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第五章
再来④
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もうだめだと、反射的に瞳を閉じた綾奈を、温かいものが包み込む。
「綾奈、大丈夫か?」
明るい声に恐る恐る目を開けると、辰真の顔がすぐ近くにあった。
どうやら、彼が庇ってくれたらしい。
「た、辰真くん!」
「間一髪だったな。間に合ってよかった」
辰真は綾奈の前に立つと、落ちていた木材を拾って構えた。
刹那、海の瞳にさっきよりも激しい憎悪と憤怒が揺らいだ。
「何で綾奈なのよっ!いつも、いつもっ!何でなのよ!」
海は喚き散らしながら、今度は辰真に襲いかかった。
辰真は地面を蹴ると、海の懐に飛び込んで鳩尾に角材をぶつけた。
呻きを漏らすと、海は力を失って地面に倒れた。
それとほぼ同時に、玲もやっと男を気絶させることに成功した。
海に折り重なるようにして、中年の男が倒れる。
「ありがとう、妹を助けてくれて」
「いえ、べつにお礼なんて。おれが助けたいから助けただけだし」
「そうか。ともかく、助かったよ」
玲は感謝を述べると、立ち止まっていた足をまた急がせた。
「ありがとう、辰真くん。ごめんね、急ぐから。辰真くん、帰れるなら早く白藤町に帰ったほうがいい」
早口で辰真にそう告げると、しゃがみ込んでいる美也を助け起こして綾奈はまた走りはじめた。
背後で海と男がもそもそと起き上る気配を感じた。ゆっくりしている余裕はない。
事態についていけていない辰真が、少し焦った声で綾奈に率直な疑問をぶつけた。
「待てよ綾奈、何が起こっているんだ?どうなってんだよ、この町。なんか変だぜ」
混乱気味に尋ねられた質問に、綾奈はすぐに答えられなかった。
この町で起きたことを知らない人に何をどう説明したらいいのか。
いきなり幽霊の仕業だと言っても変な奴と思われるだろう。
でも、それ以外説明のしようがない。
口を濁す綾奈の代わりに、玲が答えた。
「俺達は先を急いでいるんだ。立ち止まって話す暇はないから、知りたいなら走りながら聞いてくれるか?」
「わかった。あんたについて行くから、話してくれますか?」
「そうか。今から話すのは信じられないことだけど、現実のことだ。いいな?」
玲が念を押すように言うと、辰真は真剣な面持ちになった。
足を急がせながらも、玲は話の次第を手短に語った。
話を聞き終えた辰真の顔色は青褪めていた。どうやら玲の話をちゃんと信じてくれたようだ。
綾奈はほっとする。
面白半分で話を聞いていて、スリルを求めて行動を共にすると言われたら、正直困ると思っていた。
なんの関係もない辰真を巻き込みたくない。
玲も同じように考えているらしく、厳しい口調で辰真に言った。
「君は帰れ。この町の人間じゃない君を巻き込むわけにはいかない。君はこの町の人間ではないけれど、襲われない保証はどこにもない。電車は動いているはずだ。駅はここからすぐだ。すぐに町から去るんだ」
「そういうわけにもいかないだろ。事情を知ったからにはおれも手伝うぜ」
「遊びじゃないんだぞ、帰るんだ」
「いや、あんたが止めてもおれは行くぜ!」
拳を握り、力強い声で辰真が宣言した。
もし辰真が中途半端な気持ちなら足手纏いだが、確固たる意志を持っていくならば彼は強力な戦力になるだろう。
巻き込んでしまって申し訳ない気持ちはあったが、玲は爽やかな笑みを浮かべて辰真を見た。
「わかった。すまないが、手伝ってくれ」
「もちろんだぜ」
四人は闇を切り裂いて疾走した。
美也は昔から持久走は得意だったから、けっこう走っているにも関わらず、けろりとした顔で一定のペースで走り続けていた。
しかし綾奈はどちらかというと短距離の方が得意で、持久力に欠ける。
身長と体格の割には体力にはそこそこ自信があったが、少しペースが落ちはじめた。
このままじゃ足手纏いになってしまう、もっと頑張らなきゃ。
そう自分に言い聞かせて忍耐力を糧に地面を蹴り続けたが、徐々に足の回転はゆっくりになっていく。
綾奈の異変に気付くと、他の三人が走る速度を落とした。
「綾奈、苦しくなったらちゃんと言え。これから屋敷に入ってもっと大仕事をこなさなくてはならない。今から気合いを入れ過ぎるとこの先もたないぞ」
「でも、お兄ちゃん。急がなきゃ……」
「そこまで急がなくてもいいから、もっと力を抜け。お前一人じゃないんだ。もっと、周囲に助けを求めていい」
「そうだぜ綾奈。あんまり頑張り過ぎるなって」
「そうだよ、私もちょっと疲れてきたとこだからちょうどよかった。少し歩いて行こうよ」
「ごめんね、ありがとう。みんな」
呼吸を整えるように全員がゆっくりと歩き出した。
森の中に人の気配は殆どなく、静謐な空気に満たされている。
町での大パニックが嘘のようだ。
だが、嵐の前の静けさを連想させてあまり心地良いものではない。
一刻も早く町に正常をもたらさなければと逸る気持ちと、恐怖に飛び込んでいく前の緊張で、綾奈は足が細かく震えるのを感じた。
気持ちを落ち着かせようと大きく息を吸い込む。
深呼吸を繰り返していると、横に辰真が寄り添う様に並んできた。
「本当に大丈夫か?綾奈と都築は女だし、逃げたっていいんだぜ?」
「そんなことできないよ。町の人じゃない辰真くんに押し付けて自分だけ逃げるなんて。それより、辰真くんはどうしてこの町に?」
「ああ、じつは大槻に用事があるって呼び出されて、あいつの家に来てたんだ」
「海に?用事ってなんだったの?」
「……実はさ、好きだって告白されて」
珍しく歯切れ悪そうに辰真が言った。
恋愛の話だから言い難いのかもしれない。
ズケズケと聞いてしまったことを、綾奈は少し申し訳なく思った。
辰真の話にどんなリアクションをしたらいいのかわからず、混乱気味で自分でもよくわからない言葉を返してしまう。
「そ、そうなんだ。辰真くんカッコイイから、美人の海とはすごくお似合いだよ」
「いや、オレ別の好きな奴がいるから断ったんだ」
その言葉に内心安心したのを隠して、綾奈は何でもないふうを装う。
「そっか。なら、しょうがないよね」
「断った時さ、傷付いた顔されたんだ。その後すぐに、あいつ豹変して、すげー怒り出して。
慌てて謝って帰ったんだけど。会った時から少し様子が変でさ、怒り狂ってる時は完全に別人だと思ったけど、まさか、幽霊にとり憑かれてたなんてな」
「本当に、信じられないよね」
そんな会話をしているうちに、森は開けてきて屋敷が見えた。
玲は歩きながら宝玉を取り出して、屋敷のどの位置にどの石を置くのか説明をした。
今日家に帰ってから、部屋で屋敷の平面図を眺め、頭にその様子を叩き込んでいたらしい。
玲の説明には少しも無駄がなく、言葉も途切れることなくすらすら出てきていた。
五つの宝玉は、五芒星の形に置く必要がある。
それぞれ、置かなくてはいけない場所にはそれ専用の台座が置いてあるらしい。
水にあたる食堂には黒の黒曜石。
木の風呂場には緑の翡翠。
金の鳥籠には白の水晶。
火の掘り炬燵から続く地下には朱のローズクォーツ。
そして土に当たる二階の寝室には黄色のトパーズを置く。
そうすることで結界が復活し、霊は再び永眠する。
琴乃はそう言っていた。
黒い気流を渦巻かせて静かに佇む屋敷。
その前に綾奈、美也、玲、辰真は立ち並んだ。
肌を刺すような邪気に戦慄が走った。
「行こう。みんな、気を付けるんだぞ。無理だけはするなよ」
年長者の玲が真っ先に門の中へ足を踏み入れた。
玄関まで続く石畳。
幻妖なことに、両脇の灯篭にはすべて青い炎が燈っている。
歓迎とも排除ともとれない様相に玲が眉を顰める。
だが確固たる意志の元に、玲は勇壮な足取りで石畳を進んでいく。
それに続いて、綾奈と美也はおっかなびっくりと玄関へ歩みを進めた。
本当は怖くて逃げ出したいのだが、そういうわけにはいかない。
玄関を抜けてロビーに入ると、玲は手分けして宝玉を置くことを提案した。
少ない人数に別れるのは危険かもしれないが、ここに長居するよりはずっとましだろう。
彼の提案に、綾奈達は賛成した。
「吉良君、君は綾奈と一緒に風呂場と二階の寝室を頼む。俺は美也ちゃんと鳥籠と食堂の方を回る。いいか?」
玲の発言に辰真は驚いた顔をする。
「あんたはそれでいいんですか?」
そう尋ねた辰真に、玲は小さく首を傾げる。
「何か不安な要素でもあるのか?」
「いや、不安とかじゃないけど。
あんたが綾奈と行かなくってもいいのかと思って。妹が心配なんじゃないのか?」
「心配に決まっているだろう。だが、バランスを考えるとこの組み合わせがベストだ。
美也ちゃんは一回目ここにきた時に鳥籠に行ったと言っていたし、綾奈と君は二階を探索したんだろう?
一度足を運んだ場所の方が、何かと行動がとりやすいだろう。だから、この組み合わせが最良だと考えた」
「確かに妥当な組み合わせだ」
この非常事態で感情優先にならず、瞬時に冷静な判断を下した玲に辰真は感心した顔をする。
「じゃあ、気を付けて行けよ。吉良君、綾奈」
「うん、お兄ちゃん達も気を付けて。美也のこと、守ってあげてね。でも、ムリはしちゃダメだよ」
「ああ、お前の親友はちゃんと俺が守ってやるさ。吉良君、俺の妹を頼んだぞ。信頼している」
「きっちりオレが守るから安心しろよ」
「よし、信じるぞ。じゃあな、掘り炬燵の部屋で落ち合おう。
位置的に俺達の方が早く行けるだろうから、朱の宝玉は俺が持っておく。
お前達が遅れるようなら先に行っている。その時は、メッセージを残しておくから見てくれ」
「うん、わかった。じゃあね」
二組はそれぞれ別々の方向へ走った。
「綾奈、大丈夫か?」
明るい声に恐る恐る目を開けると、辰真の顔がすぐ近くにあった。
どうやら、彼が庇ってくれたらしい。
「た、辰真くん!」
「間一髪だったな。間に合ってよかった」
辰真は綾奈の前に立つと、落ちていた木材を拾って構えた。
刹那、海の瞳にさっきよりも激しい憎悪と憤怒が揺らいだ。
「何で綾奈なのよっ!いつも、いつもっ!何でなのよ!」
海は喚き散らしながら、今度は辰真に襲いかかった。
辰真は地面を蹴ると、海の懐に飛び込んで鳩尾に角材をぶつけた。
呻きを漏らすと、海は力を失って地面に倒れた。
それとほぼ同時に、玲もやっと男を気絶させることに成功した。
海に折り重なるようにして、中年の男が倒れる。
「ありがとう、妹を助けてくれて」
「いえ、べつにお礼なんて。おれが助けたいから助けただけだし」
「そうか。ともかく、助かったよ」
玲は感謝を述べると、立ち止まっていた足をまた急がせた。
「ありがとう、辰真くん。ごめんね、急ぐから。辰真くん、帰れるなら早く白藤町に帰ったほうがいい」
早口で辰真にそう告げると、しゃがみ込んでいる美也を助け起こして綾奈はまた走りはじめた。
背後で海と男がもそもそと起き上る気配を感じた。ゆっくりしている余裕はない。
事態についていけていない辰真が、少し焦った声で綾奈に率直な疑問をぶつけた。
「待てよ綾奈、何が起こっているんだ?どうなってんだよ、この町。なんか変だぜ」
混乱気味に尋ねられた質問に、綾奈はすぐに答えられなかった。
この町で起きたことを知らない人に何をどう説明したらいいのか。
いきなり幽霊の仕業だと言っても変な奴と思われるだろう。
でも、それ以外説明のしようがない。
口を濁す綾奈の代わりに、玲が答えた。
「俺達は先を急いでいるんだ。立ち止まって話す暇はないから、知りたいなら走りながら聞いてくれるか?」
「わかった。あんたについて行くから、話してくれますか?」
「そうか。今から話すのは信じられないことだけど、現実のことだ。いいな?」
玲が念を押すように言うと、辰真は真剣な面持ちになった。
足を急がせながらも、玲は話の次第を手短に語った。
話を聞き終えた辰真の顔色は青褪めていた。どうやら玲の話をちゃんと信じてくれたようだ。
綾奈はほっとする。
面白半分で話を聞いていて、スリルを求めて行動を共にすると言われたら、正直困ると思っていた。
なんの関係もない辰真を巻き込みたくない。
玲も同じように考えているらしく、厳しい口調で辰真に言った。
「君は帰れ。この町の人間じゃない君を巻き込むわけにはいかない。君はこの町の人間ではないけれど、襲われない保証はどこにもない。電車は動いているはずだ。駅はここからすぐだ。すぐに町から去るんだ」
「そういうわけにもいかないだろ。事情を知ったからにはおれも手伝うぜ」
「遊びじゃないんだぞ、帰るんだ」
「いや、あんたが止めてもおれは行くぜ!」
拳を握り、力強い声で辰真が宣言した。
もし辰真が中途半端な気持ちなら足手纏いだが、確固たる意志を持っていくならば彼は強力な戦力になるだろう。
巻き込んでしまって申し訳ない気持ちはあったが、玲は爽やかな笑みを浮かべて辰真を見た。
「わかった。すまないが、手伝ってくれ」
「もちろんだぜ」
四人は闇を切り裂いて疾走した。
美也は昔から持久走は得意だったから、けっこう走っているにも関わらず、けろりとした顔で一定のペースで走り続けていた。
しかし綾奈はどちらかというと短距離の方が得意で、持久力に欠ける。
身長と体格の割には体力にはそこそこ自信があったが、少しペースが落ちはじめた。
このままじゃ足手纏いになってしまう、もっと頑張らなきゃ。
そう自分に言い聞かせて忍耐力を糧に地面を蹴り続けたが、徐々に足の回転はゆっくりになっていく。
綾奈の異変に気付くと、他の三人が走る速度を落とした。
「綾奈、苦しくなったらちゃんと言え。これから屋敷に入ってもっと大仕事をこなさなくてはならない。今から気合いを入れ過ぎるとこの先もたないぞ」
「でも、お兄ちゃん。急がなきゃ……」
「そこまで急がなくてもいいから、もっと力を抜け。お前一人じゃないんだ。もっと、周囲に助けを求めていい」
「そうだぜ綾奈。あんまり頑張り過ぎるなって」
「そうだよ、私もちょっと疲れてきたとこだからちょうどよかった。少し歩いて行こうよ」
「ごめんね、ありがとう。みんな」
呼吸を整えるように全員がゆっくりと歩き出した。
森の中に人の気配は殆どなく、静謐な空気に満たされている。
町での大パニックが嘘のようだ。
だが、嵐の前の静けさを連想させてあまり心地良いものではない。
一刻も早く町に正常をもたらさなければと逸る気持ちと、恐怖に飛び込んでいく前の緊張で、綾奈は足が細かく震えるのを感じた。
気持ちを落ち着かせようと大きく息を吸い込む。
深呼吸を繰り返していると、横に辰真が寄り添う様に並んできた。
「本当に大丈夫か?綾奈と都築は女だし、逃げたっていいんだぜ?」
「そんなことできないよ。町の人じゃない辰真くんに押し付けて自分だけ逃げるなんて。それより、辰真くんはどうしてこの町に?」
「ああ、じつは大槻に用事があるって呼び出されて、あいつの家に来てたんだ」
「海に?用事ってなんだったの?」
「……実はさ、好きだって告白されて」
珍しく歯切れ悪そうに辰真が言った。
恋愛の話だから言い難いのかもしれない。
ズケズケと聞いてしまったことを、綾奈は少し申し訳なく思った。
辰真の話にどんなリアクションをしたらいいのかわからず、混乱気味で自分でもよくわからない言葉を返してしまう。
「そ、そうなんだ。辰真くんカッコイイから、美人の海とはすごくお似合いだよ」
「いや、オレ別の好きな奴がいるから断ったんだ」
その言葉に内心安心したのを隠して、綾奈は何でもないふうを装う。
「そっか。なら、しょうがないよね」
「断った時さ、傷付いた顔されたんだ。その後すぐに、あいつ豹変して、すげー怒り出して。
慌てて謝って帰ったんだけど。会った時から少し様子が変でさ、怒り狂ってる時は完全に別人だと思ったけど、まさか、幽霊にとり憑かれてたなんてな」
「本当に、信じられないよね」
そんな会話をしているうちに、森は開けてきて屋敷が見えた。
玲は歩きながら宝玉を取り出して、屋敷のどの位置にどの石を置くのか説明をした。
今日家に帰ってから、部屋で屋敷の平面図を眺め、頭にその様子を叩き込んでいたらしい。
玲の説明には少しも無駄がなく、言葉も途切れることなくすらすら出てきていた。
五つの宝玉は、五芒星の形に置く必要がある。
それぞれ、置かなくてはいけない場所にはそれ専用の台座が置いてあるらしい。
水にあたる食堂には黒の黒曜石。
木の風呂場には緑の翡翠。
金の鳥籠には白の水晶。
火の掘り炬燵から続く地下には朱のローズクォーツ。
そして土に当たる二階の寝室には黄色のトパーズを置く。
そうすることで結界が復活し、霊は再び永眠する。
琴乃はそう言っていた。
黒い気流を渦巻かせて静かに佇む屋敷。
その前に綾奈、美也、玲、辰真は立ち並んだ。
肌を刺すような邪気に戦慄が走った。
「行こう。みんな、気を付けるんだぞ。無理だけはするなよ」
年長者の玲が真っ先に門の中へ足を踏み入れた。
玄関まで続く石畳。
幻妖なことに、両脇の灯篭にはすべて青い炎が燈っている。
歓迎とも排除ともとれない様相に玲が眉を顰める。
だが確固たる意志の元に、玲は勇壮な足取りで石畳を進んでいく。
それに続いて、綾奈と美也はおっかなびっくりと玄関へ歩みを進めた。
本当は怖くて逃げ出したいのだが、そういうわけにはいかない。
玄関を抜けてロビーに入ると、玲は手分けして宝玉を置くことを提案した。
少ない人数に別れるのは危険かもしれないが、ここに長居するよりはずっとましだろう。
彼の提案に、綾奈達は賛成した。
「吉良君、君は綾奈と一緒に風呂場と二階の寝室を頼む。俺は美也ちゃんと鳥籠と食堂の方を回る。いいか?」
玲の発言に辰真は驚いた顔をする。
「あんたはそれでいいんですか?」
そう尋ねた辰真に、玲は小さく首を傾げる。
「何か不安な要素でもあるのか?」
「いや、不安とかじゃないけど。
あんたが綾奈と行かなくってもいいのかと思って。妹が心配なんじゃないのか?」
「心配に決まっているだろう。だが、バランスを考えるとこの組み合わせがベストだ。
美也ちゃんは一回目ここにきた時に鳥籠に行ったと言っていたし、綾奈と君は二階を探索したんだろう?
一度足を運んだ場所の方が、何かと行動がとりやすいだろう。だから、この組み合わせが最良だと考えた」
「確かに妥当な組み合わせだ」
この非常事態で感情優先にならず、瞬時に冷静な判断を下した玲に辰真は感心した顔をする。
「じゃあ、気を付けて行けよ。吉良君、綾奈」
「うん、お兄ちゃん達も気を付けて。美也のこと、守ってあげてね。でも、ムリはしちゃダメだよ」
「ああ、お前の親友はちゃんと俺が守ってやるさ。吉良君、俺の妹を頼んだぞ。信頼している」
「きっちりオレが守るから安心しろよ」
「よし、信じるぞ。じゃあな、掘り炬燵の部屋で落ち合おう。
位置的に俺達の方が早く行けるだろうから、朱の宝玉は俺が持っておく。
お前達が遅れるようなら先に行っている。その時は、メッセージを残しておくから見てくれ」
「うん、わかった。じゃあね」
二組はそれぞれ別々の方向へ走った。
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