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しおりを挟む「栄誉ある騎士伯とその夫人に迎えられた方に私ごときが何も言えようはずがありません。臣下としてお二人の幸せを願うのみです」
エルドア子爵はそう言って深く頭を下げた。
それを受けて、
「改めてアルスリーアをこの世に生み出してくれたこと、礼を言う。俺、いや私に託してくれたことも。リーアの母君の墓前にもお礼にあがりたいが構わないだろうか?」
「もちろんです。妻も喜びます」
そう応じたエルドア子爵からアルスリーアに視線を移し、目が合うとアルスリーアも同じ気持ちなのだとわかる。
「エルドア子爵、良ければ私たちの結婚式に出てくれないか?結婚式に彼女に言うはずだった言葉はまだ言えていないのだろう。四年以上も、遅れてしまったが__」
「!それは、」
「エディ!?」
「君達親子の縁を切ってしまったのも元は俺の勝手のせいだ。君さえ良ければ籍も戻せばいい。まあ、フェンティ侯爵がもう少しマシな対応をしていれば君達親子をここまで不安に追い詰めることはなかったろうが__」
ギロ、と未だそこに立ち尽くすフェンティ侯爵を睨み据える。
フェンティ侯爵も今度は喚くことなく竦みあがる。
「わ、悪かった、そのう、私もお二人に祝福を、」
「要らん」
「身内と友人と数人の関係者以外は立ち入り禁止よ、もちろん私と国王陛下は出席するけれど」
(え そうなの?)
そもそも結婚式については、まだ詳細は決まっていなかったはずだが__、とエドワードに目をやるとばつが悪そうに逸らした後、はっと向き直り、「帰ったら、詳しく話す」とぼそりと耳元で囁いた。
まだ何か隠してるのか、帰ったら詳しく問い詰める必要がありそうだ。
「せ、籍を抜いたとはいえ我が侯爵家は身内で……!」
「そういう親戚面はね、ちゃんと責務を全うした人間がいう台詞なの。貴方がこの二人に何をしたというの、放置の挙げ句やっと通じ合った二人を引き離そうとしただけじゃないの、縁起の悪い」
「そ そんな……、王妃陛下、国王……」
へなへなと座り込んだフェンティ侯爵が縋るような目を国王に向けるが、
「……せめてアルスリーア嬢のデビューの手伝いくらいはするべきだったな、フェンティ侯爵」
国王からの言葉はにべもなかった。
「義娘のデビューなんか息子が戦場に行っていていないなら手をまわして当たり前でしょう、本当に息子の嫁だと思ってたならばね」
王妃がそう締めくくり、
「エ、エドワード!お前、母親や兄弟達に何の挨拶もしてないだろうっ?今からでも__」
「別れの挨拶なら出征時にしてるから問題ありませんよ、せいぜい領地経営と後継育成に尽力してください、フェンティ侯爵。国王陛下の迷惑とならないように」
「エ、エド、、」
「もうやめろ、見苦しい。言っておくが今後フェンティ伯の身内面するのは許さん。フェンティ夫妻に今後迷惑をかけなければ沙汰は下さん。だが、もし妙な真似をしでかした日にはフェンティ侯爵家がお家断絶になるかもなぁ?親子の断絶で済んだだけマシではないかのう?」
もう言葉を返す気力もなくなったフェンティ侯爵を、護衛騎士が両側から抱えるようにして広間から連れ出すと、
「い、いつまで我らを無視するつもりだっ?!」
と叫んだおっさん、じゃないもう一人の国王がいた。
(あ)
忘れてた。
それはアルスリーアだけでなく、広間にいた人々の共通認識だった。
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