72 / 73
71
しおりを挟む
「全く……自分は欲望のまま行動するくせに、相手に心があることを全くわかっていないだなんて、生まれたばかりの乳児並ね。こうなっても謝罪ひとつ出来ず、泣き喚くしかしないのだから」
そう王妃が言い放ったのを合図に、兵が両側からレベッカを拘束し連れ出していく。
レベッカは放心状態なのか暴れることなくされるがままになっている。
その後ろ姿に、王妃が声をかける。
「そうそう、何を勘違いしているか知らないけど、私が貴女のお母様、ヘレネーに負けたことなど一度もないわ」
そのひと言に、レベッカがぴくりと反応した。
「学業においてもその他においてもヘレネー嬢は最底辺。あの方は殿方の心を掴むことだけは上手だったけれど、それだけの方よ」
ぎり、とレベッカが歯噛みして王妃を睨む。
そんな姿を笑ってあしらい、
「だってそうでしょう?貴女のお母様が本当に優秀で素晴らしい王妃だったならばミレスナはもっと発展していたはずよ。貴女もあなたのお母さまもお父君もただ愚かだったの。だからミレスナは今日地図から消えたのよ」
言われた言葉に目を見開いたレベッカは、瞳の光を失って項垂れた。
犯罪者たちが連行されて静かになった広間に、
「何とか予定通りに収まったか……」
と息を吐く国王に、
「どこがですかっ!もっと早くにあの阿婆擦れと王を絞め上げておけばあそこまでリーアを侮辱する言葉など、吐かせずに済んだものを!何でもっと早く許可しなかったんですっ?!」
「膿を全部出し切るまで堪えろ、と言っておいただろうが!」
「だからギリギリまで堪えてたでしょうがっ!あの首かっ飛ばしたいのを我慢してたんですよ?!」
「当たり前だ!広間を血の海にする気か?!」
「ご心配なく。万が一にもリーアに血の一滴も飛ばないように充分距離をとってからやります」
「奥方以外の心配も少しはせい!それが騎士団長の台詞か?!」
「いつでも返上しますよ?」
「ぐn……」
言い負けた国王に、王妃が追い打ちをかけた。
「まあ、ミレスナと深入り外交しなければならなくなったのはあなたのせいですからねぇ?」
コロコロと笑う王妃に、
「王妃殿下の苦労が偲ばれます」
とエドワードが大真面目に頭を下げ、国王がしょぼんと項垂れた。
そんな一件落着の空気の中、ジークリード王子とカリムが連れ立ってやって来て、
「君がエドワードの掌中の珠か__こんなに美しい女性だとは、惜しいな」
「この度は父と妹の度重なる無礼を止めることができず申し訳ありませんでした」
カリム王子が深々と頭を下げる横で、ジークリード王子が意味不明な言葉を発した。
「王太子殿下、悪い冗談はやめていただきたい」
再びエドワードの気配に険が混じる。
「だってそうだろう、美しくて華も品もあってしかも聡明。年の頃もちょうどいいし、既婚じゃなければ僕の妃候補にあがってたんじゃないかな?」
「それが冗談じゃないなら今すぐ首と胴をもの別れにして差し上げましょうか?」
お互い笑顔なのに、言っている内容はえらく物騒だ。
「奥方を褒められただけで剣を抜くなんて我慢が効かなすぎじゃないか?」
「我が国では既婚または婚約者のいる者への横恋慕は禁止・極刑なのですよご存知ないのですか?」
(え?あれはったりじゃなかったの?)
__まさか、最近法変えた、とか?
「ああ君と父上と母上が企んで強引に成立させた法案ね」
(マジですかっ?!)
「ええ軽くて無料奉仕活動、重ければ極刑です。因みに制限はありません。悪質と判断されれば死刑もあり得ます」
エドワードがイイ笑顔で言い、アルスリーアは息を呑んだ。
見惚れて、ではない。
どちらかといえば恐怖に近い。
(ほ、法まで変える?普通)
あいにくとっくに普通ではないのだが、周囲はそんな様子を生暖かく見守るだけだ。
「おい、夫人がドン引きしてるぞ」
唯一国王だけが、そう突っ込んでくれた。
そう王妃が言い放ったのを合図に、兵が両側からレベッカを拘束し連れ出していく。
レベッカは放心状態なのか暴れることなくされるがままになっている。
その後ろ姿に、王妃が声をかける。
「そうそう、何を勘違いしているか知らないけど、私が貴女のお母様、ヘレネーに負けたことなど一度もないわ」
そのひと言に、レベッカがぴくりと反応した。
「学業においてもその他においてもヘレネー嬢は最底辺。あの方は殿方の心を掴むことだけは上手だったけれど、それだけの方よ」
ぎり、とレベッカが歯噛みして王妃を睨む。
そんな姿を笑ってあしらい、
「だってそうでしょう?貴女のお母様が本当に優秀で素晴らしい王妃だったならばミレスナはもっと発展していたはずよ。貴女もあなたのお母さまもお父君もただ愚かだったの。だからミレスナは今日地図から消えたのよ」
言われた言葉に目を見開いたレベッカは、瞳の光を失って項垂れた。
犯罪者たちが連行されて静かになった広間に、
「何とか予定通りに収まったか……」
と息を吐く国王に、
「どこがですかっ!もっと早くにあの阿婆擦れと王を絞め上げておけばあそこまでリーアを侮辱する言葉など、吐かせずに済んだものを!何でもっと早く許可しなかったんですっ?!」
「膿を全部出し切るまで堪えろ、と言っておいただろうが!」
「だからギリギリまで堪えてたでしょうがっ!あの首かっ飛ばしたいのを我慢してたんですよ?!」
「当たり前だ!広間を血の海にする気か?!」
「ご心配なく。万が一にもリーアに血の一滴も飛ばないように充分距離をとってからやります」
「奥方以外の心配も少しはせい!それが騎士団長の台詞か?!」
「いつでも返上しますよ?」
「ぐn……」
言い負けた国王に、王妃が追い打ちをかけた。
「まあ、ミレスナと深入り外交しなければならなくなったのはあなたのせいですからねぇ?」
コロコロと笑う王妃に、
「王妃殿下の苦労が偲ばれます」
とエドワードが大真面目に頭を下げ、国王がしょぼんと項垂れた。
そんな一件落着の空気の中、ジークリード王子とカリムが連れ立ってやって来て、
「君がエドワードの掌中の珠か__こんなに美しい女性だとは、惜しいな」
「この度は父と妹の度重なる無礼を止めることができず申し訳ありませんでした」
カリム王子が深々と頭を下げる横で、ジークリード王子が意味不明な言葉を発した。
「王太子殿下、悪い冗談はやめていただきたい」
再びエドワードの気配に険が混じる。
「だってそうだろう、美しくて華も品もあってしかも聡明。年の頃もちょうどいいし、既婚じゃなければ僕の妃候補にあがってたんじゃないかな?」
「それが冗談じゃないなら今すぐ首と胴をもの別れにして差し上げましょうか?」
お互い笑顔なのに、言っている内容はえらく物騒だ。
「奥方を褒められただけで剣を抜くなんて我慢が効かなすぎじゃないか?」
「我が国では既婚または婚約者のいる者への横恋慕は禁止・極刑なのですよご存知ないのですか?」
(え?あれはったりじゃなかったの?)
__まさか、最近法変えた、とか?
「ああ君と父上と母上が企んで強引に成立させた法案ね」
(マジですかっ?!)
「ええ軽くて無料奉仕活動、重ければ極刑です。因みに制限はありません。悪質と判断されれば死刑もあり得ます」
エドワードがイイ笑顔で言い、アルスリーアは息を呑んだ。
見惚れて、ではない。
どちらかといえば恐怖に近い。
(ほ、法まで変える?普通)
あいにくとっくに普通ではないのだが、周囲はそんな様子を生暖かく見守るだけだ。
「おい、夫人がドン引きしてるぞ」
唯一国王だけが、そう突っ込んでくれた。
603
お気に入りに追加
2,929
あなたにおすすめの小説
【完結】お荷物王女は婚約解消を願う
miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。
それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。
アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。
今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。
だが、彼女はある日聞いてしまう。
「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。
───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。
それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。
そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。
※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。
※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。
もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!
今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから
毛蟹葵葉
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。
ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。
彼女は別れろ。と、一方的に迫り。
最後には暴言を吐いた。
「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」
洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。
「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」
彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。
ちゃんと、別れ話をしようと。
ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。
【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中
幼馴染の公爵令嬢が、私の婚約者を狙っていたので、流れに身を任せてみる事にした。
完菜
恋愛
公爵令嬢のアンジェラは、自分の婚約者が大嫌いだった。アンジェラの婚約者は、エール王国の第二王子、アレックス・モーリア・エール。彼は、誰からも愛される美貌の持ち主。何度、アンジェラは、婚約を羨ましがられたかわからない。でもアンジェラ自身は、5歳の時に婚約してから一度も嬉しいなんて思った事はない。アンジェラの唯一の幼馴染、公爵令嬢エリーもアンジェラの婚約者を羨ましがったうちの一人。アンジェラが、何度この婚約が良いものではないと説明しても信じて貰えなかった。アンジェラ、エリー、アレックス、この三人が貴族学園に通い始めると同時に、物語は動き出す。
結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる