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第二景
11、街へゆきましょう、おかあさん
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「このアト同じみたい」
チームショーが終わると、バッグの中でスマホを見ながらシャオちゃんが言う。
劇場のSNSで今週の出し物の予定を挙げていたが、この後にやるのはみな同じ出し物らしい。
ロビーは狭い上に喫煙所を兼ねているのでいること自体辛い。
仕方なく二人は外出券で外に出てみた。
30分という時間ゆえ、コンビニに行く程度で外出は済ませたが、
「あれ?」
「だれか、泣いてるデスネ」
来た道を戻っていると赤ちゃんの泣き声がした。なんだかぐずってるような声だが、こんな繁華街ではあまり聞かない声だ。
「うんうんうん、ホイホイホイ」
劇場に戻ってみると、受付にいたおばあさんが隣の駐車場で赤ちゃんを抱きかかえてあやしていた。
それが誰の子か詩帆にはすぐにわかった。
おそらく、踊り子さんのうちの誰かの子だ。
お母ちゃんが自分の仕事場に連れてきて、自分の出番の時は劇場の従業員に子守をしてもらっている。
昭和のストリップ小屋で聴くようなエピソードを目の当たりにし、なぜかショックを受けていると、
「ああ、おかえり」
おばあさんが詩帆達を笑顔で迎える。その笑顔にも詩帆はなぜか胸が締め付けられるような思いになるが、
「すんませーん」
「ハァーイ。今行きますぅー」
お客さんだろう、劇場の中から呼ぶ声がし、それにおばあさんが答える。しかし、
「Excuse me」
掛けられた声に三人が振り向く。背が高くガッチリした体型の外国人男性二人が立っていた。
カメラとリュック、そしてイカニモな漢字Tシャツを着ている。
外国人の観光客のようだ。
料金表が書かれた看板を指差し何か言っている。ここにお客さんとして来たようだ。
どうしよどうしよと詩帆とおばあさんがオロオロしていると、
「(訳)なんでしょう」
シャオちゃんが応対してくれた。
男性側の言語で話しながら、シャオちゃんはおばあさんに手でこちらは任せてどうぞ中へと指し示す。
おばあさんはそれにありがとうと会釈し、赤ちゃんを抱きかかえたまま劇場に戻るが、
「これ、また機械がさぁ」
「ええっ?また詰まったぁ?んっとに、どうしようもないねえ」
中にいる客との会話からすると機械トラブルらしい。しかも券売機のようだ。
「ああもうっ。あ、お姉さんっ」
「えっ?」
おばあさんが顔だけ出して詩帆に声をかける。
「ちょっと悪いんだけど、この子見ててやってくんないかしら」
そして顔と一緒に抱きかかえた赤ちゃんも見せ、詩帆が引き受けるとも言ってないうちに渡そうと差し出す。
性別だけを見て赤子くらい見れるだろうと思われたらしいが、小さい頃のセクシャルから産む予定など一切なかった人間からすると扱いに困る。
仕方なくオロオロと抱きかかえるが不安定な抱き心地と不安さから、もともとぐずっていた赤ちゃんがふえええっと本格的に泣き出しそうになる。
「ああああっ」
「Oh…」
見かねた外国人男性客が貸してと太く長い腕で赤ちゃんをがっちり抱っこし、あやしてくれるが赤ちゃんは一瞬は落ち着いたものの、ふぅぅぅとまたぐずりそうになり、
「ダイジョブダイジョブ」
男性客が声をかけつつ揺さぶると、んっんっんっ、と泣くのを堪えるようにする。
もう一人のお客さんもアババババなど万国共通のおどけた顔をしてあやそうとしてくれる。そこまでしてくれるが赤ちゃんはぐずったままだ。
「MILK?」
抱っこしてくれた男性が、余裕の片手抱きで哺乳瓶を吸うジェスチャーをし、
「すいませーん、ミルクはー」
詩帆が中にいるおばあさん従業員に訊いてみる。
「あげたのよー。オムツも変えたしちょっとねえ、ご機嫌ななめみたいで」
そうおばあさんが答えると、お母さんに似たのかねえ、と客が突っ込み、他の客達のガハハ笑いが聞こえた。
その呑気な声に詩帆はイラァっとするが、
「ギャアアっ!!!」
それが伝わったのか赤ちゃんが本格的に泣き出してしまった。
「あああ」
詩帆も本格的にオロオロしだす。
その横で、シャオちゃんは自分の腕時計で時間を見ると、
「(訳)ここはいいから、貴方達はどうぞ、行って」
「(訳)えっ、でも、いいのかい?」
「(訳)大丈夫。なんとかするから。よい観劇を」
親指をびしっと立ててそう言い、赤ちゃんを引き取ると男性客達を送り出すが、
「(訳)ああ、あとカメラとケータイ、劇場の中では出しちゃダメだから気をつけてっ!」
大事なことを言い忘れたとシャオちゃんが付け足す。
「(訳)そうなの!?」
「(訳)ロビーとかでは平気だけど、中に入って踊り子さんがいるところで出すと盗撮扱いされるから。今はSNSに上げたりする人多いからそこら辺すごくうるさいの」
「(訳)マジか…。わかった。ありがとう」
「(訳)ご親切にどうも」
「(訳)いいえ、どういたしまして」
そして、そんなやり取りを彼ら側の言葉で交わすと詩帆の方に向き直り、
「詩帆さん、私のバッグからスマホ出してください」
「えっ」
「早くっ」
赤ちゃんを抱っこしたまましっかりした日本語で言う。たまにしか聞かない本気の声だ。
「う、うん」
それに、詩帆がどこだどこだとシャオちゃんが背負ったリュックからスマホを探すが、
「あれー?」
突然、上の方からした声に顔を上げる。
劇場横にくっついた、アパートの二階部分に上がるような階段に女の人が立っていた。
手にはタバコ、綺麗な顔とラフな格好。おそらく、というか今日のステージに出ていた踊り子さんだ。
しかもトリに出ていた踊り子さんだ。
「ワサコさーん、観春(みはる)ちゃん人さらいにあってるよー」
「あー、お客さんなのよぉ。ちょっと見てもらっててー」
階段から劇場の中にいるおばあさん従業員に不審者情報を告げる。
当然本気で人さらいとは思っていなだろう。だが、
「とりあえず中入ったら?」
踊り子さんはタバコをひと吸いすると、劇場の二階部分、客にとっては聖域とも言える楽屋に入れと言った。
チームショーが終わると、バッグの中でスマホを見ながらシャオちゃんが言う。
劇場のSNSで今週の出し物の予定を挙げていたが、この後にやるのはみな同じ出し物らしい。
ロビーは狭い上に喫煙所を兼ねているのでいること自体辛い。
仕方なく二人は外出券で外に出てみた。
30分という時間ゆえ、コンビニに行く程度で外出は済ませたが、
「あれ?」
「だれか、泣いてるデスネ」
来た道を戻っていると赤ちゃんの泣き声がした。なんだかぐずってるような声だが、こんな繁華街ではあまり聞かない声だ。
「うんうんうん、ホイホイホイ」
劇場に戻ってみると、受付にいたおばあさんが隣の駐車場で赤ちゃんを抱きかかえてあやしていた。
それが誰の子か詩帆にはすぐにわかった。
おそらく、踊り子さんのうちの誰かの子だ。
お母ちゃんが自分の仕事場に連れてきて、自分の出番の時は劇場の従業員に子守をしてもらっている。
昭和のストリップ小屋で聴くようなエピソードを目の当たりにし、なぜかショックを受けていると、
「ああ、おかえり」
おばあさんが詩帆達を笑顔で迎える。その笑顔にも詩帆はなぜか胸が締め付けられるような思いになるが、
「すんませーん」
「ハァーイ。今行きますぅー」
お客さんだろう、劇場の中から呼ぶ声がし、それにおばあさんが答える。しかし、
「Excuse me」
掛けられた声に三人が振り向く。背が高くガッチリした体型の外国人男性二人が立っていた。
カメラとリュック、そしてイカニモな漢字Tシャツを着ている。
外国人の観光客のようだ。
料金表が書かれた看板を指差し何か言っている。ここにお客さんとして来たようだ。
どうしよどうしよと詩帆とおばあさんがオロオロしていると、
「(訳)なんでしょう」
シャオちゃんが応対してくれた。
男性側の言語で話しながら、シャオちゃんはおばあさんに手でこちらは任せてどうぞ中へと指し示す。
おばあさんはそれにありがとうと会釈し、赤ちゃんを抱きかかえたまま劇場に戻るが、
「これ、また機械がさぁ」
「ええっ?また詰まったぁ?んっとに、どうしようもないねえ」
中にいる客との会話からすると機械トラブルらしい。しかも券売機のようだ。
「ああもうっ。あ、お姉さんっ」
「えっ?」
おばあさんが顔だけ出して詩帆に声をかける。
「ちょっと悪いんだけど、この子見ててやってくんないかしら」
そして顔と一緒に抱きかかえた赤ちゃんも見せ、詩帆が引き受けるとも言ってないうちに渡そうと差し出す。
性別だけを見て赤子くらい見れるだろうと思われたらしいが、小さい頃のセクシャルから産む予定など一切なかった人間からすると扱いに困る。
仕方なくオロオロと抱きかかえるが不安定な抱き心地と不安さから、もともとぐずっていた赤ちゃんがふえええっと本格的に泣き出しそうになる。
「ああああっ」
「Oh…」
見かねた外国人男性客が貸してと太く長い腕で赤ちゃんをがっちり抱っこし、あやしてくれるが赤ちゃんは一瞬は落ち着いたものの、ふぅぅぅとまたぐずりそうになり、
「ダイジョブダイジョブ」
男性客が声をかけつつ揺さぶると、んっんっんっ、と泣くのを堪えるようにする。
もう一人のお客さんもアババババなど万国共通のおどけた顔をしてあやそうとしてくれる。そこまでしてくれるが赤ちゃんはぐずったままだ。
「MILK?」
抱っこしてくれた男性が、余裕の片手抱きで哺乳瓶を吸うジェスチャーをし、
「すいませーん、ミルクはー」
詩帆が中にいるおばあさん従業員に訊いてみる。
「あげたのよー。オムツも変えたしちょっとねえ、ご機嫌ななめみたいで」
そうおばあさんが答えると、お母さんに似たのかねえ、と客が突っ込み、他の客達のガハハ笑いが聞こえた。
その呑気な声に詩帆はイラァっとするが、
「ギャアアっ!!!」
それが伝わったのか赤ちゃんが本格的に泣き出してしまった。
「あああ」
詩帆も本格的にオロオロしだす。
その横で、シャオちゃんは自分の腕時計で時間を見ると、
「(訳)ここはいいから、貴方達はどうぞ、行って」
「(訳)えっ、でも、いいのかい?」
「(訳)大丈夫。なんとかするから。よい観劇を」
親指をびしっと立ててそう言い、赤ちゃんを引き取ると男性客達を送り出すが、
「(訳)ああ、あとカメラとケータイ、劇場の中では出しちゃダメだから気をつけてっ!」
大事なことを言い忘れたとシャオちゃんが付け足す。
「(訳)そうなの!?」
「(訳)ロビーとかでは平気だけど、中に入って踊り子さんがいるところで出すと盗撮扱いされるから。今はSNSに上げたりする人多いからそこら辺すごくうるさいの」
「(訳)マジか…。わかった。ありがとう」
「(訳)ご親切にどうも」
「(訳)いいえ、どういたしまして」
そして、そんなやり取りを彼ら側の言葉で交わすと詩帆の方に向き直り、
「詩帆さん、私のバッグからスマホ出してください」
「えっ」
「早くっ」
赤ちゃんを抱っこしたまましっかりした日本語で言う。たまにしか聞かない本気の声だ。
「う、うん」
それに、詩帆がどこだどこだとシャオちゃんが背負ったリュックからスマホを探すが、
「あれー?」
突然、上の方からした声に顔を上げる。
劇場横にくっついた、アパートの二階部分に上がるような階段に女の人が立っていた。
手にはタバコ、綺麗な顔とラフな格好。おそらく、というか今日のステージに出ていた踊り子さんだ。
しかもトリに出ていた踊り子さんだ。
「ワサコさーん、観春(みはる)ちゃん人さらいにあってるよー」
「あー、お客さんなのよぉ。ちょっと見てもらっててー」
階段から劇場の中にいるおばあさん従業員に不審者情報を告げる。
当然本気で人さらいとは思っていなだろう。だが、
「とりあえず中入ったら?」
踊り子さんはタバコをひと吸いすると、劇場の二階部分、客にとっては聖域とも言える楽屋に入れと言った。
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