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しおりを挟む幼い頃から王太子として常に完璧を求められた。
期待される事は嬉しかったし、それに応えられる様に過ごす毎日。
そして気付いた。
父上も母上もみんなみんな僕ではなく、王太子を求めているんだと。
いつしか、本当の自分ではなく周りが求める自分を演じ様とする事に疲れていたんだ。
「誰か僕を見て・・・・」
ふと漏れるか細い悲鳴。
誰も気づく事はない。
そんな時だ。
空が目が霞む程の眩い光で包まれる。
思わず左手で光を遮りながらも、その先を確かめずにはいられない。やがて光は城中で1ヶ所に集まり柱となる。
そこには父上も母上も宰相も城の者達が原因を確かめる為に集まっていた。
皆が見守る中徐々に細まる柱から現れたのは、珍しい黒髪に可愛らしい顔立ちの不思議な格好をした少女だった。
彼女は周りを見渡すと怯える様に目を揺らし、何かに縋る様に自分を抱きしめながら僕を見た。
僕を見た彼女は何故か安堵した様な色を浮かべるとそのまま意識を失ってしまったのだ。
それから大人達は、彼女を伝説の聖女と認め手厚く保護した。確かに、あの光景を見れば聖なる少女なのは間違いないだろう。
この国で聖女の伝説を知らない者はいない。
だからと言って何百年も昔の真実かもわからない物語を僕は全くと言って信じてはいなかったのだ。
それが、まさかこの瞳で会えるとは。
常に不安そうな彼女は、歳が近いからか他の者程僕に警戒することはなかった。
それから僕は彼女に毎日会いにいった。
僕を見つけると安堵するのが、僕だけを必要としてくれるようで嬉しくて。
彼女の話にも興味があった。彼女は僕等とは全く違う世界で生きていて、気がつけば光に包まれていたらしい。
最初はあまり自分の事は話さなかったが、徐々に話してくれた内容に僕は驚いた。
彼女は幼い頃に親に捨てられて生きていたらしい。その後は施設で生活していたが、そこもあまりいい暮らしでは無かった様だ。
僕が想像していた、聖なる方へ仕えている少女とは全然違っていた。
そんな彼女には僕が今まで抱え溜め込んでいた悩みをぽつり、ぽつりと話事ができた。
彼女は僕の話を最期まで聞くと、そっと「頑張ったね」と頭をぽんぽんと撫でてくれた。
何故だか僕はその一言で初めて人前で泣いてしまったんだ。
それから僕と彼女はお王太子と聖女として、2人きりの時はヴィーとマイカとして共支え合ってきたんだ。
でもそれは長くは続かなかった。
マイカの後継人を務める侯爵が不正をしたのだ。
侯爵が判決の際に漏らした、「聖女様を眼にして欲にも眼がくらんでしまった」という一言が良くなかった。
マイカは何も悪くないのに、まるで聖女が助長させたかの様に言葉が徐々に広がりはじめたのだ。
元々聖女の事を面白く思っていない派閥がこの事を利用したのだろう。
彼女は僕の婚約者となって、この国に少しでも慣れようと頑張っていた。民の為に、自分と同じような子供を減らしたいと初めて言った我儘は「孤児院に行きたい!」だった。そんな彼女が悪く言われるのは許せなかった。
なんとしても彼女との婚約を守る為に色々と動いたが、民まで広まった噂を変える事はなかなかに難しい。
徐々に「聖女とは名ばかりな」「彼女が現れたからって何も変わってない。いや?1人の貴族が惑わされたのだったな!」等悪意ある言葉も出てきた。
聖女という名が偉大すぎるあまり、人はそれに見合った結果を勝手求め、勝手に失望していく。
彼女が僕の隣にいる限り、注目を集めこの連鎖はとまらない。徐々にマイカの顔にも翳りが見え始める。
このままではいけないと僕はマイカと話し合った。
そして決断したのだ。
マイカとの婚約を解消し、王太子として国の為に新しい婚約を結ぶと。
それでも一つだけ、譲れない条件があった。
聖女を寵姫として認めるだ。
僕も彼女も婚約という形に縛られなくとも、これからも共にいると誓ったのだ。
僕も相手にとって受け入れがたい条件だとは分かっている。それでも譲れない。譲れないんだマイカだけは。
新しい婚約者選びは慎重に行った。マイカを受け入れると見せつつ、害そうとするかもしれない。
マイカに害はなくとも、王太子妃として相応しい資質も必要だ。
そんな中白羽の矢がたったのは、サブリナ彼女だ。
どこの派閥にも属さず中立を貫き、辺境という過酷な地で多くの領民にも慕われている辺境伯の末娘。
彼女は僕とマイカを1人の臣下として慕ってくれている様で、僕等と協力してこの国を支えていきたいとこの立場を受け入れてくれた。
そんな彼女に、僕もマイカも感謝し、僕も彼女へ少しでもこれから過ごす人生を良いものにしてもらえるよう努めると誓った。
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