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第一章
バレリア
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「バレリアの呪い? あの少年がそう申したのですか?」
スタローン王国第一警備隊駐屯所、隊長室にて副隊長のロナルドは驚いたように声を跳ね上げた。
「そうだ。だから目隠しをしてくれと頼まれた」
「目隠し……」
「本当にそんな呪いがあると思うか」
「バレリアの呪いで、かの大国が滅びたのは有名な話です。かの者に魅了された他国の王族が争奪のために紛争を引き起こし、一国の王を殺した。それゆえその呪いをかけた術者バレリアは処刑され、それ以来その術は禁術とされてきました。その術を記載した魔術書も当時、ウォーク王が焚書を命じられたはず」
「つまり現在ではその魔術を行使できる人間がいるはずがないと、そういうことだな」
ロナルドは一瞬、口をつぐむと顎に手を当てて真剣な表情を浮かべる。
「そのはずですが……当時処刑された術者、バレリア・ヘルモントの他にその術を行使できた者がいた可能性も捨てきれません」
その答えにマーリナスも小さくうなずきを返す。
あの禁術の生みの親はバレリア・ヘルモントだが、バレリアが処刑前に誰かに伝授した可能性は残されている。ウォーク王とてその辺りのことは入念に調べさせたはずだが、バレリアが素直に吐いたかどうかは疑わしいものだ。
「では仮にあれが本物だったとして、呪いを解く方法はあるか」
「従来、禁術は術者が亡くなることにより解除されるのが定石ですが……現状、術者が不明である以上は難しいでしょうね」
『バレリアの呪い』は三代前のウォーク王の時代に起きた事件であり、多くの情報は焚書と共に失われた。
警備隊として職務につくマーリナスやロナルドも大まかな歴史の知識はあれど、詳しい情報は持ち合わせていない。
今や都市伝説と化したその話、一般人が聞いたら鼻で笑い飛ばすことだろう。
だが――机の上で手を組み合わせじっと思案にふける青年、第一警備隊長マーリナス・シュベルツァは濃紺色の瞳に警戒心を強める。
「目隠しを外すにはリスクが高そうだな」
「では、あの少年はどういたしましょうか。身寄りのない青少年のほとんどは保護区のレイナス卿の監視下に置かれることになっていますが」
「今あの少年はどこにいる」
「現在は医療棟に個室をあてがい休養してもらっています。精神的に落ち着かない部分もあるようでしたので……」
「ああ……」
ロナルドの言葉にマーリナスは視線を落とす。
ロイムの刺殺現場に居合わせたマーリナスたちは、彼らの最後の会話を耳にしていた。
タイミングが悪く、刺殺された少年を助けられなかったのが悔やまれるが――
「好きだと言っているようにしか聞こえなかったな」
「仮にあれがバレリアの呪いだとしても、あれは彼なりの優しさだったのでしょう。嘘は……バレていたようですけどね」
「そうだな」
マーリナスはそっと目を閉じる。だからこそ、彼は亡くなった少年から離れようとしなかったのだろう。
亡くなった少年の上に身を重ねたまま微動だにしなかった彼を、警備隊はなかば無理やり引きはがして保護した。そうでもしなければ彼は朽ち果てるまであの場に居続けたに違いない。
「彼の処遇については考える時間をくれないか。少し彼と話してみたい。それとこのことは他言無用だ」
「もちろんです」
スタローン王国第一警備隊駐屯所、隊長室にて副隊長のロナルドは驚いたように声を跳ね上げた。
「そうだ。だから目隠しをしてくれと頼まれた」
「目隠し……」
「本当にそんな呪いがあると思うか」
「バレリアの呪いで、かの大国が滅びたのは有名な話です。かの者に魅了された他国の王族が争奪のために紛争を引き起こし、一国の王を殺した。それゆえその呪いをかけた術者バレリアは処刑され、それ以来その術は禁術とされてきました。その術を記載した魔術書も当時、ウォーク王が焚書を命じられたはず」
「つまり現在ではその魔術を行使できる人間がいるはずがないと、そういうことだな」
ロナルドは一瞬、口をつぐむと顎に手を当てて真剣な表情を浮かべる。
「そのはずですが……当時処刑された術者、バレリア・ヘルモントの他にその術を行使できた者がいた可能性も捨てきれません」
その答えにマーリナスも小さくうなずきを返す。
あの禁術の生みの親はバレリア・ヘルモントだが、バレリアが処刑前に誰かに伝授した可能性は残されている。ウォーク王とてその辺りのことは入念に調べさせたはずだが、バレリアが素直に吐いたかどうかは疑わしいものだ。
「では仮にあれが本物だったとして、呪いを解く方法はあるか」
「従来、禁術は術者が亡くなることにより解除されるのが定石ですが……現状、術者が不明である以上は難しいでしょうね」
『バレリアの呪い』は三代前のウォーク王の時代に起きた事件であり、多くの情報は焚書と共に失われた。
警備隊として職務につくマーリナスやロナルドも大まかな歴史の知識はあれど、詳しい情報は持ち合わせていない。
今や都市伝説と化したその話、一般人が聞いたら鼻で笑い飛ばすことだろう。
だが――机の上で手を組み合わせじっと思案にふける青年、第一警備隊長マーリナス・シュベルツァは濃紺色の瞳に警戒心を強める。
「目隠しを外すにはリスクが高そうだな」
「では、あの少年はどういたしましょうか。身寄りのない青少年のほとんどは保護区のレイナス卿の監視下に置かれることになっていますが」
「今あの少年はどこにいる」
「現在は医療棟に個室をあてがい休養してもらっています。精神的に落ち着かない部分もあるようでしたので……」
「ああ……」
ロナルドの言葉にマーリナスは視線を落とす。
ロイムの刺殺現場に居合わせたマーリナスたちは、彼らの最後の会話を耳にしていた。
タイミングが悪く、刺殺された少年を助けられなかったのが悔やまれるが――
「好きだと言っているようにしか聞こえなかったな」
「仮にあれがバレリアの呪いだとしても、あれは彼なりの優しさだったのでしょう。嘘は……バレていたようですけどね」
「そうだな」
マーリナスはそっと目を閉じる。だからこそ、彼は亡くなった少年から離れようとしなかったのだろう。
亡くなった少年の上に身を重ねたまま微動だにしなかった彼を、警備隊はなかば無理やり引きはがして保護した。そうでもしなければ彼は朽ち果てるまであの場に居続けたに違いない。
「彼の処遇については考える時間をくれないか。少し彼と話してみたい。それとこのことは他言無用だ」
「もちろんです」
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