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21、私をとおくへつれだして

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 柿内君曰く。二人のデート初日は響季達が献結をした翌日らしい。


  朝、学校へ行く準備をしていると、

♪ててて、てれんれんれ、てーれれれ、ぶんちゃかちゃっちゃ


 柿内君のケータイがテレ東系ドラマ 不思議少女加藤うららの主題歌 sawnaundaを奏でた。
  設定したメロディで誰からかわかる。零児だ。

 『どっかとおくにいきたい』

  件名無しの、そんなメールが零児から届いた。
  何かあったのかと柿内君は不安になった。
  また響季と何か、と考えるが同時にチャンスかとも考えた。
  当然親友から奪おうなんて気はさらさらない。
  だからこそギリギリのところまで自分の側へ惹きつけるような、危険で楽しい遊びが出来そうだった。学校へ行く準備なんてしてる場合じゃない。
  そしてお誘いを受けたのだから最高の連れ出し企画をと頭をひねるが、何か美味しいものでも食べさせるかと結局はそこに、食に辿り着く。
  以前のチーズクレープでなんとなく味覚が合うのはわかった。
  それ以外にも、確か響季からのデート話でシナモンやココナッツ系が好きだとも。
  だが今回は遠くへ行くのが目的だ。
  遠くまで連れだしてもいいということだが、確認のために『今から?』とメールを送信すると、『学校終わったら』と返ってきた。

  となると時間は限られる。
  季節柄夕刻も早い。
  今からなら家にバイクが二台あるし海でも、と考えたが。
  その時、天命のようにバイクというアイテムが彼の頭の中で光を放った。
  そうだ、と。うちには充電式の電動バイクがあったと。
  それも二台。
  一台は二番目の姉者が懸賞であてたもので、二台目は一番上の姉者がどうせ当たらないだろうし自分も使いたいからと二番目の姉者のために買ってあげたもの。
  結果、予想に反して二番目の姉者が無駄にくじ運を発揮し、彼の家はいきなり電動バイクを二台も所有してしまった。
  二台もあるのに結局ロクに使われていない。
  アレを使ってわざわざ時間をかけて少し遠くに行くというのはどうか。
  問題はどこに行くかだ。
  味覚が合う、ということはとパソコンを立ち上げ、その場所の所在地と展開されているテナントを確認する。

  これならお気に召すのではないかと、湧き上がるワクワク感に彼の口の端がニヤリと上がる。
  そして企画したデート案をすぐさま零児にメールで送った。
  マニアックなスイーツが食えるフードテーマパークまで、電動バイクでえっちらおっちら行かないかと。
  学校へ行く準備そっちのけで、もしダメだった時の企画も練るが、

 『いいね。面白そう』

  返ってきたのはOKメールだった。


「充電は?」
 「殿、満タンにしておきました」
 「ほう。でかしたぞサル…、ハゲネズミ?」
 「はい。ハゲネズミに御座います」

  放課後。一目散に学校を出た柿内君は、待ち合わせした零児とともに自宅ガレージまでやってきた。
  そこには充電された電動バイクが二台。
  ヘルメットも当然二個。

 「なるほど」

  軽めの信長と秀吉コントをこなすと、零児がその一台に跨がり、柿内君宅の前の道でアクセルやブレーキの具合を確かめる。
  これで往復40キロほど移動するわけだが、特に難しそうなことはない。

 「大丈夫そうかな」
 「うん」

  操作を理解した零児がバッテリー表示などを見ながら返事をし、

 「そういえばれーじ君。免許、」
 「レッツゴー」
 「えっ!?」


  そういえば免許持ってたっけという確認を最後まで訊かず、ブイーんと発進した。

 「ちょっ、ちょっと!お待ちなすって!」

  慌てて柿内君は自分のバイクに飛び乗り、無免ライダーを追いかけた。

 零児が先に走りだしたが、すぐに柿内君の先導に切り替わった。
  迷わないよう国道を通り、二人は一路出来たてオサレショッピングビルに向かった。

 「れーじ君、大丈夫か!?」
 「だいじょーぶー」
 「疲れてないか!?」
 「へーきー」

  信号で止まるたびに、柿内君は後ろを振り向いて零児を気遣った。
  大声でのコミュニケーションがなんだか面白かったからだ。あとは、見慣れないヘルメット姿が可愛くて。
  そうして電車でならさほど時間もかからない距離を、二人は電動バイクでひた走り、

 「ここか」
 「おっきーね」

  辿り着いたビルを見上げる。
  出来たのは知っていたが、二人とも来るのは初めてだった。
  真新しい商業建造物はそれだけでワクワクした。
  駐輪場にバイクを停め、入り口にある折り畳まれたフロアガイドの冊子を抜き取り、二人は目的フロアへ向かった。

 「かっきー、自転車屋さんあるよ」
 「ほう、いいな」

  エスカレーターを昇りながらフロアガイドで入っているテナント等をチェックする。
  そして-、


「チョコミントティーパーティーの始まりさ」

  優雅に机に頬杖をつき、柿内君が芝居がかった口調で言うと、響季がうぷっと口を抑える。
  何を頼んだかなどついては一切聞きたくなかった。

 「…そのくだりいいわ」
 「そうか。まあそれで、何かあったか訊いてみたんだ」
 「うん…」

  零児はなぜ柿内君を誘ったのか。いよいよ話は本題に入るが、

 「ただの気まぐれ、ってわけではないだろうと思ったんだが。れーじ君はチョコミントパスタを頼んで」
 「ボエッ!」

  言わないでと言ったのに不意打ちで何を食べたか聴かされ、味を想像した響季が吐きそうになる。

 「ちなみに俺はチョコミントミルフィーユを食べて」
 「早く進めてッ!!」

  何かがこみ上げてきそうになる喉元を抑えながら、響季が先を急がせる。
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