62 / 70
八章
夜の蝶は秘密を抱いて苗床となる④⑤
しおりを挟む「ヒナ、ユウキ、美比呂を見なかったか?」
咲藤様への怒りがあった時もいつも冷静な晃介様が息を切らして部屋へ飛び込んできて、ベッドメイキングをしたり、掃除をしていた俺とヒナさんに焦った様子で問いかけた。
「まだお戻りになっておりません、最後にお姿を見たのは?」
シーツをベッドへ放り、ヒナさんは晃介様の言葉を元にインカムで支配人に事態を報告する。
朝食を摂った帰り、手洗いに行きたいと廊下で離れた少しの時間に美比呂様は姿を消した。
「・・・俺、探してきます」
「ちょっと、ユウキ・・・!」
ヒナさんの制止を聞かず、俺はいてもたってもいられずに部屋を飛び出した。
美比呂様・・・
美比呂様・・・!!
美比呂様がと言った手洗いに行き、声をかけてから中に入る。
個室は全て空いていて、誰かが使用した形跡はない・・・
「・・・?これ・・・」
一番奥の個室に落ちていたのは、美比呂様が髪を留めていたバレッタだった。
「なんで・・・」
外れたら自分で拾える、そして直すだろう、それをしなかったのは考えにくい・・・考えられるのは・・・
「・・・できなかったから・・・」
バレッタを拾い、俺はブーゲンビリアの管理室に向かった。
「すいま、せん・・・!はぁ、はぁ・・・っ」
「おぅ、ユウキ、どうした?」
「あ、の・・・っ・・・は、ァ・・・」
「・・・おい、大丈夫か?(笑)」
スーツで煙草をふかす、ガラガラとした気のいいおっさんに俺は施設内のカメラを見せてくれと頼んだ。
客室内や大浴場、プライバシーが関わるところには設置していないが、廊下やロビー、出入り口など共用部にはカメラが設置されている。
それも以前にノラが客に監禁されて以来のこと。
「何かあったのか?」
「・・・女性のお客様が1人、行方がわからないんです。」
「・・・わかった、お前はリアルタイムの方を見ていろ。俺は録画の方に目を通す。」
手分けして映像をチェックし、カメラのあちこちには明らかにいつもと違う動きを客に察知されないよう美比呂様を探すノラたちの姿が増えていった。
・・・どこだ・・・
・・・・・・どこだ・・・っ
焦れば焦る程早く時間が経過していくようで、マウスを操作する手には汗が滲む。
「おい、ユウキこれ」
おっさんに呼ばれ覗き込んだモニターには、
「これ、男女の2人だがなんか・・・雰囲気がおかしくないか?」
「・・・美比呂様・・・!」
「ユウキ!!」
「ありがとう!おっさん!支配人やヒナさんたちにも連絡を!」
俺は映像に映っていたのを美比呂様だと確信し、その男・・・咲藤に抱かれて出た通用口へ急いだ。
従業員専用の地下の通用口は、何かあった時の為の隔離部屋があり、この通路はとてつもない距離の先に外へと繋がるゲートがあって、森の外へと出る事が出来る。
「美比呂様・・・!」
なんで咲藤が・・・
あの晩以降咲藤は、男性のノラからノラの仕事の手ほどきを昼夜問わず施されて・・・
本人の意思など関係なく、快楽漬けにされているはずだ・・・
「・・・あ、ヒナさん、美比呂様を連れ去ったのは咲藤さま・・・いや、咲藤です。俺は地下通路から2人を追います!」
『ちょ、待ちなさいユウキ・・・!あの人に指導していたノラが殴られて気絶した状態で見つかったわ、あなた1人じゃ・・・!!』
「・・・いえ、俺行かなきゃ・・・俺が必ず助けます・・・」
『ユウキ!』
走り続けた途中には駐車場があり、そこから車が1台なくなっていた。
・・・まずい・・・
このまま逃げられたら・・・
・・・ヴォン・・・!!
1台が通る幅しかない通路、俺はバイクに飛び乗ってエンジンをかけた。
・・・そういえば、バイクの乗り方も車の運転も、ここに来て教えてもらったんだっけな・・・
アクセルを全開にしながら感傷に浸りそうになる思考を強い向かい風が吹き飛ばした。
『ユウキくん』
俺に笑いかけて名前を呼んでくれた美比呂様。
コンクリート打ちっぱなしの通路に強い排気音が響いた。
0
お気に入りに追加
154
あなたにおすすめの小説
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
転生者だと気付いたら悪役双子の妹だったから堕ちる
abang
恋愛
とある事で気を失ったフリア・ディザスター公爵令嬢は突然、前世の記憶が蘇る。この世界は前世で読んだ小説と全く同じなのだと。
けれどもどう考えても居なかったはずの「フリア」という女の子として転生しており、更には兄であるディザスター兄弟は小説の悪役。
ヒロインに狂気的な愛を向けるサイコパスな顔面偏差値満点な双子で……
ヒロインに出会う前だからか、その愛情は妹であるフリアに向けられていて、今世の記憶ではただの大好きな兄である二人を死刑から守ろうと決意するフリア。
けれども思い出したばかりなのに、段々消えていく前世の記憶と知っているのと全然違う展開。
ヒロインにはひどく懐かれるし、主人公とは知らずに仲良くしていたソルは距離感がポンコツだし……
「あ……れ?兄弟ってこんなもんだっけ?」
(前世の世界ではどうだったかな……?)
「フリア〜、ファル兄様が一番好きだよね?」
「俺達、だろ兄?」
「ファル兄さん、ベリアル兄さんっ……!」
「フリア、俺の方がいいだろう!?」
「ごめんソル、アンタは違う」
兄さんたちがいちばん好き、前世の記憶は戻っても今更兄妹の常識は変えられない。愛しちゃってるから。
※大人表現が沢山あります。
なんでも許せる方、オーバー18歳の方推奨
【完結】断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~
古堂 素央
恋愛
【完結】
「なんでわたしを突き落とさないのよ」
学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。
階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。
しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。
ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?
悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!
黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
公爵夫人の微笑※3話完結
cyaru
恋愛
侯爵令嬢のシャルロッテには婚約者がいた。公爵子息のエドワードである。
ある日偶然にエドワードの浮気現場を目撃してしまう。
浮気相手は男爵令嬢のエリザベスだった。
※作品の都合上、うわぁと思うようなシーンがございます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる