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第二章
リアル肝試し⑥
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待っていてやむ保証がないなら、早く家に帰りたい。だけどこのまま家まで雨にうたれて帰れば、びしょ濡れになることは免れないだろう。
辰真の言う通り、雨が弱まることを期待して雨宿りをするべきだろうか。
綾奈は少し眉を顰め、ぼんやり夜路を見た。
ふと、暗闇の向こうから、見慣れた靴が近付いてくるのが見えた。綾奈はぱっと笑顔を浮かべる。
「お兄ちゃん」
綾奈が呼びかけると、玲が駆け寄ってきた。
差していた傘を綾奈の方に傾け、玲が優しい笑みを浮かべる。
「綾奈、大丈夫か?」
「うん、平気。でもお兄ちゃん、どうしてここに?」
玲は差している傘以外に、左手に二本の傘を握っている。
玲は偶然ここを通りかかったのではなく、必然的にやってきたようだ。
まさか雨が降り出したからとい理由だけで、わざわざ探しにきてくれたわけではないだろう。
不思議そうに首を傾げる綾奈の頭を撫でると、玲は辰真に顔を向けた。
「こんばんは、綾奈の兄の玲です」
「あ、どうも。クラスメイトの吉良辰真です」
聡明そうな顔に大人の対応。容姿内面ともに隙がない玲に、辰真が居心地悪そうに身じろぐ。
「美也ちゃん、傘をどうぞ」
「すいません。ありがとうございます、玲さん」
「君も、持っていくといい」
玲が一本だけ残った傘を辰真に差し出した。
辰真は反射的に手を出したが、傘を受け取るかどうか戸惑っていた。傘は全部で三本、人数分ない。
「いや、おれはいいです。あんたの傘がなくなるだろ。だから、いいです」
遠慮する辰真に玲が大人びた笑みを浮かべて、強引に傘を渡す。
「俺は大丈夫だ。君、駅まで行くんだろう?持って行け。雨は止まないだろうから」
「はい、ありがとうございます」
「お兄ちゃん、私と一緒に入って」
「ありがとう綾奈。離れていると濡れるぞ。ほら、もっと近くにおいで」
玲が綾奈の肩を抱き寄せ、傘を持った。
高い背を少し屈めて、背の低い綾奈が濡れないように気遣う玲の姿に、辰真はふと海が綾奈をブラコンだと言っていたのを思い出し、玲がシスコンなのではないかと思った。
神座駅が見えてきた。
綾奈と美也は駅に続く道に曲がらずに、道をまっすぐ進んで帰るので、辰真とはここでお別れだ。
「じゃあな、如月、都築。気を付けて帰れよ。傘、ありがとな」
辰真が綾奈に傘を返そうとした。綾奈はその手をやんわりと制止する。
「持っていって、吉良くん」
「いや、いいよ。ちょっとの距離だし。電車降りたら家から迎えを呼ぶから平気だぜ」
「いいから、助けてくれたお礼。お礼にもならないかもしれないけど」
「そうか、悪ぃな、明日学校で返すよ。じゃあな、気を付けて帰れよ」
「うん、じゃあね」
大きく手を振る辰真に控えめに手を振り返すと、綾奈は美也と玲と並んでまた歩きだした。
「それで、どうして迎えに来てくれたの?よく私の居場所がわかったね」
綾奈は歩きながら玲に尋ねた。
「家に帰ってお前がいなかったから、母さんに何処へ行ったか聞いたのさ。そしたら美也ちゃんと一緒に丘の屋敷の近くの森に行ったって言うから、幽霊屋敷に行ったのかもしれないって心配になってね。行ったのか?幽霊屋敷」
「うん……」
「あそこは立ち入り禁止だぞ。何だってあんな所に?」
「海がみんなで行こうって言うから。断り切れなかったの。意地を張っちゃった」
本当に馬鹿な真似をしてしまった。
つまらない意地を張って、怖い目に遭ってしまって踏んだり蹴ったりだ。
自業自得だと笑うしかない。
「でも、私が幽霊屋敷に行ったから心配して来てくれたってわけじゃないよね」
「ああ、半分違うな」
「半分?どういう意味?」
「高校を卒業して巡査になった友人と今日偶然会ったんだ。そいつから聞いたんだが、昨夜、幽霊屋敷に泥棒が入ったらしい。もしその泥棒がまた屋敷に盗みに入って、お前と鉢合わせていたりしたら危険だと思って、それで迎えに来たんだよ」
「そうなんだ、ぜんぜん知らなかった」
「でも玲さん、昨夜、泥棒が屋敷に入ったなら、警察が動いているんじゃないんですか?私達、警察なんて見ませんでしたよ。ねえ、綾奈」
「うん、見てないね」
「だろうな。幽霊屋敷には所有者がいないから、盗難を訴える人がいないんだからな。あそこは廃墟だ、盗難が起こったぐらいじゃ警察は調べたりしないさ。ただ、泥棒があそこ以外を狙う可能性があるから、盗難被害を防ぐために町民全体に不審者の呼びかけをして、それでおしまいだ。屋敷の中は一切調べない。あそこはあんまり警察も関わりたくないらしいな」
「関わりたくないって、どうして?」
綾奈の質問に玲は少し難しい顔をする。暫くどう答えるか迷っているようだったが、結局は「あそこの事はあまり気にするな」という一言で片付けられてしまった。
どうしても警察が嫌煙する理由を知りたいわけじゃなかったので、綾奈もそれ以上食い下がることはしなかった。
幽霊屋敷の話を終わりにして、綾奈は玲と美也と雑談を交わしながら帰路を歩いた。家帰り道の途中にある美也の家に立ち寄る。
「ごめんね、綾奈。わざわざ家まで寄ってもらって」
「ううん、いいの。どうせ帰り道の途中だから。それよりごめんね、私のせいで危ない目に遭わせちゃって」
「気にしないで、綾奈のせいなんかじゃないわよ。ホントにありがとね。綾奈、気を付けて帰って。玲さんも傘、ありがとうございました」
「バイバイ、美也。また明日ね」
「バイバイ、綾奈」
美也を送り届けると、綾奈と玲も家へ向かった。
辰真の言う通り、雨が弱まることを期待して雨宿りをするべきだろうか。
綾奈は少し眉を顰め、ぼんやり夜路を見た。
ふと、暗闇の向こうから、見慣れた靴が近付いてくるのが見えた。綾奈はぱっと笑顔を浮かべる。
「お兄ちゃん」
綾奈が呼びかけると、玲が駆け寄ってきた。
差していた傘を綾奈の方に傾け、玲が優しい笑みを浮かべる。
「綾奈、大丈夫か?」
「うん、平気。でもお兄ちゃん、どうしてここに?」
玲は差している傘以外に、左手に二本の傘を握っている。
玲は偶然ここを通りかかったのではなく、必然的にやってきたようだ。
まさか雨が降り出したからとい理由だけで、わざわざ探しにきてくれたわけではないだろう。
不思議そうに首を傾げる綾奈の頭を撫でると、玲は辰真に顔を向けた。
「こんばんは、綾奈の兄の玲です」
「あ、どうも。クラスメイトの吉良辰真です」
聡明そうな顔に大人の対応。容姿内面ともに隙がない玲に、辰真が居心地悪そうに身じろぐ。
「美也ちゃん、傘をどうぞ」
「すいません。ありがとうございます、玲さん」
「君も、持っていくといい」
玲が一本だけ残った傘を辰真に差し出した。
辰真は反射的に手を出したが、傘を受け取るかどうか戸惑っていた。傘は全部で三本、人数分ない。
「いや、おれはいいです。あんたの傘がなくなるだろ。だから、いいです」
遠慮する辰真に玲が大人びた笑みを浮かべて、強引に傘を渡す。
「俺は大丈夫だ。君、駅まで行くんだろう?持って行け。雨は止まないだろうから」
「はい、ありがとうございます」
「お兄ちゃん、私と一緒に入って」
「ありがとう綾奈。離れていると濡れるぞ。ほら、もっと近くにおいで」
玲が綾奈の肩を抱き寄せ、傘を持った。
高い背を少し屈めて、背の低い綾奈が濡れないように気遣う玲の姿に、辰真はふと海が綾奈をブラコンだと言っていたのを思い出し、玲がシスコンなのではないかと思った。
神座駅が見えてきた。
綾奈と美也は駅に続く道に曲がらずに、道をまっすぐ進んで帰るので、辰真とはここでお別れだ。
「じゃあな、如月、都築。気を付けて帰れよ。傘、ありがとな」
辰真が綾奈に傘を返そうとした。綾奈はその手をやんわりと制止する。
「持っていって、吉良くん」
「いや、いいよ。ちょっとの距離だし。電車降りたら家から迎えを呼ぶから平気だぜ」
「いいから、助けてくれたお礼。お礼にもならないかもしれないけど」
「そうか、悪ぃな、明日学校で返すよ。じゃあな、気を付けて帰れよ」
「うん、じゃあね」
大きく手を振る辰真に控えめに手を振り返すと、綾奈は美也と玲と並んでまた歩きだした。
「それで、どうして迎えに来てくれたの?よく私の居場所がわかったね」
綾奈は歩きながら玲に尋ねた。
「家に帰ってお前がいなかったから、母さんに何処へ行ったか聞いたのさ。そしたら美也ちゃんと一緒に丘の屋敷の近くの森に行ったって言うから、幽霊屋敷に行ったのかもしれないって心配になってね。行ったのか?幽霊屋敷」
「うん……」
「あそこは立ち入り禁止だぞ。何だってあんな所に?」
「海がみんなで行こうって言うから。断り切れなかったの。意地を張っちゃった」
本当に馬鹿な真似をしてしまった。
つまらない意地を張って、怖い目に遭ってしまって踏んだり蹴ったりだ。
自業自得だと笑うしかない。
「でも、私が幽霊屋敷に行ったから心配して来てくれたってわけじゃないよね」
「ああ、半分違うな」
「半分?どういう意味?」
「高校を卒業して巡査になった友人と今日偶然会ったんだ。そいつから聞いたんだが、昨夜、幽霊屋敷に泥棒が入ったらしい。もしその泥棒がまた屋敷に盗みに入って、お前と鉢合わせていたりしたら危険だと思って、それで迎えに来たんだよ」
「そうなんだ、ぜんぜん知らなかった」
「でも玲さん、昨夜、泥棒が屋敷に入ったなら、警察が動いているんじゃないんですか?私達、警察なんて見ませんでしたよ。ねえ、綾奈」
「うん、見てないね」
「だろうな。幽霊屋敷には所有者がいないから、盗難を訴える人がいないんだからな。あそこは廃墟だ、盗難が起こったぐらいじゃ警察は調べたりしないさ。ただ、泥棒があそこ以外を狙う可能性があるから、盗難被害を防ぐために町民全体に不審者の呼びかけをして、それでおしまいだ。屋敷の中は一切調べない。あそこはあんまり警察も関わりたくないらしいな」
「関わりたくないって、どうして?」
綾奈の質問に玲は少し難しい顔をする。暫くどう答えるか迷っているようだったが、結局は「あそこの事はあまり気にするな」という一言で片付けられてしまった。
どうしても警察が嫌煙する理由を知りたいわけじゃなかったので、綾奈もそれ以上食い下がることはしなかった。
幽霊屋敷の話を終わりにして、綾奈は玲と美也と雑談を交わしながら帰路を歩いた。家帰り道の途中にある美也の家に立ち寄る。
「ごめんね、綾奈。わざわざ家まで寄ってもらって」
「ううん、いいの。どうせ帰り道の途中だから。それよりごめんね、私のせいで危ない目に遭わせちゃって」
「気にしないで、綾奈のせいなんかじゃないわよ。ホントにありがとね。綾奈、気を付けて帰って。玲さんも傘、ありがとうございました」
「バイバイ、美也。また明日ね」
「バイバイ、綾奈」
美也を送り届けると、綾奈と玲も家へ向かった。
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