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その声がいつも魂の叫びでありますように
33、ライブは無料だけどチケット発行手数料はいただくぞ!
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「…ライブ?」
「なに?」
「ライブやるんだってさ」
後ろからやってきた零児にも用紙を見せる。
瞳からはもう熱が引いていた。
どうやら「もっと色んな人に献結を知ってもらおう!」という献結啓蒙ライブがあるらしく、そのチケットに応募出来るらしい。
適当にとったものだが、それを抜きにしても興味が惹かれるものだった。
どういうわけか出演者は書いていない。
とにかくやるよということしか決まってないようだ。
あまりにもざっくりした企画だが、当たるのは二人一組で結構な人数だ。
「応募するの?響季」
「この数なら、当たるかな…。でもなぁー、あたしこういうの全然当たんないんだよなあ」
記入用紙を手に取るも、響季は最初から諦めムードだ。
生まれながらのお得にあやかり隊としてはこういったものは応募しておきたいのだが。
「れいちゃんの方がまだくじ運強いんじゃないの?」
「そんなに強くもないよ」
「でもあたしが全然運無いからさ」
「どれぐらい?」
「あー、そうだなあ…。昔さぁ、…ほわんほわんほわんほわん」
そう問われて響季が斜め上を向き、頭の中からもくもくとした雲が出てきそうなSEを口で言う。
それを聴き、零児が、おっ、回想シーン と小さな声で楽しそうに言った。
active Night BICYCLE
パーソナリティ DJ Kimiy/バイシクーちゃん (中の人 番組構成作家 熊川大助)
Kimiy「というわけで先週もお伝えした通り、今週はリスナープレゼントとして私が某(笑)某諸外国でたっくさん買ってきたキーホルダーをリスナープレゼントして、あ、リスナープレゼントって二回言っちゃった(笑)えー、プレゼントしたいと思います!」
バイシクー「フトッパラー」
Kimiy「よっ!太っ腹!(笑)ということで、一気にいきますからね。よーくお耳ダンボにしててくださいよ?当選者は! (中略) というわけで以上の方々に当たりましたー!」
♪ファンファーレ
バイシクー「オメデトー」
Kimiy「えー、放送後に公式ブログの方に当選者の方々の名前挙げときますんで、聞き取れなかったよーって人いたら見てみてください」
バイシクー「ミテミテー」
「っていうことがあってさ」
そう、ツイてないエピソードを披露した響季が零児に向き直る。
押入れからアナログチューナー式のラジカセを見つけ、偶然電波をキャッチした地方のFMラジオ。
その番組でリスナープレゼントを実施していた。
雑音まみれの放送の中、無駄にアルファベットの発音がいいメールアドレスは聞き取れず、わざわざネットで公式サイトを見て調べたのに。
ボケたいのを必死に我慢して無難なラジオネームを送ったのに。
翌週も頑張って電波をキャッチし、当選者発表を聴いたのに。
サイトで発表すんならわざわざ聴かなかったのに!と歯噛みしたのに。
響季はその時のことを思い出し、うぎぎムキーとまた歯噛みする。
「ほう」
そして話を聞いた零児がなるほどという顔をする。
地方ラジオの、パーソナリティが買ってきた海外土産キーホルダーのプレゼント。
ともすれば応募者全員プレゼントぐらいの当選確率なのに、響季はなかなかツキに見放されていた。
「れいちゃんの名前で応募してみちゃダメ?字画とかいいかもしんないし」
響季がそう薦めるが、
「でもうちにチケットとか届くと家族が鬱陶しい」
「ああ、そっか…」
ラジオ局の名前入り宅配物が届くと、家族に色々冷やかされるのが鬱陶しいと零児は言っていた。
となればライブチケットの当選通知などが来ると、これまた誰のライブ?誰と行くの?オークションで売ったらいくら?とあれこれ言われてしまうかもしれない。
「じゃあ応募はあたしの名前と住所でして、それをれいちゃんが書くってのは?」
「…どういう効果があるの?それ」
「なんとなくだけど、パワー的な?」
よくわからない理屈を言いながらほふぁーっと手のひらから気功のようなものを放ちつつ、響季が反対の手でペンを渡してくるので、まあ書くだけならいいかと零児も承諾する。
「じゃあ住所は、東京都港区虎ノ門」
「それはテレ東の住所」
自宅住所を教えようとする響季が、みんなだいすき末っ子的フリーダムな民放テレビ局の住所を教えようとし、それを先回りして零児がツッコむ。
そんなトラップにも引っかからず、零児はなるべく綺麗な字で大事な友人の住所と名前を記入していく。
それはなんだかひどく緊張し、どこか不思議な儀式めいていた。
「はい」
「ありがと。よし、投函っと」
受け取った用紙を応募箱に入れると、保険として響季がぱんぱんと二回柏手を打つ。
献結をするTB生成者にはそれぞれコード番号が割り振られているが、応募用紙にもそれを記入する欄があった。
そして応募は一人一回が厳守。
コード番号を書かされるので複数応募などの不正は出来ない。
ただ読まれることだけを目的にラジオにメールを送るように、何通も応募することは出来ない。
そこには実力などは介入出来ず、ただただ運に任せるしかなかった。
「当たるといいね」
「べつに」
応募箱から向き直り、響季が笑顔でそう言うが、対して零児はぽそっと答える。
彼女としてはライブなんて興味なかったが、
「なんでさ。当たったら一緒に行こうよ。ね?」
そっけない零児に響季が言う。
二人一組。
その二人は響季の中では当然のように、自分と目の前にいる貴方だった。
その当然さが、零児はなんだか嬉しかった。くすぐったいぐらいに。
「……うん」
だから逆に、不機嫌そうに頷く。
そんな顔を声を見て聴いても、響季は楽しそうにしていた。
不機嫌そうに見えても実は彼女はそうではないからだ。
それがわかるぐらいには自分達の距離は縮んでいた。
眼鏡の少女が楽しそうに笑いかけてくれるのを感じると同時に、零児は自分の体内の変化に気付く。
血の巡る音がいつもと違う。
ドキドキと、酷くうるさい。
いつもは脳に注がれるはずの血液が心臓に注がれ、体中を巡る。
紅く火照った耳は目の前にいる大好きな友人の、今は友人である少女の声を捉え、冷たい手はすぐそこにある手を求めていた。
優しく髪を撫でてくれたその手を。
少女の中で何かが変わろうとしていた。
それは思いと、体内を流れる血だった。
(了)
「なに?」
「ライブやるんだってさ」
後ろからやってきた零児にも用紙を見せる。
瞳からはもう熱が引いていた。
どうやら「もっと色んな人に献結を知ってもらおう!」という献結啓蒙ライブがあるらしく、そのチケットに応募出来るらしい。
適当にとったものだが、それを抜きにしても興味が惹かれるものだった。
どういうわけか出演者は書いていない。
とにかくやるよということしか決まってないようだ。
あまりにもざっくりした企画だが、当たるのは二人一組で結構な人数だ。
「応募するの?響季」
「この数なら、当たるかな…。でもなぁー、あたしこういうの全然当たんないんだよなあ」
記入用紙を手に取るも、響季は最初から諦めムードだ。
生まれながらのお得にあやかり隊としてはこういったものは応募しておきたいのだが。
「れいちゃんの方がまだくじ運強いんじゃないの?」
「そんなに強くもないよ」
「でもあたしが全然運無いからさ」
「どれぐらい?」
「あー、そうだなあ…。昔さぁ、…ほわんほわんほわんほわん」
そう問われて響季が斜め上を向き、頭の中からもくもくとした雲が出てきそうなSEを口で言う。
それを聴き、零児が、おっ、回想シーン と小さな声で楽しそうに言った。
active Night BICYCLE
パーソナリティ DJ Kimiy/バイシクーちゃん (中の人 番組構成作家 熊川大助)
Kimiy「というわけで先週もお伝えした通り、今週はリスナープレゼントとして私が某(笑)某諸外国でたっくさん買ってきたキーホルダーをリスナープレゼントして、あ、リスナープレゼントって二回言っちゃった(笑)えー、プレゼントしたいと思います!」
バイシクー「フトッパラー」
Kimiy「よっ!太っ腹!(笑)ということで、一気にいきますからね。よーくお耳ダンボにしててくださいよ?当選者は! (中略) というわけで以上の方々に当たりましたー!」
♪ファンファーレ
バイシクー「オメデトー」
Kimiy「えー、放送後に公式ブログの方に当選者の方々の名前挙げときますんで、聞き取れなかったよーって人いたら見てみてください」
バイシクー「ミテミテー」
「っていうことがあってさ」
そう、ツイてないエピソードを披露した響季が零児に向き直る。
押入れからアナログチューナー式のラジカセを見つけ、偶然電波をキャッチした地方のFMラジオ。
その番組でリスナープレゼントを実施していた。
雑音まみれの放送の中、無駄にアルファベットの発音がいいメールアドレスは聞き取れず、わざわざネットで公式サイトを見て調べたのに。
ボケたいのを必死に我慢して無難なラジオネームを送ったのに。
翌週も頑張って電波をキャッチし、当選者発表を聴いたのに。
サイトで発表すんならわざわざ聴かなかったのに!と歯噛みしたのに。
響季はその時のことを思い出し、うぎぎムキーとまた歯噛みする。
「ほう」
そして話を聞いた零児がなるほどという顔をする。
地方ラジオの、パーソナリティが買ってきた海外土産キーホルダーのプレゼント。
ともすれば応募者全員プレゼントぐらいの当選確率なのに、響季はなかなかツキに見放されていた。
「れいちゃんの名前で応募してみちゃダメ?字画とかいいかもしんないし」
響季がそう薦めるが、
「でもうちにチケットとか届くと家族が鬱陶しい」
「ああ、そっか…」
ラジオ局の名前入り宅配物が届くと、家族に色々冷やかされるのが鬱陶しいと零児は言っていた。
となればライブチケットの当選通知などが来ると、これまた誰のライブ?誰と行くの?オークションで売ったらいくら?とあれこれ言われてしまうかもしれない。
「じゃあ応募はあたしの名前と住所でして、それをれいちゃんが書くってのは?」
「…どういう効果があるの?それ」
「なんとなくだけど、パワー的な?」
よくわからない理屈を言いながらほふぁーっと手のひらから気功のようなものを放ちつつ、響季が反対の手でペンを渡してくるので、まあ書くだけならいいかと零児も承諾する。
「じゃあ住所は、東京都港区虎ノ門」
「それはテレ東の住所」
自宅住所を教えようとする響季が、みんなだいすき末っ子的フリーダムな民放テレビ局の住所を教えようとし、それを先回りして零児がツッコむ。
そんなトラップにも引っかからず、零児はなるべく綺麗な字で大事な友人の住所と名前を記入していく。
それはなんだかひどく緊張し、どこか不思議な儀式めいていた。
「はい」
「ありがと。よし、投函っと」
受け取った用紙を応募箱に入れると、保険として響季がぱんぱんと二回柏手を打つ。
献結をするTB生成者にはそれぞれコード番号が割り振られているが、応募用紙にもそれを記入する欄があった。
そして応募は一人一回が厳守。
コード番号を書かされるので複数応募などの不正は出来ない。
ただ読まれることだけを目的にラジオにメールを送るように、何通も応募することは出来ない。
そこには実力などは介入出来ず、ただただ運に任せるしかなかった。
「当たるといいね」
「べつに」
応募箱から向き直り、響季が笑顔でそう言うが、対して零児はぽそっと答える。
彼女としてはライブなんて興味なかったが、
「なんでさ。当たったら一緒に行こうよ。ね?」
そっけない零児に響季が言う。
二人一組。
その二人は響季の中では当然のように、自分と目の前にいる貴方だった。
その当然さが、零児はなんだか嬉しかった。くすぐったいぐらいに。
「……うん」
だから逆に、不機嫌そうに頷く。
そんな顔を声を見て聴いても、響季は楽しそうにしていた。
不機嫌そうに見えても実は彼女はそうではないからだ。
それがわかるぐらいには自分達の距離は縮んでいた。
眼鏡の少女が楽しそうに笑いかけてくれるのを感じると同時に、零児は自分の体内の変化に気付く。
血の巡る音がいつもと違う。
ドキドキと、酷くうるさい。
いつもは脳に注がれるはずの血液が心臓に注がれ、体中を巡る。
紅く火照った耳は目の前にいる大好きな友人の、今は友人である少女の声を捉え、冷たい手はすぐそこにある手を求めていた。
優しく髪を撫でてくれたその手を。
少女の中で何かが変わろうとしていた。
それは思いと、体内を流れる血だった。
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