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第二景

2、ブラック・オア・ホワイト・オア・太麺

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「どっちがいいカナ…」

 辿り着いた100円ショップで。電機小物コーナーを前にシャオちゃんはウムムと悩んでいた。
 適当にお菓子を選んでいた詩帆がそれを見る。どっちが、と言ってもカラーバリエーションは黒と白しかないのだが。
 踊り子さんはどちらが好みか、シャオちゃんは悩んでいた。

「シャオちゃんも買うんだから、両方買ってどっちか選ばせたら?」
「あ、ソッカ。ウーン…、どっちが似合うカシラ」
「うわあめんどくさい」

 タッチペンを2本、それぞれ顔の横に持ってきて詩帆に訊いてくる。
 めんどくさいガールに訊かれた方は苦笑いする。でも楽しかった。

 そして田んぼがちらほらとある道をてくてく歩き、

「じゃんけんぽんっ、グーリーコっ」
「じゃんけんぽん、チョーレーギっ」
「じゃんけんぽん、パーイーオーツーカーイーデー」

 途中、じゃんけんの勝ち負けで歩数を決める遊びなどをしたりして劇場に舞い戻ってきた。
 送迎バスで来た時と同じく、今はネオンが灯っていないド派手でドでかい大文字看板が出迎えてくれた。



「買ってきまシタァー。アレ?」
 
 シャオちゃんがカウンターにいるはずの踊り子さんに100円ショップの袋を掲げるが、ゲーマー踊り子さんはいない。

「今、出番だから」

 代わりにまだカウンターでダラダラしていたおいちゃんたちに言われ、ソデスカと場内へ向かう。
 行われていたのはやはり先程見たショーだった。踊り子さんは二人を見て、ほんの少しニコリと笑った、気がした。

「撮影ショー、で」
「ソデスネ」

 せっかくだから差し入れとしてあげることにした。

 ショーが終わり、撮影ショーが始まる。
 その列をこなし、お約束のお早うございますで迎えられ、

「コレ。買ってきまシタ」

 シャオちゃんがパッケージに入ったタッチペンを2本見せる。

「ドッチがイデスカ?」
「うーん…。どっちでもいいけど」
「合わせヤスイのは黒ヨ?ホンタイどんな色でも似合ウ」
「じゃあ黒」

 オススメを言われ、小さく笑いながら踊り子さんが黒を受け取る。
 傍から見ればどうでもいいやり取りだが、詩帆はそれを見ながら何やらほっこりした気持ちになった。

「ああ、お金払うよ」
「いえ、イデス、100円デスシ」
「でも、」
「サシーレ」
「うん…。じゃあ」

 ペン代を払おうとする踊り子さんにシャオちゃんが差し入れだからと断る。差し入れにしては安いが。

「写真、どうする?」

 そしておつかいも済み、本来の目的に移るが、踊り子さんの言葉にはこんなオバチャンの写真撮りたか無いだろうという思いが見えた。

「撮りますっ。オネエサン」

 それにシャオちゃんは詩帆を手招きし、詩帆を巻き込んでの3ショット写真を撮った。

「はーい、チーズ」

 近くにいた客がそれを快く撮ってくれると、

「あとでバーの方来て。奢るから。二人とも」

 踊り子さんは申し訳なさそうな笑顔とともに、こそっとそう告げてきた。
 お酒はちょっと、詩帆としては困るのだが、まあシャオちゃんがいるから大丈夫かと頷いた。


 それから少し時間を置き、言われた通り二人がロビーの売店に行くと、

「ああ、いらっしゃい。座って座って」

 ざっとシャワーを浴びたような雰囲気で。ゲーマー踊り子さんがちょうど従業員用通用口から出てきた。
 カウンター内にいた従業員と入れ替わる。すでにおじいさん客も数名いた。

「何飲むー?」
「あの、お酒はわたしちょっと…」

 先に言っておこうと詩帆が切り出す。

「うん?未成年?」
「じゃなくて。ちょっとお酒ダメで。弱くて」
「帰りお車デスシ」
「ああ、まあ結構揺れるかんなあ」

 弱い上に揺れるバスで、となるとお酒は勧められない。

「そうなの?じゃあー、あれいっちゃいましょうかっ」

 踊り子さんが明るくそう言う。
 はて、アレとはという顔で詩帆達が見るが。

「お、いいねえー。オレにもちょっとくれよー」
「それはお二人さんに聞きな」

 ねだる常連客にそう言って踊り子さんが奥に引っ込むと、何かを炒めるジュワーっという音がしだした。
 これはもしや、と詩帆達が考える。
 もしやどころではない。明らかに何か食べるものを作っていた。
 この後大盛りラーメンが控えているというのに。
 そして、しばらくのち。

「あいよ、おまちっ。こっちが醤油でこっちがソースね」

 出てきたのは皿に大盛りに盛られた焼きうどんだった。
 香ばしい香りと踊るかつお節が食欲をそそる。
 具は肉や人参などがちょぴっとあるが、ほとんど麺がメインだ。

「ここの焼きうどんはうめえどっ。なんか知んねえけどなっ」

 カウンターに片肘を乗せたほろ酔いおじいちゃんがそう教えてくれる。
 どうやら謎にうまいらしい。
 それは興味深いと詩帆が一口食べてみる。もうこの時点でラーメンは諦めていたが、

「ん?」

 一口から更にずぞぞっと麺をすする。
 久しぶりに食べた懐かしい味。
 恋人の遥心がいた頃はお昼などによく焼きうどんを作ってくれた。が、そんな懐かしさを加えて尚、

「おいひい」

 口元を覆い、そう言うが、

ずぞぞぞぞぞー。ずるずるずるぅ。ずおおっ。

 シャオちゃんはその横で感想も言わず、ものすごい勢いで平らげていた。
 だがそれは彼女の本当に美味しいものを食べた時のそれだった。
 無駄口を言わず黙々と食べる。それは幼い頃からいろんな国を渡り歩いてきた彼女の食べ方だった。
 うまいものは黙って早く食えという。そして一気に半分ほど食べ、

「おいひぃでヒュ」

 もむもむしながら答える。
 それを見て大人達が、お、おう、うんうんと頷く。戸惑いつつも嬉しそうに。

「カップ麺のしか、食べたことなかったカラ」
「へえー。今、カップの焼きうどんなんかあるのか」
「それ焼いてなくねえか?」
「なあんだよ。焼きウドンぐれえ自分で作りゃいいじゃねえか。オレでも作れんぜ。うどん玉買ってきてちゃちゃーっとさ」
「うどん玉でデキル?」
「おうよ。ネットで調べろよ、得意だろそういうの。わけーんだから」
「オオ、その発想はナカッタ」

 シャオちゃんが茶目っ気たっぷりにぺしっと自分のおでこを叩き、おいちゃん達が笑う。

 もうお腹にはラーメンが入る隙など微塵もなかった。
 だが、おそらくラーメンよりも美味しいものだったはずだから詩帆はよしとした。

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