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入学式と新歓活動とお花見 4

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「それでクーちゃん、ここって何のブースなの?」
「妖怪同好会ですよ。はい、ビラです」
「妖怪同好会?」

猫ちゃんには逃げられてしまったが、気を取り直してクーちゃんが注いでくれたお茶に口を付ける。手渡されたビラに目を通す。
かわいらしい獣耳の巫女さん、尻尾的に狐だろうか、のイラストが描いてある、なんとなくファンシーなビラだ。活動内容のところには、妖怪で集まって遊ぼうと書いてあった。というなんというか、内容自体はチャラチャラしたイベントサークルと同じである。それにしても、妖怪ね……

「ボク、妖怪じゃないし、ここの活動内容的に参加可能なのかな」
「妖怪じゃない? このブース、公認の認識阻害の結界が張ってあるし、妖怪でもなしで見抜くのは無理だと思うのだけど……」
「ああ、やっぱり人気がないのは理由があったのね」

結界とかオカルトチックだが、そもそも目の前のクーちゃんが獣耳を生やしているのも結構オカルトだ。特に気にもならずに受け入れられる自分がいた。モフモフは正義なのだ。
ベンチに置いていた勧誘チラシの向きをきれいにそろえ、一番上に、ここでもらったチラシを置く。そのままカバンに入れようとしたが、今日持ってきているのは女性用の小さな手提げの小さなカバンだ。いつもならリュックサックか大きな肩掛けカバンなのでこれだけの量のチラシも入ったのだろうが、女性用のスーツにはそういう大きなカバンは合わな過ぎるだろうと思ってやめたのだ。
まあ、家までここから徒歩5分ぐらいだ。ちょっと大変だが抱えていけるだろう。

「んー、んー、ちゃんと結界、動いているよね? うん、ショウさん以外は、ここに入ってきてないし……」
「ボクはちょっと特別な事情があるんだ。詳しいところは乙女の秘密ね。さて、お茶御馳走様」
「え、もう行っちゃうの?」

ブースから去ろうとベンチから立ち上がったら、クーちゃんが私の袖をつかんで、上目遣いで見つめてきた。耳がペタン、と伏せているのが目に入る。耳が口ほどにものを言うようだ。上目遣いも相まって、私、寂しいですという感情が伝わってくる。あざとい、非常にあざとい。その耳なでなでしたい。
振り払ってここから立ち去ることもできず、さりとて座りなおすのも何かと思っていると・……

「あれ? お客さん?」
「あ、オリベちゃん、お帰り」

後ろから声をかけられた。振り返るとそこには、高身長のイケメンがいた。身長は180cm超えているのではないだろうか。顔も非常に整っていて、アイドルのような、スマートなイケメンだった。あまりにかっこよすぎて若干ビビる。
ただ、この人も頭に獣の耳があった。この人も妖怪なのだろうか。

「ただいま、クー。その人、新しく入るの?」
「おかえり、オリベちゃん。この人、妖怪じゃないみたいだけど、加入できるよね?」
「妖怪じゃない人? あ、失礼。俺は塗々木折壁(とどきおりべ)。このサークルの幹事長だよ。クーとは幼馴染なんだ」

この輝かんばかりのイケメンが笑顔で話しかけてくる。どうやらサークルの幹事長のようだ。しかもクーちゃんというかわいい女の子の幼馴染持ち。持つ者は違うなぁというのが正直な感想だった。

「初めまして。鈴木翔といいます。新入生です」
「よろしくね。別にうちのサークル、妖怪じゃなきゃダメなんていうルールではないから、大歓迎だよ。所属しているのはみんな妖怪ばかりだけどね」
「いえ、そもそも入るとは……」
「一緒がいいな」

私の言葉を遮るようにクーちゃんが言う。その手は絶対に逃がさないというべく私の服の袖口を強く握り締めていた。さっきよくわからないイベントサークルで受けた強引な勧誘とやっていることは一緒なのだが、クーちゃんに対して嫌悪感はなかった。私の中では、イケメンは有罪だがかわいいは正義だったようだ。

「人見知りのクーちゃんが知らない人に、特に女の人になつくなんて珍しいね。ショウさん。これからお花見なんだけど、参加しない?」
「お花見ですか?」
「新入生歓迎お花見だね。どこのサークルもやっているやつだよ。基本おごりだから、渡り歩けば食費は結構浮くんだよね。去年俺も一週間ぐらい渡り歩いていたよ」

人懐っこい笑みで私を誘う塗々木さん。もう帰ろうかと思ったが、よく考えたら断る理由は特にない。どうせ家に帰っても一人だし、あくせく昼ご飯を作るより、サークルの花見でお相伴にあずかる方がいいだろう。食費も浮くし、なによりさっきからクーちゃんが、私の袖をつかんで離さないし。

実のところ、ここならボクも楽しくいられるのではないか、という期待がある。
銀髪になってから本当に嫌なことがいっぱいあった。さっき絡まれたのだって髪の色は無関係ではないだろう。直接的に言われることはなくても、特別な風に見られるのに若干辟易としている自分がいた。
その点、ここは、獣耳をはやした女の子と先輩がいるサークルだ。ボクの銀髪もそこまで目立たないのではと思っている。現に塗々木さんも、クーちゃんもボクをそういった特別なものとしてみていないのがわかる。だからこそ、この人たちと一緒にいても変な気疲れはしなさそうである。

「ショウちゃん、私も行くし、一緒にいこう?」
「そこまで誘ってくれるなら、ボクもお邪魔します」
「やったー」

立ち上がって耳をピーンとたてながら、嬉しそうに立ち上がるクーちゃん。小柄だな、と思っていたが、立ち上がると本当に彼女は背が低い。三角の獣耳がピーン、と立っているせいで若干目測が難しいが、獣耳を合わせても、ボクより身長が低いのだから、150cmないのではないだろうか。

「花見の場所は近くの公園だから、案内するね。クーも一緒に行くよ。お茶とコップだけ持ってきて」
「ブースはどうすればいいんですか?」
「後で片づけるし、そのままでいいよ」
「わかりました」
「後、そのチラシの山も、ブースの机の上に置いておいてくれればあとで捨てておくけど?」
「もらったものですし一応持って帰って、一度全部目を通してみます。何か面白いのがあるかもしれませんし」
「じゃあはい、紙袋。あんまりかわいくないけどね」

塗々木さんは、自分のカバンから手提げの紙袋を取り出した。A4サイズが入る大きさの紙袋だ。塗々木さんはかわいくない、といったが、某デパートの見ためのいい紙袋である。持ち歩くにも恥ずかしくないし、ありがたく紙袋を受け取り中にチラシを詰める。こういうのがすっと出てくるあたりできる先輩だな、とおもった。





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