幽霊だって怖いものはコワイ ～うちの幽霊ちゃんは怖がり～

３３ 幽霊ちゃんは洗濯機がこわい

うちの洗濯機はドラム式の小さいものだ。
一人暮らしだが、乾燥機も内蔵されているので便利である。
夜に回したりしているが、今のところ近所から何か言われたりはしていない。
今日も寝る前に洗濯物を入れて回し始めたのだが……

『た～す～け～て～』

か細い声が、夜に響く。
よく聞くと、あいつの声のようだ。

『た～す～け～て～』

いつもならパソコンに向かってゲームをしているか動画を見ているが……
起き上がって台所を見たが、パソコンの前にあいつの姿はない。
アザラシちゃんやサメ君のスペースを見てもあいつの姿はない。
いったいどこに行ったのだろうか。もう一度耳を澄ませると……

『た～す～け～て～』

洗面所のほうから、洗濯機の動く音にまぎれて、あいつの声が聞こえてきた。



『た～す～け～て～』

あいつはなぜか洗濯機の中で洗濯されていた。
ぐるぐると結構な勢いで回されている。
死なないのか、と思ったが幽霊だから大丈夫なのだろうか。

『へぷっ！！　た～す～け～て～』

ぐるぐる回されるその姿がちょっと面白い。
だが、あまりぐるぐるしすぎるのはかわいそうだろう。

回っている間は扉にロックがかかっているから開けられない、のだろうか。
そもそも幽霊なんだから扉ぐらい透き通って通過しろと思うのだが、よくわからないところでこいつは融通が利かないのだ。
一時停止して、扉を開けるとよろよろと、あいつがはい出してきた。
その姿は某ホラー映画の幽霊のようだが、えぐえぐという鳴き声が雰囲気をぶち壊していた。

「なんで洗濯機の中にいたんだよ」
『体洗おうかと思って』
「じゃあ風呂使えよ」
『洗濯機のほうが楽かなって。でも入ったら出られなくなって……』

こいつがあほの子なのはよくわかった。

「もう二度とするなよ。洗濯機は生き物を洗うところじゃない」
『もうこりごりだよ……』

しっとり濡れて落ち武者のようになったこいつはしょんぼりとした声でそう言った。