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ぼくたちのホームグラウンド戦記(アウェイ戦)

4、鮨以外のものでも腹いっぱい

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「褐色筋肉はやはり大事で」
 「へえ」

  男女ともに筋肉談義はうざったいから、もしされたら作る水割りの酒の割合を徐々に増やすなどして早めに潰してしまえと柿内君には言われていたが。

 「あとは脳かな。脳の消費カロリーも結構バカにならないから、頭フル回転するようなことしたり」
 「パズルゲームとか?」

  響季にとって寿司を肴に聞く筋肉講座はなかなか面白かった。
  というより自分の身を持って体験したことを零児が教えてくれるのが単純に嬉しかった。
  取った寿司を食べつつ、ふむふむと聴き、食べた皿を重ねていった。そして、


 「ふうーっ。あとどれくらい?」

  満腹気味のお腹をさすりながら響季が訊く。
  本日の回転寿司は優待券の上限を少し上回るくらいに食べなくてはならないのだが、すでにまぐろの竜田揚げも食べたし、サーモンも食べたし、ポン酢ジュレ乗っけみたいのも食べたし、お高い一貫皿も食べたし、焼きサーモンも食べた。
  が、タダでたくさん食べれる!、けれど金額を計算し、ある程度セーブして食べ無くてはならないという気持ちのせいか、思った以上にお腹がいっぱいになってきた。

 「もうちょいいけるかな」

  むぐむぐ寿司を頬張りつつ、零児がテーブルに置かれた皿をチェックする。
  二貫づつの寿司を一貫だけ食べ、次の皿を取ってスイーツを食べ、それが食べ終わらないうちにまた寿司を取る。
  そんな食べ方を零児がするため、テーブルの上は彼女の周りだけごちゃごちゃに散らかっていた。

 「ちゃんと全部食べれる…、よね。貴方は」

  咎めるように響季が言うが、その声がしぼむ。
  零児の食欲と胃袋は伊達じゃない。おまけに今日は減量解禁でもある。
  食べたものがそんなにすぐ身体に付くわけもないだろうが、炭水化物を摂取し、先程までシュッとしてかっちりしていた零児の身体がほんのり丸みを帯びた気もする。特に頬が。
  これならすぐ以前の姿に戻るかなと思いながら響季はお茶を啜った。


  二人が寿司をたらふく食べれる理由は、零児が貰った優待券のおかげだ。
  通された席に着くと、これ、と零児がチケットを見せてくれた。
  全国共通と書かれた回転寿司屋の優待券。
  どうしたのと響季が訊くと、ちょっと貰ったと零児は答えた。
  ちょっと、と言うだけで詳しくは言わない。
  ちょっと全国の寿司チェーン店で流れてる店内ラジオでメールが読まれたので、ノベルティとして貰った。

  ただそれだけだった。
  だがそれを、零児は言わない。
  番組の性質上、万人、特にファミリー層に受けなくては採用されないと踏んだからだ。
  そのためネタのクオリティは下げる必要がある。
  結果見事採用されたが、クオリティの低いネタはあまり聴かせたくなかった。
  そしてもし自分達が行った時間帯にその番組が流れていたらと思うと、教える気にはなれなかった。


  そんな二人の前をミニトレーラーが通過し、ぴく、と零児が反応する。
  更にそれを目線で追う。
  この回転寿司屋はタッチパネルで注文すると、専用レーンをミニトレーラーが走って注文した品を届けてくれる。
  注文した客の前でトレーラーの荷台部分のウイングが開き、頼んだ品が現れる、という仕組みだ。
  加盟店ならどこでも優待券は使えるらしいが、その中でも響季は零児が敢えてこの店を選んだのかもしれないと思った。
  その理由は、

 〈これでよかったかな?〉
 〈へい、お待ちぃです〉
 〈よく噛んで食べるのよ?時間はたっぷりあるわ〉

  ちょうど今はキャンペーンコラボ中で、パティーシエンジェルのキャラクター仕様によるトレーラーがキャラクターボイスと共に到着をお知らせしてくれるからだ。
  店の至るところからキャラクターの声やキャラクターソング、子供の嬉しそうな声、トレーラーをカメラで撮影する音が聞こえていた。
  トレーラーの側面には液晶パネルが嵌めこまれ、お届けするキャラがランダムで表示されるため、好きなキャラが届けに来てくれて嬌声を上げる子供や、全キャラの画像や映像をコンプリートしたくて躍起になって注文している大きいお友達もいた。
  そんな中、零児はただただ自分のもとに車がやって来る、という楽しさに注文を繰り返していた。
  このテーブルの散らかり具合はそれもあるのだろうと考えるが、

 「優待券の値段までいかなかったら、レジ横の味噌汁かお茶でも買おう」
 「あ、いいね」

  皿を片付けながら言う零児に響季が賛同する。滅多に買わないものをこういう機会に買うのはなんだか楽しい。
  無理に食べなくてもいいと考えたら急にお腹に隙が出来てきた。
  もう一皿くらい行けるかなと思っていると、

 「んー、そろそろー」

  手を伸ばし、また零児がタッチパネルを操作する。
  こちらはもう締めを探しているようだが、

 「お」

  いいの見つけたとばかりにパネルを叩き、注文ボタンを押した。
  何を頼んだのかと響季が見ると、

 「ゲッ!!コーヒー!?」
 「うん」

  お茶を啜りつつ零児が決定ボタンを押す。程なく承りましたという文字が現れた。

 「お寿司にコーヒーって合うのぉ?」

  やだあー、このひと信じらんなーいという顔とトーンで響季が訊くが、

 「でも置いてあるし」
 「まあ…、そうか」

  需要があるということは相性はいいのかもしれない。

 「あっ、ケーキとかと一緒に飲むの?」
 「っていうわけでもないんじゃない?」

  言って零児が自分の取った皿達を見て、響季もつられてそれを見る。
  ケーキもだが食べ掛けの寿司が何皿かある。どうやら寿司と一緒に食べるらしい。
  そのラインナップに、んん?と響季が首を捻る。
  何か法則性のようなものがありそうだが、どうにも見えてこない。
  なんだろうと考えていると、

 「響季、ラーメン食べに行きたい」

  寿司を食べながらもうラーメンの話。またしてもれいじさんプレゼンツ 食欲がとまらナイトかとちょっとドキドキするが、

 「この後?はしごで?」
 「じゃなくて、今度。前にルームで話したじゃん」
 「なんだっけ」
 「J系ラーメン」
 「……あ、ああーっ!言ってたねそういえば」

  言われて確か、と思い出す。
  そうだ、あれは、献結ルームの採血室で。
  ベッドに添えつけられたテレビを見ていた時のことだと。

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