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これより洗礼の儀を執り行う
12、キャー!FMよー!オシャレじゃない人は逃げてー!
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「さて、と」
今週の会議室ラジオをきっちり最後まで聴き終えると、響季はパソコンを起動し、送られてきた番組名を検索した。
調べるのは放送局と放送時間だが、
「…あれ?」
一つ目の番組はFMラジオの番組だった。
いかにもおしゃれな、当然だがAMラジオ局のようなガチャガチャ感のない公式サイト。
そこにあるサーチボックスから番組サイトを探し出すと、どうやら最新分がウェブでもストリーミング配信されているらしい。
そういえば以前も放送局、時間関係なく聴けるようにという配慮からか、零児がメールを送ったのはネットラジオだった。
「FMか…」
普段AM局の声優ラジオぐらいしか聴かない響季には、ひどく敷居が高く感じる。
一見さんのイモい客がオサレなショットバーに飛び込むようなドキドキ感で、響季はメールに記してあった放送分をクリックした。
石埼東風 NORA―INU Roundabout
パーソナリティ 石埼東風いしざきとうふう
最新配信分
オープニングトーク~今日の一曲~メール読みから抜粋
石埼「皆さん今晩わ。SURVIVE Pinscherサバイブピンシャー ボーカル 石埼東風です。いやー、もうなんか急に今日寒くなってきちゃってねぇ。オープンカーとかグワーって走らせたい季節だけど。木枯らし吹く都内とかさ、革ジャンとか着ちゃって、サングラスとか掛けちゃってさ。別にどこ行くわけでもなく。ただ走るだけで。無駄にそういうコトしたくなっちゃう季節ですけども。いやでもホンット一年早いわあー。もうこれ毎年、何年前から言ってんだって話だけど」
「ふっ、ふふ。ふへっ。今、めっちゃいい発音で豆腐って言ったぞ」
無駄に発音のいい外国人のよるイシズァキー、トウフンヌ、ノライーヌ、ラ・ラ・ラ・ラウンダバウツッ!という超絶かっこいい番組ステッカーの後。
流れてくるトークに響季がフヒヒと気持ち悪い笑みを浮かべる。
酒とタバコが似合いそうな、どこぞのバンドのボーカルらしいエエ声DJが流暢に喋る番組。
のっけからいきなりオープンカーの話と来た。
AM気質なリスナーには薄ら笑いを浮かばざるをえない。
よく声優がフザけてアニラジ内でFM風オシャレトークをすることがあるが、真似される本家本元はやはり違う。
空虚さが違うのだ。
意味がなく、上っ面だけ。
しかしAM的に騒げばFMのオシャレ感が損なわれる。
やはりFMはドライブなどのBGMとして聴くのが正しいあり方かと思うが、ほとんど触れたことのないFMトークに響季はつい耳を傾けてしまう。
石埼「それでは本日一曲目のナンバー。ワチャゴナベッドルームで《本日のルームサービス》。お聴きいただいた曲はワチャゴナベッドルームで《本日のルームサービス》でした。ねえ、こちら、デビュー曲ということなんですが。えー、プロフィールありますね。メンバーが全員福岡県出身という彼らは」
「あー、そっか」
少しばかり聴きたかったワチャゴナなんとやらの曲が聴けないことに、響季が落胆する。
案の定著作権の関係により、放送でOAされた曲はウェブ配信ではカットされていた。
曲紹介の後はまるでワープしたように、曲が流れた直後にトークが飛ぶ。
遠方や放送時間と生活サイクルが合わず、ウェブ配信のみを聴いているリスナーは置いてけぼりだ。
DJがデビューしたての未来あるバンドについて教えてくれるが、核となる曲を聴いてないのでさっぱりだ。
「というかどうでもいいなここは。よし」
番組のとりあえずの雰囲気を掴むと、響季は一度気合いを入れ、やはり以前したようにシークバーを動かして指定された該当箇所を探す。
石埼「ったくしょうがねーなー(笑)はい、もう一通。ラジオネーム」
「お、ぅ」
聞こえてきたラジオネームに響季が面食らう。
それはまぎれもなく自分が使っていたラジオネームだった。
退屈なFM系ふつおたメール。
その中で読まれても違和感のないラジオネームが聞こえてきた。
僕はギターをやっているのですが、という書き出しから始まる、零児による日常メール。
当然嘘だろう。
メールはそのままつらつらと、父親もギターを持ってるのでセッションをしたいが、父親はいざ弾くとふざけてギター漫談のようなことをやり始めて出来ないという内容が続いた。
その時のひと昔前の漫談フレーズに、DJがギャハハと品なく笑う。
うわ懐かしいーと急に現れた放送作家とともに。
FMとはいえそれは深夜ラジオのテンションだった。
懐かしいという、それだけを起爆剤にした笑いだがウケている。
響季のラジオネームを本人公認で騙った零児は、退屈なFMラジオの中で笑いの小爆発を確実に起こしていた。
パーソナリティが次のメールに移り、該当箇所を聴き終えた響季は、ウインドウを閉じると次に書かれた番組名を検索するが、
「これは…」
サイトを見て固まる。
次の番組は地方FMのアイドルラジオ番組だった。
おそらく地下で活動しているアイドル五人組の番組で、今週のお当番は、まうたん、しほりぃーぬ、きょっちとある。
一見さんには面食らうような押し付けがましいニックネームの連発。
サイトにはカリスマ性も神秘性も、それこそアイドル性すらない女の子五人が、ぎゅっとひっつくようにして写っていた。
「ふぅー。…よし」
細く息を吐くと、響季は再び気合いを入れてPLAYボタンをクリックした。
今週の会議室ラジオをきっちり最後まで聴き終えると、響季はパソコンを起動し、送られてきた番組名を検索した。
調べるのは放送局と放送時間だが、
「…あれ?」
一つ目の番組はFMラジオの番組だった。
いかにもおしゃれな、当然だがAMラジオ局のようなガチャガチャ感のない公式サイト。
そこにあるサーチボックスから番組サイトを探し出すと、どうやら最新分がウェブでもストリーミング配信されているらしい。
そういえば以前も放送局、時間関係なく聴けるようにという配慮からか、零児がメールを送ったのはネットラジオだった。
「FMか…」
普段AM局の声優ラジオぐらいしか聴かない響季には、ひどく敷居が高く感じる。
一見さんのイモい客がオサレなショットバーに飛び込むようなドキドキ感で、響季はメールに記してあった放送分をクリックした。
石埼東風 NORA―INU Roundabout
パーソナリティ 石埼東風いしざきとうふう
最新配信分
オープニングトーク~今日の一曲~メール読みから抜粋
石埼「皆さん今晩わ。SURVIVE Pinscherサバイブピンシャー ボーカル 石埼東風です。いやー、もうなんか急に今日寒くなってきちゃってねぇ。オープンカーとかグワーって走らせたい季節だけど。木枯らし吹く都内とかさ、革ジャンとか着ちゃって、サングラスとか掛けちゃってさ。別にどこ行くわけでもなく。ただ走るだけで。無駄にそういうコトしたくなっちゃう季節ですけども。いやでもホンット一年早いわあー。もうこれ毎年、何年前から言ってんだって話だけど」
「ふっ、ふふ。ふへっ。今、めっちゃいい発音で豆腐って言ったぞ」
無駄に発音のいい外国人のよるイシズァキー、トウフンヌ、ノライーヌ、ラ・ラ・ラ・ラウンダバウツッ!という超絶かっこいい番組ステッカーの後。
流れてくるトークに響季がフヒヒと気持ち悪い笑みを浮かべる。
酒とタバコが似合いそうな、どこぞのバンドのボーカルらしいエエ声DJが流暢に喋る番組。
のっけからいきなりオープンカーの話と来た。
AM気質なリスナーには薄ら笑いを浮かばざるをえない。
よく声優がフザけてアニラジ内でFM風オシャレトークをすることがあるが、真似される本家本元はやはり違う。
空虚さが違うのだ。
意味がなく、上っ面だけ。
しかしAM的に騒げばFMのオシャレ感が損なわれる。
やはりFMはドライブなどのBGMとして聴くのが正しいあり方かと思うが、ほとんど触れたことのないFMトークに響季はつい耳を傾けてしまう。
石埼「それでは本日一曲目のナンバー。ワチャゴナベッドルームで《本日のルームサービス》。お聴きいただいた曲はワチャゴナベッドルームで《本日のルームサービス》でした。ねえ、こちら、デビュー曲ということなんですが。えー、プロフィールありますね。メンバーが全員福岡県出身という彼らは」
「あー、そっか」
少しばかり聴きたかったワチャゴナなんとやらの曲が聴けないことに、響季が落胆する。
案の定著作権の関係により、放送でOAされた曲はウェブ配信ではカットされていた。
曲紹介の後はまるでワープしたように、曲が流れた直後にトークが飛ぶ。
遠方や放送時間と生活サイクルが合わず、ウェブ配信のみを聴いているリスナーは置いてけぼりだ。
DJがデビューしたての未来あるバンドについて教えてくれるが、核となる曲を聴いてないのでさっぱりだ。
「というかどうでもいいなここは。よし」
番組のとりあえずの雰囲気を掴むと、響季は一度気合いを入れ、やはり以前したようにシークバーを動かして指定された該当箇所を探す。
石埼「ったくしょうがねーなー(笑)はい、もう一通。ラジオネーム」
「お、ぅ」
聞こえてきたラジオネームに響季が面食らう。
それはまぎれもなく自分が使っていたラジオネームだった。
退屈なFM系ふつおたメール。
その中で読まれても違和感のないラジオネームが聞こえてきた。
僕はギターをやっているのですが、という書き出しから始まる、零児による日常メール。
当然嘘だろう。
メールはそのままつらつらと、父親もギターを持ってるのでセッションをしたいが、父親はいざ弾くとふざけてギター漫談のようなことをやり始めて出来ないという内容が続いた。
その時のひと昔前の漫談フレーズに、DJがギャハハと品なく笑う。
うわ懐かしいーと急に現れた放送作家とともに。
FMとはいえそれは深夜ラジオのテンションだった。
懐かしいという、それだけを起爆剤にした笑いだがウケている。
響季のラジオネームを本人公認で騙った零児は、退屈なFMラジオの中で笑いの小爆発を確実に起こしていた。
パーソナリティが次のメールに移り、該当箇所を聴き終えた響季は、ウインドウを閉じると次に書かれた番組名を検索するが、
「これは…」
サイトを見て固まる。
次の番組は地方FMのアイドルラジオ番組だった。
おそらく地下で活動しているアイドル五人組の番組で、今週のお当番は、まうたん、しほりぃーぬ、きょっちとある。
一見さんには面食らうような押し付けがましいニックネームの連発。
サイトにはカリスマ性も神秘性も、それこそアイドル性すらない女の子五人が、ぎゅっとひっつくようにして写っていた。
「ふぅー。…よし」
細く息を吐くと、響季は再び気合いを入れてPLAYボタンをクリックした。
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