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第五章
再来⑥
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最初にきたロビーを再び通り、綾奈と辰真は一番端にある和室を目指した。
そこら中に感じる息遣いと気配。
何が襲ってくるか解らない恐怖を堪えながら、振り返ることなく目的の場所へ進んで行く。
屋敷をうろつく白装束の女の姿を見かけては、見つからないように隠れながら和室を目指した。
そのため、少々時間が掛かってしまった。
こんな不気味で恐ろしいところ、一秒でも早く出たいのに、なかなかそうはいかない。
常につき纏う、亡霊に見つかって襲撃される危険性への恐怖。
加えて、別行動の大切な友人と兄の安否も解らない。
無数の負の感情に襲われながら、綾奈は陰湿な屋内を歩いていた。
辰真が居てくれることが本当に心強かった。
一人だったら、きっと闇に心を呑まれてしまっていただろう。
「あそこの部屋だよな、綾奈」
「うん、お兄ちゃんと美也、無事だよね?」
「大丈夫だ、きっと。お前の兄貴はすごくしっかりしてるしさ」
「そうだね」
綾奈と辰真は障子の前に立った。
黄ばんだ和紙は破れていないが、赤く染め上げられている。
屋敷の惨劇を二人に見せつけられ、綾奈は嫌な気分になった。
ここが、最後の朱雀の台座がある地下室に続く部屋だ。
綾奈はドアを開けた。
そこには、玲と美也の姿があった。二人とも怪我もなさそうで、元気そうだ。
「お兄ちゃん、美也っ!」
綾奈の嬉々とした声に弾かれて、美也と玲が振り返った。
四人揃って、残りの宝玉は後一つだけ。全ては順調だ。
誰もがそう思った。だが、その油断が笑い合う四人の表情を一転させる。
冷たい手が美也の足首を掴んだ。美也はゆっくりと首を後ろへと向ける。
切れ長の瞳が見開かれて、驚愕に揺れた。
美也は喉が引き攣って、悲鳴を上げることさえできなかった。
どうすることもできずに固まっている美也の足首を冷たい手が引っ張る。
引き伸ばされるような強い痛みに、美也は顔を顰める。
だが、美也が悲鳴を発する暇はなかった。
がくんと身体が揺れ、美也は掘り炬燵に向かって引っ張られていく。
後ろで感じた嫌な空気に、綾奈と玲が振り返った。
背後の光景を目にした途端、綾奈は顔を青褪めさせた。
「美也っ!」
慌てて手を伸ばしたけど、その手は虚しく空を掴んだだけだった。
目の前で、美也はミコトサマによって掘り炬燵の下へと引き込まれて消えた。
抵抗もできずにまっさかさまに落ちていった美也の身体が、地面にぶつかってドスンと嫌な音を立てた。
綾奈と玲と辰真は緊張した面持ちで掘り炬燵の下を覗き込んだ。
三人の米神を冷や汗が伝い落ちていく。
掘り炬燵の下は井戸のように地下へと掘り下げられていた。
暗い竪穴の底には、ぐったりとした美也の身体が横たわっている。
「いやっ!美也、美也っ、しっかりして!」
綾奈は無我夢中で下の美也に呼び掛ける。
動かない美也に、綾奈達の緊張が高まった。
冥い絶望的な一文字を誰もが思い浮かべた。
「みやぁっ……」
綾奈の大きな瞳から透明の雫が零れた。
目の前が真っ暗になった気がして、綾奈は畳に座り込んで顔を両手で覆った。
絶望に打ちひしがれる綾奈の肩を玲が揺すぶった。
「しっかりしろ、綾奈。美也ちゃんはまだ生きてる!」
「え?」
「本当だ、今手が動いたぜ!見てみろよ、綾奈」
辰真が示した穴の底を、綾奈は滲む視界でじっと見た。
放り出された美也の手が微かだけどピクリと動いた。
怪我がどれほどのものかはわからないが、どうやら気絶しているだけらしい。
「今、助けに行くから!」
壁に掛けられている縄の梯子に足をかけ、綾奈は急いで穴の底へと降りようとした。
その時、足元から冷気がふわり舞い上がった。
下方を見ると、美也の足に血に塗れた、顔が焼け爛れたミコトサマがしがみ付いているのが見えた。
彼女はこちらを見上げると、口が裂けんばかりに笑う。
ミコトサマの焦げた腕が美也の身体を凄い力で引っ張った。
身体を引き摺られる痛みで目を覚ました美也は、恐怖に顔を引き攣らせた。
死に物狂いの表情で、四つん這で地面に爪を立て、必死で抵抗を試みた。
だが、相手の力に歯が立たず、固い土の地面に美也の爪でひっかいた線だけが残される。
「いやっ、助けて綾奈ぁ!キャァァァッ!」
美也の悲鳴が狭い空間に響いた。
美也が連れていかれてしまうと、気持ちが焦る。
梯子を一段ずつ降りるのがまどろっこしくて、綾奈は縄の梯子を飛び降りようとした。
だが、二の腕を玲に掴まれて、阻まれてしまう。
「お兄ちゃん離してよっ。このままじゃ、美也が……!」
「落ちつけ綾奈、焦っても自分が怪我をするだけだ。そんなんじゃ美也ちゃんを助けられない」
「お兄ちゃん……」
「ともかく下へ降りろ。飛び降りずにちゃんと一段ずつ降りるんだ」
「うん」
玲の言う通りだ。ここで自分が焦って怪我をすれば、辰真や玲の足を止めることになって、美也を助けるのがその分だけ遅れる。
綾奈はしっかりと縄を握ると、落ち着いて下へと降りた。
井戸の底からは横穴が続いていて、生臭い風が吹き抜けてくる。
「美也ちゃんはこの先に連れてかれたようだ。朱雀の石碑もきっと同じ場所にある」
「よし、急ごうぜ綾奈!」
辰真は励ますように綾奈の背中を叩いた。
突然叩かれて驚いたが、綾奈は力強さにパワーを貰った気がして、元気が出た。
くよくよしてないで、連れていかれた美也を救出するために最善を尽くす。
それが自分に出来ることだ。
横穴に三人の足音が響いた。
まっすぐ道は続いている。地下独特の湿っぽい匂いに混じって、肉の焦げる臭いが鼻を掠めた。
臭いは奥から漂っているようだった。
「ここは……」
道の終着点、綾奈達の眼前に現れたのは鋼鉄の地下牢。
頑丈な格子からは、焼け焦げて黒ずんだり、皮膚が融けている腕が無数に外に向かって伸びてきた。
「これって、牢屋なの?」
「ああ、これは地下牢だ。逃げようと目論んだ巫女が囚われ、そして火炙りにされて殺害された場所だ」
「酷いな、罪も無い女を焼き殺すなんて悪魔の所業としか思えないぜ」
辰真は眉を不機嫌そうに顰めた。
綾奈も玲の話に感情が揺さぶられて、手を伸ばしてくる女達を哀れに思った。
そんな焼け爛れた女達の群れに交じって、美也の姿があった。
気を失っているが、外傷は殆どなさそうだ。
「よかった、美也は無事だよ、お兄ちゃん」
「そうか、よかった。だが、問題はどうやって助けるかだな。扉を開けた瞬間、奴らは襲い掛かってきそうだ。ここには隠れ場も逃げ場もないからさっきの鳥籠の時みたいに、片方が囮になるってわけにもいかない」
「朱雀の台座に宝玉を嵌めれば、さっきみたいに幽霊は消えるんじゃないか?玲さん」
「そうだな。恐らくそうだろう。だが、その台座はあそこだ」
そう言って玲が示したのは、牢屋の中だった。
格子と蠢く女の隙間から、茶色のテーブルに乗った鳥の石碑が見えた。
間違いなく、あれは朱雀の台座だ。
「どっちにしても、この牢を開かないとダメだね。どうしよう」
牢は外からは簡単に開けられるが、開けた瞬間に焼け焦げたミコトサマの群れに襲われる。
どうしたものかと、綾奈達は考え込んだ。
後ろから足音が聞こえてきた。
三人が振り返ると、大きな鉈を持った青白い顔の女が歩いてきているのが見えた。
長い髪を振り乱して、恐ろしい形相を浮かべている。
こちらを睨む瞳に光るのは、紛いようのない殺意だった。
「死ね、町のものは、ひと、り、残らず……、しねぇっ!!」
咆哮を上げると、女は鉈を手に飛び掛かってきた。
出鱈目な狙いだったので三人とも鉈の餌食になることはなんとか免れた。
だが、この狭い空間ではいつ鉈に切り裂かれても不思議じゃない。
「くっ、両塞がりか。退路もない、ならば……」
宝玉を台座に収める以外に、この状況を回避する方法はない。
一か八かだが、かけるしかないと玲は判断した。
「開けるぞ」
叫ぶのと同時に、玲は牢屋の扉を解放した。
「ああぁぁぁぁっ」
恐ろしい声を上げて、ミコトサマたちが牢から雪崩でてきた。
彼女達は一斉にこちらの方に襲い掛かってきた。
辰真と玲が蹴りや拳でそれに対抗する。
殴るのに躊躇していたら自分達がやられると、二人は全力で女の霊に応戦していた。
だが、どんなに倒れてもすぐに霊は起き上ってくる。
体力が奪わる一方で、何の効果もなかった。
「お兄ちゃん、辰真くん!」
綾奈は恐怖を振りきり、守るように立ってくれている二人の間を擦り抜け、朱の宝玉を手に牢獄へと飛び込んだ。
奥にある台座に近付こうとしたが、後ろから髪をひっぱられて叶わない。
振り向くと、顔が融けたミコトサマが髪を掴んでいた。
「離してっ!」
綾奈は肘で相手の鳩尾を何度も突いた。
ミコトサマがよろめいた瞬間、髪を掴んでいた腐っていた手がとれて地面に落ちた。
その隙に綾奈は朱雀の石碑の台座に宝玉を置いた。
紅い光が牢全体を包んだ。
火炙りにしていた頃を再現する様な赤い光が地下に広がった。
そして、視界が無数の光でフェードアウトする。
目の前が真っ白になる中、綾奈は沢山の悲鳴を聞いた気がした。
そこら中に感じる息遣いと気配。
何が襲ってくるか解らない恐怖を堪えながら、振り返ることなく目的の場所へ進んで行く。
屋敷をうろつく白装束の女の姿を見かけては、見つからないように隠れながら和室を目指した。
そのため、少々時間が掛かってしまった。
こんな不気味で恐ろしいところ、一秒でも早く出たいのに、なかなかそうはいかない。
常につき纏う、亡霊に見つかって襲撃される危険性への恐怖。
加えて、別行動の大切な友人と兄の安否も解らない。
無数の負の感情に襲われながら、綾奈は陰湿な屋内を歩いていた。
辰真が居てくれることが本当に心強かった。
一人だったら、きっと闇に心を呑まれてしまっていただろう。
「あそこの部屋だよな、綾奈」
「うん、お兄ちゃんと美也、無事だよね?」
「大丈夫だ、きっと。お前の兄貴はすごくしっかりしてるしさ」
「そうだね」
綾奈と辰真は障子の前に立った。
黄ばんだ和紙は破れていないが、赤く染め上げられている。
屋敷の惨劇を二人に見せつけられ、綾奈は嫌な気分になった。
ここが、最後の朱雀の台座がある地下室に続く部屋だ。
綾奈はドアを開けた。
そこには、玲と美也の姿があった。二人とも怪我もなさそうで、元気そうだ。
「お兄ちゃん、美也っ!」
綾奈の嬉々とした声に弾かれて、美也と玲が振り返った。
四人揃って、残りの宝玉は後一つだけ。全ては順調だ。
誰もがそう思った。だが、その油断が笑い合う四人の表情を一転させる。
冷たい手が美也の足首を掴んだ。美也はゆっくりと首を後ろへと向ける。
切れ長の瞳が見開かれて、驚愕に揺れた。
美也は喉が引き攣って、悲鳴を上げることさえできなかった。
どうすることもできずに固まっている美也の足首を冷たい手が引っ張る。
引き伸ばされるような強い痛みに、美也は顔を顰める。
だが、美也が悲鳴を発する暇はなかった。
がくんと身体が揺れ、美也は掘り炬燵に向かって引っ張られていく。
後ろで感じた嫌な空気に、綾奈と玲が振り返った。
背後の光景を目にした途端、綾奈は顔を青褪めさせた。
「美也っ!」
慌てて手を伸ばしたけど、その手は虚しく空を掴んだだけだった。
目の前で、美也はミコトサマによって掘り炬燵の下へと引き込まれて消えた。
抵抗もできずにまっさかさまに落ちていった美也の身体が、地面にぶつかってドスンと嫌な音を立てた。
綾奈と玲と辰真は緊張した面持ちで掘り炬燵の下を覗き込んだ。
三人の米神を冷や汗が伝い落ちていく。
掘り炬燵の下は井戸のように地下へと掘り下げられていた。
暗い竪穴の底には、ぐったりとした美也の身体が横たわっている。
「いやっ!美也、美也っ、しっかりして!」
綾奈は無我夢中で下の美也に呼び掛ける。
動かない美也に、綾奈達の緊張が高まった。
冥い絶望的な一文字を誰もが思い浮かべた。
「みやぁっ……」
綾奈の大きな瞳から透明の雫が零れた。
目の前が真っ暗になった気がして、綾奈は畳に座り込んで顔を両手で覆った。
絶望に打ちひしがれる綾奈の肩を玲が揺すぶった。
「しっかりしろ、綾奈。美也ちゃんはまだ生きてる!」
「え?」
「本当だ、今手が動いたぜ!見てみろよ、綾奈」
辰真が示した穴の底を、綾奈は滲む視界でじっと見た。
放り出された美也の手が微かだけどピクリと動いた。
怪我がどれほどのものかはわからないが、どうやら気絶しているだけらしい。
「今、助けに行くから!」
壁に掛けられている縄の梯子に足をかけ、綾奈は急いで穴の底へと降りようとした。
その時、足元から冷気がふわり舞い上がった。
下方を見ると、美也の足に血に塗れた、顔が焼け爛れたミコトサマがしがみ付いているのが見えた。
彼女はこちらを見上げると、口が裂けんばかりに笑う。
ミコトサマの焦げた腕が美也の身体を凄い力で引っ張った。
身体を引き摺られる痛みで目を覚ました美也は、恐怖に顔を引き攣らせた。
死に物狂いの表情で、四つん這で地面に爪を立て、必死で抵抗を試みた。
だが、相手の力に歯が立たず、固い土の地面に美也の爪でひっかいた線だけが残される。
「いやっ、助けて綾奈ぁ!キャァァァッ!」
美也の悲鳴が狭い空間に響いた。
美也が連れていかれてしまうと、気持ちが焦る。
梯子を一段ずつ降りるのがまどろっこしくて、綾奈は縄の梯子を飛び降りようとした。
だが、二の腕を玲に掴まれて、阻まれてしまう。
「お兄ちゃん離してよっ。このままじゃ、美也が……!」
「落ちつけ綾奈、焦っても自分が怪我をするだけだ。そんなんじゃ美也ちゃんを助けられない」
「お兄ちゃん……」
「ともかく下へ降りろ。飛び降りずにちゃんと一段ずつ降りるんだ」
「うん」
玲の言う通りだ。ここで自分が焦って怪我をすれば、辰真や玲の足を止めることになって、美也を助けるのがその分だけ遅れる。
綾奈はしっかりと縄を握ると、落ち着いて下へと降りた。
井戸の底からは横穴が続いていて、生臭い風が吹き抜けてくる。
「美也ちゃんはこの先に連れてかれたようだ。朱雀の石碑もきっと同じ場所にある」
「よし、急ごうぜ綾奈!」
辰真は励ますように綾奈の背中を叩いた。
突然叩かれて驚いたが、綾奈は力強さにパワーを貰った気がして、元気が出た。
くよくよしてないで、連れていかれた美也を救出するために最善を尽くす。
それが自分に出来ることだ。
横穴に三人の足音が響いた。
まっすぐ道は続いている。地下独特の湿っぽい匂いに混じって、肉の焦げる臭いが鼻を掠めた。
臭いは奥から漂っているようだった。
「ここは……」
道の終着点、綾奈達の眼前に現れたのは鋼鉄の地下牢。
頑丈な格子からは、焼け焦げて黒ずんだり、皮膚が融けている腕が無数に外に向かって伸びてきた。
「これって、牢屋なの?」
「ああ、これは地下牢だ。逃げようと目論んだ巫女が囚われ、そして火炙りにされて殺害された場所だ」
「酷いな、罪も無い女を焼き殺すなんて悪魔の所業としか思えないぜ」
辰真は眉を不機嫌そうに顰めた。
綾奈も玲の話に感情が揺さぶられて、手を伸ばしてくる女達を哀れに思った。
そんな焼け爛れた女達の群れに交じって、美也の姿があった。
気を失っているが、外傷は殆どなさそうだ。
「よかった、美也は無事だよ、お兄ちゃん」
「そうか、よかった。だが、問題はどうやって助けるかだな。扉を開けた瞬間、奴らは襲い掛かってきそうだ。ここには隠れ場も逃げ場もないからさっきの鳥籠の時みたいに、片方が囮になるってわけにもいかない」
「朱雀の台座に宝玉を嵌めれば、さっきみたいに幽霊は消えるんじゃないか?玲さん」
「そうだな。恐らくそうだろう。だが、その台座はあそこだ」
そう言って玲が示したのは、牢屋の中だった。
格子と蠢く女の隙間から、茶色のテーブルに乗った鳥の石碑が見えた。
間違いなく、あれは朱雀の台座だ。
「どっちにしても、この牢を開かないとダメだね。どうしよう」
牢は外からは簡単に開けられるが、開けた瞬間に焼け焦げたミコトサマの群れに襲われる。
どうしたものかと、綾奈達は考え込んだ。
後ろから足音が聞こえてきた。
三人が振り返ると、大きな鉈を持った青白い顔の女が歩いてきているのが見えた。
長い髪を振り乱して、恐ろしい形相を浮かべている。
こちらを睨む瞳に光るのは、紛いようのない殺意だった。
「死ね、町のものは、ひと、り、残らず……、しねぇっ!!」
咆哮を上げると、女は鉈を手に飛び掛かってきた。
出鱈目な狙いだったので三人とも鉈の餌食になることはなんとか免れた。
だが、この狭い空間ではいつ鉈に切り裂かれても不思議じゃない。
「くっ、両塞がりか。退路もない、ならば……」
宝玉を台座に収める以外に、この状況を回避する方法はない。
一か八かだが、かけるしかないと玲は判断した。
「開けるぞ」
叫ぶのと同時に、玲は牢屋の扉を解放した。
「ああぁぁぁぁっ」
恐ろしい声を上げて、ミコトサマたちが牢から雪崩でてきた。
彼女達は一斉にこちらの方に襲い掛かってきた。
辰真と玲が蹴りや拳でそれに対抗する。
殴るのに躊躇していたら自分達がやられると、二人は全力で女の霊に応戦していた。
だが、どんなに倒れてもすぐに霊は起き上ってくる。
体力が奪わる一方で、何の効果もなかった。
「お兄ちゃん、辰真くん!」
綾奈は恐怖を振りきり、守るように立ってくれている二人の間を擦り抜け、朱の宝玉を手に牢獄へと飛び込んだ。
奥にある台座に近付こうとしたが、後ろから髪をひっぱられて叶わない。
振り向くと、顔が融けたミコトサマが髪を掴んでいた。
「離してっ!」
綾奈は肘で相手の鳩尾を何度も突いた。
ミコトサマがよろめいた瞬間、髪を掴んでいた腐っていた手がとれて地面に落ちた。
その隙に綾奈は朱雀の石碑の台座に宝玉を置いた。
紅い光が牢全体を包んだ。
火炙りにしていた頃を再現する様な赤い光が地下に広がった。
そして、視界が無数の光でフェードアウトする。
目の前が真っ白になる中、綾奈は沢山の悲鳴を聞いた気がした。
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