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その声がいつも魂の叫びでありますように

31、パンとお菓子の自販機はガガーッて迫り出して来るやつの方が子供はテンション上がる

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♪ワン、ツー、スリー、フォー、FOOO!
ターオール、ぶーんぶん(ブンブンっ)ぶんぶん(ブンブンっ)
ボク専用のヘーリコプター(シャーバラバーンバンっ)
 宇宙まで飛んでゆけー(HERE WE GO!)

  キッズルームにあるテレビでは、早朝系子供アニメが垂れ流しにされていた。
  エンディングアニメになるとキャラクターが踊るCGダンスに合わせて子供達も踊りだす。
  キャラクター達がそれぞれのイメージカラーのタオルをどこぞのライブ会場のように回し、子供達も一生懸命歌いながら、自分にしか見えないエアタオルを回し、飛び跳ねる。
  それをソファの柵の外側から響季も一緒になって、謎の賑やかしコーラスを口ずさみながら踊っていたが、

 「あ、おつかれーっす」

  きっちり一分半踊りきったところで、献結を終えた零児が休憩スペースにやって来た。
  トコトコと、零児は普通にそちらに向かおうとするが、ハッと何かに気づく。
  それは響季にとっていつか見た光景、表情だった。
  ボケどころを見つけた時の顔だ。
  案の定零児は少し後ろに下がって、

♪ロボット、レストラン、ロボットロボットレストラン

 歓楽街にあるショーレストランのテーマ曲を歌いながら、ロボットダンスでやってくる。

 「普通に来いよッ!」

  笑顔で響季にツッこまれると、

♪ロボット、レストラン、ドォゾイラッシャイマーセ、

  零児は今度は不思議そうに見ていた子供にロボットダンスで突進し、子供達をキャッキャとはしゃがせる。

 「こっち帰って来いッ!」

  例え献結直後でも、隙あらばボケようとする少女を響季が声だけで呼び止める。
  その声には笑いが混じっていた。




 「まあ…、ブリトーは旨いですわな」
 「旨いわな」
 「れーじはん、そっちも一口ください」
 「ちょっと辛いよ」

  その後は二人で一緒にブリトーを食べたり、やはりパンピザはダメだな等とグチグチ言いながらも正当な対価を消化していく。
  ブリトーとピザってよく考えたら被ってね?と付添人は思ったが、ご相伴預かれるだけ有り難いので黙っていた。

 「ロールケーキが食べれたんだってさ。そこそこ高級なやつ。午後先着20名様で」
 「へえ。お子達が多いのってそれかな」
 「そうなのかな。食べたかったわぁー」

  食べたあとは無料自販機のジュースを飲みつつ、響季が食べ逃したお得情報を愚痴る。
  午後の受付開始時間からなら、ちょうど二人はその時公録に参加していた。
  高級ロールケーキと美人人妻声優の頭ポンポンなら後者の方がお得だが、それでも響季は食べたかった。
  そんながっかりする友人を見て、

 「そうだ。これ貰った」

  言って零児がゲームセンターで使うようなメダルコインを二枚出してきた。

 「あそこに自販機あるから、お友達とどうぞって」
 「自販機?ああ!あれそうなんだ!」

  零児が少し離れたところにある壁際を指さす。そこにはお菓子やパンを映しだした広告モニターのようなものがあった。が、正確には広告ではなく、タッチパネル式の自販機だった。
  宇宙っぽいルームと相まって馴染んではいるが、遠目でちらと見ただけの響季は自販機とは気づかなかった。
  受付で貰ったコインを投入すればその自販機でタダで商品が手に入るのだが、

 「好きなの買ってきな」

  零児は気前よく貰ったコインを二枚とも響季に渡してきた。

 「ええっ!?いいんですかい?なんかすいやせんです村長さん」

  そんな、二枚も無料コインを戴いちゃっていいんですかい?村長さんとばかりに恐縮するが、田舎のハナタレ小僧はデヘヘと頭を下げつつ貰えるものはきっちりと貰った。

 「どーれにしよっかなー」

  そして自販機を前に、どれを手に入れるか楽しく悩む。
  普段見慣れないお菓子自販機とパン自販機なのも楽しい。
  お菓子自販機は小学生が遠足のお菓子として買うようなコンビニ系チョコレート菓子が中心で、パン自販機はデニッシュ系が多い。
  おまけにパン自販機で売ってるものは特殊製法で長時間保存が効くものらしく、保存食としてもいいらしい。
  お菓子とパン両方を1つずつ、いやパンを2個か、あるいはお菓子を2個か。
  パンなら食事代が浮き、何も食べるものがないときにも重宝する、お菓子なら学校に持って行って休み時間などにクラスの子達と食べれる。

  食事か菓子か。個人か他者か。
  どうでもよさそうな、けれど大事なことで女子高生は悩む。
  悩んでいる間も、液晶パネル内では二頭身になった献結推進キャラクター 結伊ちゃんが「どれでも好きなのを選んでネ!」「どれにしようかなあ」「どれでも好きなのを選んでネ!」「これにしようかな」「どれでも(ry」とちょこまかうるさく動き回って一緒に悩んでくれたり商品を薦めたりしてくれている。
  そしてそこそこの時間をかけ、

 「もらってきたー」

  結局はうす~いクッキー生地でチョコレートを挟んだ菓子とクリームデニッシュを手に、響季は嬉しそうな顔で帰ってきた。
  お腹はいっぱいなので当然のようにその場では食べず、自分のカバンにルンルン気分で詰めてお持ち帰りにする。
  その姿を、零児がいつものアーモンドアイで見つめる。
  買えば百円程度のお菓子とパン。それがタダで手に入ったことでこんなにも喜べる。
  それは自分の血液で得た代償だ。それが幸せなことなのか不幸せなことなのかは、女子高生にはわからない。
  ただ、自分達の世代は生まれながらにして与えられるものの数が少ないなと、無料自販機で貰ってきた砂糖無しミルクティーを飲みながら零児は思った。
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