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7 王太子の最期

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王太子の評価と地位は日を追うにつれて悪くなっていった。
理由はいくつもあった。

まず、今回の帝国との戦いのきっかけを短慮により作ったこと
彼が皇太子を傷つけるというまったくもって王国に意味のない宣戦理由を作ったのは最悪であった。
帝国とは国とは言うが、2つの王国、6つの公国、そして多数の諸侯の寄り合い国家である。
そのため意思統一が非常に難しく、皇帝や皇室の人間がこうだといってもそう従うものではない。
しかし、王国が一方的に皇太子を傷つけたとなると事情が異なる。
帝国そして帝国諸侯すべてを舐めた行動だと帝国側に思われたのだ。
そのため今回の侵略に関しては、多くの諸侯が参加していた。
足並みそろわない帝国内部が今回の件で一気にまとまってしまったのだ。そのいいわけを作ってしまった彼の評価はこの時点でも最悪であった。

さらに、彼の股肱の臣であるアンドレア卿が大敗北を期して、無様に帝国に殺されたのもさらにマイナスであった。
王都は人口も多く城壁もしっかりした城塞都市だ。帝国軍が包囲しているとはいえ、消耗が激しいのは帝国側であり、待てば撤退するだろうという見込みがあった。
攻城戦とは古来攻撃側が非常に不利なのだ。
それがアンドレア卿の敗北により王都内の士気は最悪になり、降伏論まで飛び出し始める始末である。
もっともこれは協力している貴族の失敗であり、すでに地に堕ちている王太子の評価を地にめり込ませるほどのものではなかった、はずであった。

そこに追い打ちをかけたのはマリアの失踪だ。
アーベルジュ公令嬢の発言から、元から内通が疑われていた彼女だが、王都を抜け出し現在帝国の占領下にある実家の領地に帰ったことが発覚したのだ。
包囲下の王都から抜け出し、帝国占領地へと帰った彼女は帝国との内通が確定的として見られ、それをそばに置いて重要な婚約を理由なく破棄いた王太子の評価は完全に地に堕ちる、では済まずに地にめり込んでいた。

戦時中にもかかわらず、即時廃嫡のうわさすら流れ始めるほど彼の状況は悪化していた。
そんな中、事件は起きた。

血の舞踏会事件
帝国との対策を検討する会議で突如王太子が発狂。
父親である現国王及び弟の第二王子、さらに継承権を有する叔父のターボット公及びその息子で従兄弟に当たるターボット公令息を殺害しようとするという事件が起きる。
国王以外はその場で即死、国王も王太子を廃嫡するという遺言のみを残し死亡。
元王太子は逃亡するという最悪の事件である。

王家側は元王太子のその後を把握できなかったが、のちにわかったことをまとめると以下のような推移があったようだ。
この殺戮劇はもともと王太子が一人で計画したものらしく、その後、側近たちとともに王城を脱出した王太子は、王都内のセーフハウスの一つで身を清めたらしい。
その後、側近たちを糾合して王権を狙うつもりだったようだが、側近たちは親兄弟すら理由なく殺す狂人に恐れをなし、また廃嫡されたことを知り付き従う利益がないと判断し、すべてを持ち出して逃亡をした。
王太子の手元に残されたのは血で汚れた服以外は、ボロボロの服1枚と銅貨3枚しかなかったという。
王太子にお似合いの側近である。
激怒した王太子はそのまま王都に出て側近を探そうとするが、王都民に尊大にふるまい暴行をしたことをきっかけに、王都民によってたかって殴られたらしい。
その際、「王太子だ、従え下民ども!!」と何度も叫んだことが、当時の教会の日記に記されている。
その宣言はむしろ私刑を加速させた。
王都民は今回の戦争が王太子の性で起きたことを知っていたのだから当然だ。

顔が識別できないほど殴られたという。
そうしてそのまま、王都民は彼を帝国軍に差し出した。
援軍が敗北しただけでなく、上層部が死んだという状況で抗戦は無理だと判断したのだろう。

もっとも帝国側は、彼が元王太子と認めなかった。
顔が殴られすぎてわからないし、声も叫びすぎて枯れていたからわからない。
服も一般市民が着ているようなものだ。元王太子と判断できるのは髪の色が同一というぐらいだった。
結局彼は尋問という名の拷問を受けた後、一般市民として処刑された。
その死体は野に捨てられ、弔われることもなく野鳥についばまれたという。
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