセンだ。
 おまけにメールではなく電話。

「はぁーい、もちもちー。おじいちゃんだよー」
「は?うちのじいちゃんそんな声じゃねえし」
「えー?ワシじゃよワシー。ワシワシ詐欺じゃよ」
「詐欺って言っちゃってんじゃん」

 そんなセオリー通りのやり取りをかましつつ、

「なんすかパイセン。どしたの」
「カタセ、明後日ヒマ?」
「えっ、なんで」

 響季が少々警戒しつつ訊く。
 暇ではない。いや、夜までは暇だが。夜も重要な数分を除けば暇だが。

「いや、あのさあ。ちょっと、付き合って欲しいとこあんだけど」
「はあ、どこ?」
「あのぉー…、なんかさ、サッカーの、イベントなんだけど」
「サッカー?」

 あまりパイセンには馴染みのない、そして自分にも馴染みのない単語が出てきた。

「いや、女子サッカーの、アニメのイベントなんだけど」
「え?なに?アニメ?」
「あの、」

 パイセンの声はもにょもにょしてわかりづらい。
 アニメイベントに行きたいらしいということはわかる。それに誘うのを恥ずかしがっているということも。

「パイセン、ズバッと言っちゃってよ。めんどうですわよ」
「あー…、なんかね、女子サッカー部、の、アニメのイベントがあってね、それにね、あの…、
あーしの好きな、あの、プロのサッカー選手が出るからちょっと見たいなあって」

 言いづらさからなんだか口調がかわいくなってるが言わないでおいた。
 好きな、というのもあまりちゃんと聞こえないことにしたが。

「プロの選手って誰?有名な人?」

 イケメン選手なら名前くらい知ってるかなと思うが、

「ええと、女子の選手なんだけど」
「女子?」

 ここ最近女子サッカーの地位が向上しつつあるというのはなんとなく聞いたことがあるが、ファンとまでなるのは珍しさがある。

「うん…」

 同時に、だからパイセンがもにょもにょしてたのかと理解する。
 マニアックな分野に傾倒してるのを誰かに伝えるのは少し恥ずかしい。
 おまけにそんなイベントに誘うというのも。

「そのアニメの…、ん?パイセン、アニメとか好きなの?」

 パイセンはアニメ等を見るような人種にはあまり見えない。そんな人が見るということはよほど面白いのかと思うが、

「ううん、見たことはないんだけど」
「無いんかいっ!」
 
 なんのひねりもなく響季がツッこむ。
 ということは、本当にその選手目当てらしい。

「っていうかどこでやるのそれ。そのイベント」
「なんか家電製品のアウトレットセールイベントみたいなやつ。その中でやるっぽい」
「はあ…」

 これまたマニアックなイベント過ぎてピンと来ない。
 興味もないし行く機会もない。
 となると逆に面白そうだった。
 大きなイベントの中でやる小さな客寄せイベントのようだが、

「なんてイベント?…ああ、はいはい。出てきた」

 電話したままパソコンで告げられたイベントを響季が調べる。
 催しという項目をクリックすると確かにそのようなイベントがあったが、

「おっ!」
「なに」
「いや、うん…。なるほど」

 そのアニメイベントというのには声優が出るらしい。それも知ってる声優ばかり。
 これは、と響季が思う。
 行ってもいいではないかと。

「ふううぅーん。へえー、なるほどねぇ」

 だが敢えて興味なさそうな声を出す。

「どう?」

 すると思った通り向こうは一緒に行ってくれる?とお伺いを立ててくるが、

「おともだちと行かないんすか」
「こんなん誘っても誰も行かねーよ。だから頼んでんだろうがよ」

 上からいったらキレられた。なので、

「あらー、誘ってるのにそんな態度でよろしいんざんすか?」
「ぐっ。……じゃあいいよっ!一人で行くからっ!」

 更にマウントを取るようにそう切り返すと更にキレてしまった。ちょっとかわいそうかなと思うがやはりつっつきたくなる。
 が、もうここら辺が限界かなと感じ、

「いやいや一緒に行きますよぉ。パイセン一人だと迷子になって鳥取砂丘まで行っちゃうし」
「ならねーし行かねーよっ!」
「でもこれどっちかって言うと小さい子向けアニメでしょ?高校生一人とか気まずくない?」
「それは、まあ…」

 もっともらしい理由を添えて同伴を申し出ると図星なのか口ごもる。
 というかパイセンが一人で行けない理由はそれだろう。
 しかし、そこまで言って響季が「ん?」とイベント開催場所に目をやる。
 結構遠いがこの近くに確か、と。

「パイセンちょっと待って」
「うん」
「……♪消化が悪~いよ~、ラララ沢ガニ丸唐揚げ~」
「何の歌だよっ!」
「保留音」

 そんなオリジナル小ボケソングをかましつつ別ウインドウを開いて調べると、やはりそうだった。

「やっぱり…。パイセンさ、献結最近してる?」
「え、なんで…」
「してんのかどうかっての」
「……してないけど」
「やっぱり」
「なんで?」
「ついでにやろうよ。近くにルームあるから」
「ええっ!?」

 パイセンが行きたいイベントの近くに響季がちょっと行ってみたい献結ルームがあった。
 遠いしわざわざ行くのも、でも気になるという程度の魅力の。
 しかしパイセンを連れてくという名目があれば行ける。
 おまけに、

「献結する人用に新しく付き添いさん制度ってのあるからさ、それ使ってみたいんすわ」
「なにそれ」
「あごあしまくらちゃんカードの」
「アゴアシ?」
「パイセン持ってないの?献結する人が使えるお得なカード」
「…持ってない」
「なんだよー。バカかよー」
「ああっ!?」

 パイセンが電話越しに凄んでくるが電話越しなので怖くない。
 パイセンはあごあしまくらちゃんカード自体知らなかった。イチから説明しないとダメなようだ。
 響季はまずカードの説明をし、更に付添者もサービスが受けられるという制度が出来たことも教える。
 要は行ってみたいルームが遠くにあるが自分は献結をやったばかりでまだ出来ない、でも知り合いがするのでそれの付き添いという形で行くまでのアゴあしまくら代を何割か負担してくれるというサービスだ。
 あるいは単純に、献結をしたことがない献結資格者や、久しぶりだったりあまりしないから緊張するという知り合い献結者の付き添いという形でもいいらしい。
 この条件にパイセンと響季はちょうど当てはまる。

「そうなんだ」
「だから作ったほうがいいよ。っていうか作りなさい。無料だしネットですぐできるから」
「うん…」

 言われるがままパイセンが承諾する。こういう素直なところは可愛いなと響季は思った。
 そしてネット申請のやり方を説明すると、イベント当日の計画を簡単に打ち合わせする。
 イベントは昼過ぎからだが、その後ルームに行ってもドルチェガーデンの出番には十分間に合う。

「そんじゃねー。パイセン」
「うん。ありがとう」

 素直なありがとうが妙にくすぐったくて、響季の顔がニヤつく。だが、

「へへへ。あれ?」

♪ててん、ててん、ててん、ててん、ててん てれれれレれれれれ~

 電話が切れるのを待ってたかのようなタイミングで、またケータイが鳴る。
 実在性ミリオンアーサー 挿入歌 モーガン&アーサーの 破壊こそが生きがい。
 設定したメロディで誰だかわかる。零児だ。
 こちらもメールではなく珍しく電話だった。

「なんだろ。もしもし」

 妙な胸騒ぎをしながら電話に出ると、

「…アア、響季かイ?」
「おばあちゃん!?」

 可愛らしい高めのばあちゃん声が聞こえてきた。

「どうしたのばあちゃん」
「ゲッゲッゲッゲッゲッ!騙されおったな、わしゃ貴様のババではないわっ!」
「誰だよ!笑い方汚っ!」

 急に放たれたボケボールにも頑張ってツッこむと、

「あのさ」
「お、おう…」

 いきなりいつもの声を切り替え、本題に入りだした。

「明後日ヒマ?」
「えっ、なんで…」
「ちょっと付き合って欲しいとこあんだけど」

 嫌な予感がした。
 そしてそれは的中した。

「家電製品のさ、アウトレットセールみたいのがあってそこに行きたいんだけど」
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