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第六章
諦めない想い
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アレクは小さな苦笑をもらしつつ、それでもようやくケルトらしい活気が戻ったことに安堵する。
アレクを含め、誰もケルトの言葉を疑っていたわけではなかった。
おそらく真実なのだろうと思っていても、認めることが怖かっただけで。
詳細を訊ねれば答えてくれたかもしれない。けれど聞いてしまえば信じるほかに道はなく、くわえてケルトの傷を抉ることにもなる。
様々な理由をつけて真実とは向き合わず、夢物語のような希望を見出そうとするのは、絶望に身を投じるのが怖いからだ。
きっとマーリナスは気づいていた。
薄っぺらな励ましで真実から逃げようとしていることに。
常にアレクを想ってくれる優しいあの人は自分に甘くない。
誰よりも責任を感じているはずで、幼い頃からの知己を失い誰よりも傷ついているはず。
なのにアレクの言葉に寄り添い、希望測に同意する素振りをみせた。
マーリナスならば冷静に状況を分析し、最も可能性の高い結果を見出していただろうに。
アレクがケルトを気遣ったように、マーリナスもまたアレクを気遣ったのだろう。
優しさという感情はこうも重なると、事実を靄に隠してしまうものなのだろうか。でも、ひとっ風吹けば靄はあっという間に晴れてしまうもの。
こんなことは長く続かない。不確かな希望測を一生信じるなんて到底無理な話なのだから。
アレクはぎゅっとケルトの手を握りしめる。
「ねえケルト。いつか必ずロナルドを探しに行こうよ」
「え?」
「ロナルドは生きてるって。僕は本気で信じたい」
まっすぐなアレクの言葉には迷いがない。下手な慰めや同情なんかじゃない。じっと自身を捕らえる紫色の瞳にケルトの表情は強ばった。
「でも……」
「ロナルドはケルトが認めたライバルなんでしょ? そんなひとが簡単に死ぬとは思えないんだよ」
「たしかにあいつは簡単に死ぬタイプじゃないけど」
「でしょう? それにね、僕はもう一度ロナルドに会いたい。だから探しに行こうよ、ね?」
憶測だけではわからない。
言伝だけで認められるほど、ロナルドを簡単には諦められない。
ロナルドはマーリナスにとって唯一無二の親友で、戦友で。
アレクにとってもかけがえのない友だ。
「ケルトも言ってたじゃない。山ほど言いたいことがあるって。ケルトが憎んでいるうちはロナルドは死なない。そうでしょう?」
「……そう、です」
「だったら諦めないでよ。ケルトが諦めちゃったらロナルドは死んじゃうかも」
くすりと笑うアレクにキョトンとした顔を浮かべ、ケルトは唖然とまばたきを繰り返す。
それから小さく肩をすくめ「いつもバカにされていたから恩を売るのも悪くないですね」と苦笑を浮かべた。
部屋の向こうで扉に背を預けるマーリナスは、中から聞こえる小さな笑い声に目もとを細める。
切なげに綻んだ口もとと床に落ちた視線は、少しだけ嬉しそうだった。
アレクを含め、誰もケルトの言葉を疑っていたわけではなかった。
おそらく真実なのだろうと思っていても、認めることが怖かっただけで。
詳細を訊ねれば答えてくれたかもしれない。けれど聞いてしまえば信じるほかに道はなく、くわえてケルトの傷を抉ることにもなる。
様々な理由をつけて真実とは向き合わず、夢物語のような希望を見出そうとするのは、絶望に身を投じるのが怖いからだ。
きっとマーリナスは気づいていた。
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誰よりも責任を感じているはずで、幼い頃からの知己を失い誰よりも傷ついているはず。
なのにアレクの言葉に寄り添い、希望測に同意する素振りをみせた。
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優しさという感情はこうも重なると、事実を靄に隠してしまうものなのだろうか。でも、ひとっ風吹けば靄はあっという間に晴れてしまうもの。
こんなことは長く続かない。不確かな希望測を一生信じるなんて到底無理な話なのだから。
アレクはぎゅっとケルトの手を握りしめる。
「ねえケルト。いつか必ずロナルドを探しに行こうよ」
「え?」
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まっすぐなアレクの言葉には迷いがない。下手な慰めや同情なんかじゃない。じっと自身を捕らえる紫色の瞳にケルトの表情は強ばった。
「でも……」
「ロナルドはケルトが認めたライバルなんでしょ? そんなひとが簡単に死ぬとは思えないんだよ」
「たしかにあいつは簡単に死ぬタイプじゃないけど」
「でしょう? それにね、僕はもう一度ロナルドに会いたい。だから探しに行こうよ、ね?」
憶測だけではわからない。
言伝だけで認められるほど、ロナルドを簡単には諦められない。
ロナルドはマーリナスにとって唯一無二の親友で、戦友で。
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それから小さく肩をすくめ「いつもバカにされていたから恩を売るのも悪くないですね」と苦笑を浮かべた。
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切なげに綻んだ口もとと床に落ちた視線は、少しだけ嬉しそうだった。
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