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「全く……自分は欲望のまま行動するくせに、相手に心があることを全くわかっていないだなんて、生まれたばかりの乳児並ね。こうなっても謝罪ひとつ出来ず、泣き喚くしかしないのだから」
そう王妃が言い放ったのを合図に、兵が両側からレベッカを拘束し連れ出していく。
レベッカは放心状態なのか暴れることなくされるがままになっている。
その後ろ姿に、王妃が声をかける。
「そうそう、何を勘違いしているか知らないけど、私が貴女のお母様、ヘレネーに負けたことなど一度もないわ」
そのひと言に、レベッカがぴくりと反応した。
「学業においてもその他においてもヘレネー嬢は最底辺。あの方は殿方の心を掴むことだけは上手だったけれど、それだけの方よ」
ぎり、とレベッカが歯噛みして王妃を睨む。

そんな姿を笑ってあしらい、
「だってそうでしょう?貴女のお母様が本当に優秀で素晴らしい王妃だったならばミレスナはもっと発展していたはずよ。貴女もあなたのお母さまもお父君もただ愚かだったの。だからミレスナは今日地図から消えたのよ」
言われた言葉に目を見開いたレベッカは、瞳の光を失って項垂れた。

犯罪者たちが連行されて静かになった広間に、
「何とか予定通りに収まったか……」
と息を吐く国王に、
「どこがですかっ!もっと早くにあの阿婆擦れと馬鹿を絞め上げておけばあそこまでリーアを侮辱する言葉など、吐かせずに済んだものを!何でもっと早く許可しなかったんですっ?!」
「膿を全部出し切るまで堪えろ、と言っておいただろうが!」
「だからギリギリまで堪えてたでしょうがっ!あの首かっ飛ばしたいのを我慢してたんですよ?!」
「当たり前だ!広間を血の海にする気か?!」
「ご心配なく。万が一にもリーアに血の一滴も飛ばないように充分距離をとってからやります」
「奥方以外の心配も少しはせい!それが騎士団長の台詞か?!」
「いつでも返上しますよ?」
「ぐn……」

言い負けた国王に、王妃が追い打ちをかけた。
「まあ、ミレスナと深入り外交しなければならなくなったのはあなたのせいですからねぇ?」
コロコロと笑う王妃に、
「王妃殿下の苦労が偲ばれます」
とエドワードが大真面目に頭を下げ、国王がしょぼんと項垂れた。



そんな一件落着の空気の中、ジークリード王子とカリムが連れ立ってやって来て、
「君がエドワードの掌中の珠か__こんなに美しい女性だとは、惜しいな」
「この度は父と妹の度重なる無礼を止めることができず申し訳ありませんでした」
カリム王子が深々と頭を下げる横で、ジークリード王子が意味不明な言葉を発した。
「王太子殿下、悪い冗談はやめていただきたい」
再びエドワードの気配に険が混じる。
「だってそうだろう、美しくて華も品もあってしかも聡明。年の頃もちょうどいいし、既婚じゃなければ僕の妃候補にあがってたんじゃないかな?」
「それが冗談じゃないなら今すぐ首と胴をもの別れにして差し上げましょうか?」
お互い笑顔なのに、言っている内容はえらく物騒だ。

「奥方を褒められただけで剣を抜くなんて我慢が効かなすぎじゃないか?」
「我が国では既婚または婚約者のいる者への横恋慕は禁止・極刑なのですよご存知ないのですか?」
(え?あれはったりじゃなかったの?)

__まさか、最近法変えた、とか?

「ああ君と父上と母上が企んで強引に成立させた法案アレね」
(マジですかっ?!)
「ええ軽くて無料奉仕活動、重ければ極刑です。因みに制限はありません。悪質と判断されれば死刑もあり得ます」
エドワードがイイ笑顔で言い、アルスリーアは息を呑んだ。

見惚れて、ではない。
どちらかといえば恐怖に近い。

(ほ、法まで変える?普通)

あいにくとっくに普通ではないのだが、周囲はそんな様子を生暖かく見守るだけだ。

「おい、夫人がドン引きしてるぞ」
唯一国王だけが、そう突っ込んでくれた。









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