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9 皇太子の最期

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ノッテン陥落の報は、帝国軍に大きな波紋を投げかけた。

帝国と王国を繋ぐ街道はいくつかあるが、王都から帝国へ最短で行ける街道であり、しかも一番太く平坦な街道がノッテンを通る道であった。
つまりノッテンは要衝の一つであり、そこが堕ちたのだから衝撃は大きかった。

さらに、皇太子が命からがら逃げだした、というのも悪かった。
彼がノッテンを訪れたのは、ノッテン防衛という名目であった。
実際はマリアに会いに行くためであったが、名目は防衛のために手勢を引き連れていったということになっていた。
全く歯が立たずに逃げ出してきた皇太子に、帝国軍は不信感が高まっていた。

そんな中、王都に再度アーベルジュ騎士団が襲来する。
その数2000。重騎兵ばかりの有力な軍ではあるが、数は前回の襲撃よりも減っていた。
陣頭指揮はアーベルジュ公令嬢がとっており、それゆえ前回よりも弱体と思われていた。

皇太子はそんな援軍に対応するために予備兵力3000をもって騎士団前面に布陣。
騎兵1000、長槍兵2000というオーソドックスな編成であり、負けることはないだろうと思われていた。
皇太子としても、ここで得点を稼がないと、場合によっては寄り集まり集団である帝国軍が瓦解しかねないことを察していた。
もう少しで王都が落とせるのだから、ここで引くのはありえず、場合によっては政治生命にかかわるのだから必死だった。

そうして、皇太子軍は鎧袖一触で敗北するのであった。
前アンドレア卿の技術を継いでいたのは、アーベルジュ公令嬢であった。
女性用の軽鎧をまとう彼女が、薙刀状の槍をふるうと、皇太子軍の槍先は簡単に切り捨てられていった。
呆然とする長槍兵たちは、彼女に続きランスチャージを行う騎兵に突っ込まれ、一瞬にして瓦解する。
正午前に始まった戦いは1時間もかからずに皇太子軍が崩壊することで決着がついてしまった。

この皇太子軍の敗北により帝国軍は一瞬にして崩壊した。
彼女のその技術は、先の大戦の英雄前アンドレア卿を彷彿とさせるものであり、また、先陣を切る彼女の姿は、先の大戦で聖女と謳われたサウスレア伯令嬢アリスを思い起こさせるものであった。
帝国の悪夢が重なって襲い掛かってきたようなものであり、帝国軍は恐慌状態に陥ったのだ。
そしてその瞬間、サウスレア伯軍が、ノッテンを焼き払って撤退したという情報が入ると、帝国軍は統制を失い逃亡を始めた。
まず逃げ出したのは帝国西部および北部の諸侯だった。
彼らはいくら手柄を立てても王国の領地はかなり遠距離の飛び地になるため統治しずらい。
本当に義理で来ているだけの彼らの士気は低く、再度街道を閉鎖される恐れを抱いた彼らは一目散に帰国してしまったのだった。

一部が逃亡すれば、それは軍全体に波及する。友崩れ、といわれる現象だ。
それでも皇太子は必死に軍をまとめ包囲を継続しようとした。
なんせ今の王都は国王も、王太子も死亡した、主無き都である。
あと少し、あと少しで陥落する状況なのである。

そうして、自ら剣を抜いてまで督戦し、軍をまとめようとした皇太子は督戦として処断しようとした味方の一兵卒の反撃にあい殺された。
武術が不得手な彼では、武術の知識はないが鍛えられている雑兵にすら勝てなかったのだ。

そうして皇太子が死去した帝国軍はあわてて撤退。
帝国はその後皇帝の求心力が下がり内乱を繰り返すことになるのであった。
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