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ボクと狐ちゃんとテニスサークル 3
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大学の正門から歩いてすぐのところにそのテニスコートはあった。
20面ほどあるテニスコートでは、まだ朝の9時にもかかわらずいろいろな人がテニスに興じていた。
ここのテニスコートは大学のすぐ近くということで当然予約競争が激しいらしい。サークルごとに予約するのだが、優先順位がいろいろあって、なんでも歴史があって強豪のテニスサークルしか使えないといったようなニュアンスのはなしが、入学前に買ったサークル案内の本に書いてあった。
そんなところで新入生歓迎の何かをやるサークルってよほどうまい人が集まるサークルなのではないだろうか。ボクは当然テニスなんてほとんどやったことのないド素人だし、クーちゃんは普段のトロさから言ってスポーツ自体ができなさそうである。テニスラケットすら持っていないそんな二人が着ちゃいけないところなんじゃないか、と戦々恐々としながら会場へと向く。
「そういえばクーちゃん、なんでテニスを?」
「テニスってかっこいいじゃない! 優雅そうだし!!」
「あー、そうだねー」
「きっと私でもできるよね!!」
「そうだといいねー」
ルール自体よく知らないが、テニスって確か1試合で何時間もやるんじゃなかっただろうか。スポーツニュースでそんなものを見たことがある気がする。クーちゃんの身体能力じゃ1時間どころか3分ぐらいで活動限界を迎えそうである。
そんなボクの心配をよそに、クーちゃんは期待に胸を膨らませ、楽しそうにテニスコートの方へと駆けていった。
「瑞原テニスクラブにようこそ。私が幹事長の井上です」
「鈴木翔といいます。今日はよろしくお願いします」
「お、お、尾崎葛葉でしゅっ! よろしくおねがいしましゅっ!」
サークルのリーダーらしい井上さんは、体格はいいが優しそうな人だった。色は結構黒く、よほどテニスをしているような、体育会系の体格と雰囲気をまとっていた。
一方のクーちゃんは人見知りを発動したのか噛み噛みだった。挨拶してボクの後ろに隠れないでほしい。取って食ったりしないよ、たぶん。
「二人とも、テニスの経験は?」
「ボクは高校時代に授業で触ったことがあるぐらいですね。クーちゃんは?」
「ぜんぜん、ない」
「全くだそうです。素人二人ですが大丈夫ですか?」
「やる気と根性があれば初心者でも大歓迎だよ。ラケットは貸してあげるね」
井上さんの目が光る。あ、この人体育会系の人だ。そもそも初心者歓迎といったがそれはやる気と根性があるのが前提であるセリフだ。絶対チャラいサークルではない。完全にガチなサークルである。
絶対この後シゴかれる、ボクはそんな確信があった。
今日の新入生は30名から40名ぐらいだった。ほとんど男性で、女性はボクたち含めて片手の指の数ほどだった。ひとまず全員運動できる格好に着替えた後、ひとまとまりにされてテニスコートの金網の外で少し待っているように言われた。
コートでは男性二人がかっこよく打ち合いをしていた。ボールがすごく速い。二人とも縦横無尽にコートを走りながら、バシンバシンと打ち合いをしている。ボールも弾み方や軌道が多彩であり、いろいろな打ち方をしているんだろうなーとぼんやり思った。
隣でクーちゃんが目を輝かせてその光景を見ている。自分でやるのを夢見ているのだろうか。クーちゃんがあのレベルに達するにはあと100年ぐらい必要なんじゃないだろうか。主に足の速さで。
「すごいね、ショウちゃん!!」
「そうだね、すごいかっこいいね」
クーちゃんの耳がピンと立ってコート内にくぎ付けになっているし、尻尾はもっふんもっふん上下している。ちなみにあの耳と尻尾、一般の人には『気にされない』らしく、あれだけ激しく上下する尻尾に注目する人は誰もいない。
「足もすごく速いし」
「ボールも速いねぇ」
「でも必殺技ないのかな」
「必殺技? テニスは相手殺しちゃダメでしょ」
「でもテニス漫画だと相手を吹き飛ばしたりするよ」
「それは漫画的表現でしょう」
「ラケットへし折ったりとか、金網貫通したりもするよ」
「それこそ漫画的表現でしょう。これが折れると思えないよ」
「そこは何か宇宙的なパワーとかで」
「宇宙すごいね」
先ほど借りた、手に持ったラケットを見る。かなり丈夫そうなシロモノであり、コンクリートの床か何かを何回も殴らないと壊れなさそうだ。これにボールをぶつけてへし折るなんてとても無理そうである。
そもそもテニスで殺しちゃダメなのに必殺技とはいったい何なのか。クーちゃんの見ている漫画がちょっと気になった。
「ねえ、君たち、テニス初めて?」
「ひゃっ!?」
「俺、高校時代テニス結構していたから、教えられると思うよ。少し教えようか?」
新入生らしき男性がいきなりボクたちに話しかけてきた。人見知りのクーちゃんはボクの後ろに隠れる。これって後ろから別の人が来たらどうするんだろうというどうでもいい疑問が浮かんだ。
「いえ、先輩方が教えてくれるみたいですし、大丈夫です」
「そんな遠慮しないでよ」
「いえ、遠慮しておきます」
妙になれなれしくしてくるこのチャラ男(仮)は一体何なのだろうか。金髪に染めたチャラそうな男性だ。腕も足も細いし、とてもテニスがうまいようには思えない。さっきの幹事長さんなんか、右手と左手の太さが違った。さっきからテニスのプレイ光景を見ている限り、ボールを片手で打つから腕が不釣り合いな太さになるのだろう。そういう人と比べると大言壮言にしかみえなかった。
「ほら、いいから、ラケットの持ち方教えてやるよ」
「結構です~」
「なっ」
強引にボクの腕をつかもうとしたチャラ男(仮)の手が宙を切る。格闘技の経験があるし、これくらいの間合い飲みきりぐらいはできるのだ。やるからにはちゃんと教えてほしいしノーサンキューである。
そのままクーちゃんの手を引いてそのチャラ男(仮)から離れる。チャラ男(仮)は無駄に追いすがろうとしてきたが、すぐに先輩たちが来て事なきを得た。
20面ほどあるテニスコートでは、まだ朝の9時にもかかわらずいろいろな人がテニスに興じていた。
ここのテニスコートは大学のすぐ近くということで当然予約競争が激しいらしい。サークルごとに予約するのだが、優先順位がいろいろあって、なんでも歴史があって強豪のテニスサークルしか使えないといったようなニュアンスのはなしが、入学前に買ったサークル案内の本に書いてあった。
そんなところで新入生歓迎の何かをやるサークルってよほどうまい人が集まるサークルなのではないだろうか。ボクは当然テニスなんてほとんどやったことのないド素人だし、クーちゃんは普段のトロさから言ってスポーツ自体ができなさそうである。テニスラケットすら持っていないそんな二人が着ちゃいけないところなんじゃないか、と戦々恐々としながら会場へと向く。
「そういえばクーちゃん、なんでテニスを?」
「テニスってかっこいいじゃない! 優雅そうだし!!」
「あー、そうだねー」
「きっと私でもできるよね!!」
「そうだといいねー」
ルール自体よく知らないが、テニスって確か1試合で何時間もやるんじゃなかっただろうか。スポーツニュースでそんなものを見たことがある気がする。クーちゃんの身体能力じゃ1時間どころか3分ぐらいで活動限界を迎えそうである。
そんなボクの心配をよそに、クーちゃんは期待に胸を膨らませ、楽しそうにテニスコートの方へと駆けていった。
「瑞原テニスクラブにようこそ。私が幹事長の井上です」
「鈴木翔といいます。今日はよろしくお願いします」
「お、お、尾崎葛葉でしゅっ! よろしくおねがいしましゅっ!」
サークルのリーダーらしい井上さんは、体格はいいが優しそうな人だった。色は結構黒く、よほどテニスをしているような、体育会系の体格と雰囲気をまとっていた。
一方のクーちゃんは人見知りを発動したのか噛み噛みだった。挨拶してボクの後ろに隠れないでほしい。取って食ったりしないよ、たぶん。
「二人とも、テニスの経験は?」
「ボクは高校時代に授業で触ったことがあるぐらいですね。クーちゃんは?」
「ぜんぜん、ない」
「全くだそうです。素人二人ですが大丈夫ですか?」
「やる気と根性があれば初心者でも大歓迎だよ。ラケットは貸してあげるね」
井上さんの目が光る。あ、この人体育会系の人だ。そもそも初心者歓迎といったがそれはやる気と根性があるのが前提であるセリフだ。絶対チャラいサークルではない。完全にガチなサークルである。
絶対この後シゴかれる、ボクはそんな確信があった。
今日の新入生は30名から40名ぐらいだった。ほとんど男性で、女性はボクたち含めて片手の指の数ほどだった。ひとまず全員運動できる格好に着替えた後、ひとまとまりにされてテニスコートの金網の外で少し待っているように言われた。
コートでは男性二人がかっこよく打ち合いをしていた。ボールがすごく速い。二人とも縦横無尽にコートを走りながら、バシンバシンと打ち合いをしている。ボールも弾み方や軌道が多彩であり、いろいろな打ち方をしているんだろうなーとぼんやり思った。
隣でクーちゃんが目を輝かせてその光景を見ている。自分でやるのを夢見ているのだろうか。クーちゃんがあのレベルに達するにはあと100年ぐらい必要なんじゃないだろうか。主に足の速さで。
「すごいね、ショウちゃん!!」
「そうだね、すごいかっこいいね」
クーちゃんの耳がピンと立ってコート内にくぎ付けになっているし、尻尾はもっふんもっふん上下している。ちなみにあの耳と尻尾、一般の人には『気にされない』らしく、あれだけ激しく上下する尻尾に注目する人は誰もいない。
「足もすごく速いし」
「ボールも速いねぇ」
「でも必殺技ないのかな」
「必殺技? テニスは相手殺しちゃダメでしょ」
「でもテニス漫画だと相手を吹き飛ばしたりするよ」
「それは漫画的表現でしょう」
「ラケットへし折ったりとか、金網貫通したりもするよ」
「それこそ漫画的表現でしょう。これが折れると思えないよ」
「そこは何か宇宙的なパワーとかで」
「宇宙すごいね」
先ほど借りた、手に持ったラケットを見る。かなり丈夫そうなシロモノであり、コンクリートの床か何かを何回も殴らないと壊れなさそうだ。これにボールをぶつけてへし折るなんてとても無理そうである。
そもそもテニスで殺しちゃダメなのに必殺技とはいったい何なのか。クーちゃんの見ている漫画がちょっと気になった。
「ねえ、君たち、テニス初めて?」
「ひゃっ!?」
「俺、高校時代テニス結構していたから、教えられると思うよ。少し教えようか?」
新入生らしき男性がいきなりボクたちに話しかけてきた。人見知りのクーちゃんはボクの後ろに隠れる。これって後ろから別の人が来たらどうするんだろうというどうでもいい疑問が浮かんだ。
「いえ、先輩方が教えてくれるみたいですし、大丈夫です」
「そんな遠慮しないでよ」
「いえ、遠慮しておきます」
妙になれなれしくしてくるこのチャラ男(仮)は一体何なのだろうか。金髪に染めたチャラそうな男性だ。腕も足も細いし、とてもテニスがうまいようには思えない。さっきの幹事長さんなんか、右手と左手の太さが違った。さっきからテニスのプレイ光景を見ている限り、ボールを片手で打つから腕が不釣り合いな太さになるのだろう。そういう人と比べると大言壮言にしかみえなかった。
「ほら、いいから、ラケットの持ち方教えてやるよ」
「結構です~」
「なっ」
強引にボクの腕をつかもうとしたチャラ男(仮)の手が宙を切る。格闘技の経験があるし、これくらいの間合い飲みきりぐらいはできるのだ。やるからにはちゃんと教えてほしいしノーサンキューである。
そのままクーちゃんの手を引いてそのチャラ男(仮)から離れる。チャラ男(仮)は無駄に追いすがろうとしてきたが、すぐに先輩たちが来て事なきを得た。
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