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ぼくたちのホームグラウンド戦記(アウェイ戦)
21、さんぞくがあらわれた!さんぞくはくろわっさんどーなつがほしそうにこちらをみている!
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無事に献結を終えた後。
「んんんんっ」
ドーナッツが並んだショーケースを前に、腕組みをした響季がぐぬぬ顔で悩み、横目でそれを見ていた零児がやれやれとため息をつく。
献結した人が食べれるドーナッツは一個だった。
対して並んだドーナッツの種類は。
サーターアンダギー、チュロス、クリームが入ったふわふわ穴なしドーナッツ。
この辺りは零児が持っていた冊子で見た通りのもの。食べたかったフレンチクルーラーも当然ある。
そしてその中に、
「クロワッサンかぁぁぁ」
クロワッサンドーナッツがあった。
暴力的なまでに高カロリーで、日本においても比較的新しめのドーナッツ。
それゆえ一般ドーナッツとしては見かける率が低い、いわばレアキャラだ。
だからこそ食べる機会がなく、響季からすれば見かけたら食べたい逸品だった。
なのにだ。
「うぬぬぬ」
今日はどうしても口とお腹がフレンチクルーラー仕様なのだ。
カロリー的にも真逆に位置する。
でも目の前のこれが食べたい。いや、食べないときっと後悔する。
しかし今日の目的はあくまでフレンチクルーラーで-。
「はよせいや」
「うぬっ!」
身体を折り曲げ、ショーケースを睨む響季のおヒップを零児が軽く蹴り、ケースの内側にいたウエスタンシャツ姿のドーナッツ係お姉さんが苦笑いする。
当然、選んでいる間もすぐにオーダーを承れるよう、トング片手にずっと待っていてくれた。
お姉さんを待たせるわけにもいかず、
「ええー?じゃあれいちゃん決まっ…、あっ、そうか。れいちゃん何にすんの!?」
もう決まったの?と訊こうとするが、あることに気づき響季が勢い込んで尋ねる。
その目は、そうだ、れいちゃんに自分が食べたいものの第二候補、クロワッサンドーナッツを選ばせてそれを一口貰えばいいのだと言っていた。
「そうだな……」
零児が顎に手をやり、並んだドーナッツをじっくり見ていく。そして、
「サーターアンダギーかな」
「はあああああああああ!?一番どうでもいいやつっっ!!」
選んだものに響季が全力でケチを付ける。
現地の方には申し訳ないが、ドーナッツという点ではシンプル過ぎて、どうしても食べたければ沖縄物産展で買えるやつだ。
「じゃあチュロス」
「うーわあああああああああああ!!どうでもいいやつナンバー2!っていうかどこでも食べれるじゃん!!」
チュロスなら映画館でも売ってるし、なんだったらコンビニのパンコーナーにだってある。
が、零児の行動は優柔不断な友人の考えがわかってのことだ。
自分が好きなモノはこの中にはあまりない。だから悩んでいる響季に選択肢を譲ってあげようと思った。
それを踏まえて、敢えて一番どうでもいいのと二番目にどうでもいいのを選んだのだ。
なんでよりにもよってそんなの選ぶのさとツッこまれるのを見越して。
しかし、ツッコミに愛が足らなかった。
欲望に忠実過ぎて少々扱いが乱暴だった。
「じゃあ響季、どれ食べたいの?」
選んだものを乱暴に跳ね除けられ、ムッとした顔で零児が訊く。
「え?えーと…」
「フレンチクルーラーでしょ?」
「……そう」
「あとは?」
「………クロワッサン、ドーナッツ」
第一候補はともかく、第二候補はやはり零児の予想通りのものだった。というか声に出ていた。
食べたいものを告げると、腕組みしたまま響季がちらっとお伺いの目で零児を見る。
おそらく、零児はあまりこのドーナッツ達に興味を示していないはずだと。
あんなスイーツ祭りに行くぐらいなのだから、単純な味のドーナッツには惹かれないはず。
お好きなココナッツ系やシナモン系も無い。
日本人の味覚を振り切るような、激アマフレーバーなアメリカンドーナッツも。
だから、好きなのがないなら選択肢を譲ってくれないかなあと願った。
直接頼むのはさすがに気が引けるので、心の中で願うだけだ。
クロナッツか、と独り事のように零児が言う。
その口から、じゃあフレンチクルーラーとクロワッサンドーナッツを、とお姉さんに言ってくれないかなあ、言ってくれたら嬉しいんだけどなあああと響季が思っていると、
「あんまり好きじゃないな」
「ええええっ!?」
「そんなん選ぶならコレでいい」
食べたいものをそんなんと切り捨て、これ、と零児がまんまるクリームドーナッツを指さす。
好きなモノはあまりない。が、やすやすと《もう一個食べたい》の権利をあげるのも癪だった。
ツッコミに愛がないのもやはり引っかかった。
「…絶対に、ひとり一個だけですか」
「決まりなものでー」
作戦がうまく行かなそうなことを悟り、響季が確認をとるが、ドーナッツお姉さんは困ったような顔であっさり切り捨てる。
そのやりとりを見て、
「あ」
ぱんと、何かに気づいたように零児が顔の前で手を叩く。そして、
「ブランチ見てきました」
魔法の言葉を、口元に手のひらを添えてこそっと伝えてみる。
土曜の暇な昼辺りに告知される、特定の店で割引やサービスが受けられる魔法の言葉を。
「ちょっとー、そういうのはやってないので」
苦笑いでお姉さんは対応するが、そうかとその流れを読み、
「アド街見ました」
「そういうのもー」
響季も乗っかり、魔法の言葉を言うが、またもやお姉さんは困り笑顔でかわす。
そこを逃さず、
「じゃあ怪奇恋愛作戦見てきました」
そう零児も乗っかる。
「え…、そ、そういうのも」
「アラサーちゃん無修正見てきました」
「あの、」
「ホーリーランド見てきました」
「ええと」
それは、急に始まった。
重箱の隅をつつくような地域掘り下げバラエティ番組の名から、それを放送している局のドラマ見てきました攻撃に繋げる。
ドーナッツの選択肢クレクレ心理戦はサクッと休戦し、互いに乗っかりあい流れを作ると、ドーナッツお姉さんを困らせるという連携プレイを二人は仕掛けた。
「ウレロシリーズ見てきました」
「だから」
「孤独のグルメシリーズ見てきました」
「そういうのは」
「勇者ヨシヒコシリーズ」
「やってな、ぃ」
「ネギま!」
「めしばな刑事タチバナ!!」
「モテキ!!」
「GOGO HEAVEN!!」
お姉さんの拒否を押し切るように、二人の声に熱が入り出す。
もうこそっとどころではない。見てきたからくれなども、もう関係無かった。
お互いに負けるものかと記憶を引っ張りだし、自由過ぎる深夜ドラマのタイトルを言い合うだけになっていた。
楽しくて、どんどんヒートアップしていく。
「何見てきてもダメです!」
困ったドーナッツお姉さんは首をブンブン振って拒否する。そんな態度をとっても二人には楽しくなるだけだが。
「じゃあ、ぼいすらっがぁみてきました」
「れすきぅふぁいぁみてきました」
「がろぅ、がろぅ」
「りうけんどぉー」
「ダメダメ!」
更に今度は同局の特撮番組見てきました攻撃をこそっと小声で食らわすが、お姉さんはダメの姿勢を崩さない。しかし、
「はああ!?ボイスラッガーだよ!?」
「ひいいっ!」
「れいじはんおちつきなはれ!」
あの声優顔出し迷作特撮がなぜ通らない、あの過酷スケジュールゆえ出演者が道端で寝こけたり、デビューしてすぐの紅白出場声優がチョイ役で出たりしていたあの特撮がと、怒りを露わに零児がショーケースをばんばん叩きながら訴え、響季がその腰を掴んで落ち着けと諭す。
しかしその顔は笑っていた。零児の急なキレ芸が楽し過ぎてだ。
「ダ、ダメ!ダメ!ダメですっ!」
なぜ女の子がブチギレてるのかわからないが、ここもお姉さんはダメで押し切る。
「じゃあ、ユキポンのお仕事」
「オーマイキー」
「ダメですっ!」
趣向を変え、二人はミニドラマ枠で攻めてみるがこれも突っぱねられ、
「じゃあ、闇金ウシジマくん」
「ん?」
続いて零児が言ったタイトルに響季が引っ掛かる。それは、と。
わざわざ頭にじゃあ、などと零児は付けた。それは、一連のやりとりからすると流れを変える合図であった。
それらを踏まえた上で、ドラマデータベースを検索し、
「れいじはん、そ、それは、TBSのドラマだぁあああ!」
「あっ、し、しまったあああああ!ぎゃああああああ!お許し下さいテレビ東京様あああああああ!ぎいゃああああああ!ビリビリビリィイ!!」
そう指摘されると芝居がかった口調と発声とともに、零児は見たことのないぐらい大口を開けて悲鳴を上げ、テレビ東京様に許しを請う。
口で雷SEを言いながら、見えない雷に打たれたように手足をバタバタさせてみせる。
全力のバタバタと絶叫を、響季はこらえきれない半笑いで見て、ドーナッツお姉さんは呆気にとられたようにぽかんと見ていた。
そして、
「さて」
「えええっ!?」
プチ大騒ぎなどなかったような零児の切り替えぶりに、お姉さんはついていけない。更に、
「じゃ、深夜食堂」
それ自体がメニューかのように響季がカウンターに肘を乗せて言うと、
「ひびきはん、それは、」
零児のその口ぶりに、お姉さんが、ま、まさかと身構える。この流れはと。
「それは…、それもTBSのドラマやああ!」
「し、しまっとぅわああああ!ぎいやああああああ!許して下さい東京12チャンネル様ああああ!ボキボキボキィィイイ!」
こちらはコントっぽい口調と発声で、響季が悲鳴とともに旧チャンネル数で大テレビ東京神に許しを請う。
苦悶の表情で、糸の切れた操り人形のように手足の関節を曲げて身体全体を床につくぐらい折り曲げる。
そして、
「というわけで、一個追加で」
「なにがというわけなんですか!」
零児が特別にもう一個くれと人差し指を立てて見せると、お姉さんに至極まっとうなツッコミを返される。
長尺コントを見せたからといってドーナッツが貰えるほど世の中甘くない。が、
「もうっ、マスター!マスター!」
「なに、どうしたの?」
「わっ…」
「んんんんっ」
ドーナッツが並んだショーケースを前に、腕組みをした響季がぐぬぬ顔で悩み、横目でそれを見ていた零児がやれやれとため息をつく。
献結した人が食べれるドーナッツは一個だった。
対して並んだドーナッツの種類は。
サーターアンダギー、チュロス、クリームが入ったふわふわ穴なしドーナッツ。
この辺りは零児が持っていた冊子で見た通りのもの。食べたかったフレンチクルーラーも当然ある。
そしてその中に、
「クロワッサンかぁぁぁ」
クロワッサンドーナッツがあった。
暴力的なまでに高カロリーで、日本においても比較的新しめのドーナッツ。
それゆえ一般ドーナッツとしては見かける率が低い、いわばレアキャラだ。
だからこそ食べる機会がなく、響季からすれば見かけたら食べたい逸品だった。
なのにだ。
「うぬぬぬ」
今日はどうしても口とお腹がフレンチクルーラー仕様なのだ。
カロリー的にも真逆に位置する。
でも目の前のこれが食べたい。いや、食べないときっと後悔する。
しかし今日の目的はあくまでフレンチクルーラーで-。
「はよせいや」
「うぬっ!」
身体を折り曲げ、ショーケースを睨む響季のおヒップを零児が軽く蹴り、ケースの内側にいたウエスタンシャツ姿のドーナッツ係お姉さんが苦笑いする。
当然、選んでいる間もすぐにオーダーを承れるよう、トング片手にずっと待っていてくれた。
お姉さんを待たせるわけにもいかず、
「ええー?じゃあれいちゃん決まっ…、あっ、そうか。れいちゃん何にすんの!?」
もう決まったの?と訊こうとするが、あることに気づき響季が勢い込んで尋ねる。
その目は、そうだ、れいちゃんに自分が食べたいものの第二候補、クロワッサンドーナッツを選ばせてそれを一口貰えばいいのだと言っていた。
「そうだな……」
零児が顎に手をやり、並んだドーナッツをじっくり見ていく。そして、
「サーターアンダギーかな」
「はあああああああああ!?一番どうでもいいやつっっ!!」
選んだものに響季が全力でケチを付ける。
現地の方には申し訳ないが、ドーナッツという点ではシンプル過ぎて、どうしても食べたければ沖縄物産展で買えるやつだ。
「じゃあチュロス」
「うーわあああああああああああ!!どうでもいいやつナンバー2!っていうかどこでも食べれるじゃん!!」
チュロスなら映画館でも売ってるし、なんだったらコンビニのパンコーナーにだってある。
が、零児の行動は優柔不断な友人の考えがわかってのことだ。
自分が好きなモノはこの中にはあまりない。だから悩んでいる響季に選択肢を譲ってあげようと思った。
それを踏まえて、敢えて一番どうでもいいのと二番目にどうでもいいのを選んだのだ。
なんでよりにもよってそんなの選ぶのさとツッこまれるのを見越して。
しかし、ツッコミに愛が足らなかった。
欲望に忠実過ぎて少々扱いが乱暴だった。
「じゃあ響季、どれ食べたいの?」
選んだものを乱暴に跳ね除けられ、ムッとした顔で零児が訊く。
「え?えーと…」
「フレンチクルーラーでしょ?」
「……そう」
「あとは?」
「………クロワッサン、ドーナッツ」
第一候補はともかく、第二候補はやはり零児の予想通りのものだった。というか声に出ていた。
食べたいものを告げると、腕組みしたまま響季がちらっとお伺いの目で零児を見る。
おそらく、零児はあまりこのドーナッツ達に興味を示していないはずだと。
あんなスイーツ祭りに行くぐらいなのだから、単純な味のドーナッツには惹かれないはず。
お好きなココナッツ系やシナモン系も無い。
日本人の味覚を振り切るような、激アマフレーバーなアメリカンドーナッツも。
だから、好きなのがないなら選択肢を譲ってくれないかなあと願った。
直接頼むのはさすがに気が引けるので、心の中で願うだけだ。
クロナッツか、と独り事のように零児が言う。
その口から、じゃあフレンチクルーラーとクロワッサンドーナッツを、とお姉さんに言ってくれないかなあ、言ってくれたら嬉しいんだけどなあああと響季が思っていると、
「あんまり好きじゃないな」
「ええええっ!?」
「そんなん選ぶならコレでいい」
食べたいものをそんなんと切り捨て、これ、と零児がまんまるクリームドーナッツを指さす。
好きなモノはあまりない。が、やすやすと《もう一個食べたい》の権利をあげるのも癪だった。
ツッコミに愛がないのもやはり引っかかった。
「…絶対に、ひとり一個だけですか」
「決まりなものでー」
作戦がうまく行かなそうなことを悟り、響季が確認をとるが、ドーナッツお姉さんは困ったような顔であっさり切り捨てる。
そのやりとりを見て、
「あ」
ぱんと、何かに気づいたように零児が顔の前で手を叩く。そして、
「ブランチ見てきました」
魔法の言葉を、口元に手のひらを添えてこそっと伝えてみる。
土曜の暇な昼辺りに告知される、特定の店で割引やサービスが受けられる魔法の言葉を。
「ちょっとー、そういうのはやってないので」
苦笑いでお姉さんは対応するが、そうかとその流れを読み、
「アド街見ました」
「そういうのもー」
響季も乗っかり、魔法の言葉を言うが、またもやお姉さんは困り笑顔でかわす。
そこを逃さず、
「じゃあ怪奇恋愛作戦見てきました」
そう零児も乗っかる。
「え…、そ、そういうのも」
「アラサーちゃん無修正見てきました」
「あの、」
「ホーリーランド見てきました」
「ええと」
それは、急に始まった。
重箱の隅をつつくような地域掘り下げバラエティ番組の名から、それを放送している局のドラマ見てきました攻撃に繋げる。
ドーナッツの選択肢クレクレ心理戦はサクッと休戦し、互いに乗っかりあい流れを作ると、ドーナッツお姉さんを困らせるという連携プレイを二人は仕掛けた。
「ウレロシリーズ見てきました」
「だから」
「孤独のグルメシリーズ見てきました」
「そういうのは」
「勇者ヨシヒコシリーズ」
「やってな、ぃ」
「ネギま!」
「めしばな刑事タチバナ!!」
「モテキ!!」
「GOGO HEAVEN!!」
お姉さんの拒否を押し切るように、二人の声に熱が入り出す。
もうこそっとどころではない。見てきたからくれなども、もう関係無かった。
お互いに負けるものかと記憶を引っ張りだし、自由過ぎる深夜ドラマのタイトルを言い合うだけになっていた。
楽しくて、どんどんヒートアップしていく。
「何見てきてもダメです!」
困ったドーナッツお姉さんは首をブンブン振って拒否する。そんな態度をとっても二人には楽しくなるだけだが。
「じゃあ、ぼいすらっがぁみてきました」
「れすきぅふぁいぁみてきました」
「がろぅ、がろぅ」
「りうけんどぉー」
「ダメダメ!」
更に今度は同局の特撮番組見てきました攻撃をこそっと小声で食らわすが、お姉さんはダメの姿勢を崩さない。しかし、
「はああ!?ボイスラッガーだよ!?」
「ひいいっ!」
「れいじはんおちつきなはれ!」
あの声優顔出し迷作特撮がなぜ通らない、あの過酷スケジュールゆえ出演者が道端で寝こけたり、デビューしてすぐの紅白出場声優がチョイ役で出たりしていたあの特撮がと、怒りを露わに零児がショーケースをばんばん叩きながら訴え、響季がその腰を掴んで落ち着けと諭す。
しかしその顔は笑っていた。零児の急なキレ芸が楽し過ぎてだ。
「ダ、ダメ!ダメ!ダメですっ!」
なぜ女の子がブチギレてるのかわからないが、ここもお姉さんはダメで押し切る。
「じゃあ、ユキポンのお仕事」
「オーマイキー」
「ダメですっ!」
趣向を変え、二人はミニドラマ枠で攻めてみるがこれも突っぱねられ、
「じゃあ、闇金ウシジマくん」
「ん?」
続いて零児が言ったタイトルに響季が引っ掛かる。それは、と。
わざわざ頭にじゃあ、などと零児は付けた。それは、一連のやりとりからすると流れを変える合図であった。
それらを踏まえた上で、ドラマデータベースを検索し、
「れいじはん、そ、それは、TBSのドラマだぁあああ!」
「あっ、し、しまったあああああ!ぎゃああああああ!お許し下さいテレビ東京様あああああああ!ぎいゃああああああ!ビリビリビリィイ!!」
そう指摘されると芝居がかった口調と発声とともに、零児は見たことのないぐらい大口を開けて悲鳴を上げ、テレビ東京様に許しを請う。
口で雷SEを言いながら、見えない雷に打たれたように手足をバタバタさせてみせる。
全力のバタバタと絶叫を、響季はこらえきれない半笑いで見て、ドーナッツお姉さんは呆気にとられたようにぽかんと見ていた。
そして、
「さて」
「えええっ!?」
プチ大騒ぎなどなかったような零児の切り替えぶりに、お姉さんはついていけない。更に、
「じゃ、深夜食堂」
それ自体がメニューかのように響季がカウンターに肘を乗せて言うと、
「ひびきはん、それは、」
零児のその口ぶりに、お姉さんが、ま、まさかと身構える。この流れはと。
「それは…、それもTBSのドラマやああ!」
「し、しまっとぅわああああ!ぎいやああああああ!許して下さい東京12チャンネル様ああああ!ボキボキボキィィイイ!」
こちらはコントっぽい口調と発声で、響季が悲鳴とともに旧チャンネル数で大テレビ東京神に許しを請う。
苦悶の表情で、糸の切れた操り人形のように手足の関節を曲げて身体全体を床につくぐらい折り曲げる。
そして、
「というわけで、一個追加で」
「なにがというわけなんですか!」
零児が特別にもう一個くれと人差し指を立てて見せると、お姉さんに至極まっとうなツッコミを返される。
長尺コントを見せたからといってドーナッツが貰えるほど世の中甘くない。が、
「もうっ、マスター!マスター!」
「なに、どうしたの?」
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