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「知らないおじさんで合っている」
そう微笑むエドワードの顔は蕩けそうで、とても先程まで殺気漲っていた人物とは思えない。
実は何の打ち合わせもしていない二人のうちアルスリーアは(え いいの?)と思っていたりするがエドワードはとっくにこの父親を切っていたので、アルスリーアが同じ考えだと聞いて喜んでいるだけなのだが、
「なっ、なっ、なぁあ__?!」
フェンティ侯爵は目を白黒させながら顔は羞恥に塗れて真っ赤という奇特な状態に陥っていた。
「フェンティ侯爵、勘違いしてもらっては困る。私と貴侯の親子関係は既に断絶されている。故にル・フェンティ騎士伯の結婚に対し物申す権限は貴様に一切ない」
「なっ……」
(え そうなの?)
アルスリーアも初めて聞く話なのでやや瞳を瞬かせた。
「馬鹿を言うな!私はそんな話は聞いておらぬしそんな書類にサインした覚えもないぞ!一方的に断絶など出来「出来るんですよ」るわけが、っ何だと?」
「出来るんですよ。国王陛下の許可さえあれば貴方のサインなど不要だ、フェンティ侯爵」
エドワードが薄く笑う。
さっきと違い、酷薄な笑みだった。
「なん、だと……?」
驚愕したフェンティ侯爵が国王に視線を移すと、
「おかしいのう?今日あたり書類が届いているはずじゃが。まさか儂からの書状も見ずに来たのか、お主は?」
そう嘯く国王は何故だかとても楽しそうだ。
(いや、実際あれは楽しんでいる、絶対)
「え?い いや書状は家令が一旦受け取ってから私に届きますのでまだその段階なのかもしれません。本日の陛下の呼び出しが時間指定でありましたので、それに気を取られておりましたし……」
成る程、招待客じゃなくて呼び出されてたから急に現れたのか。
ミレスナの王と同じくタイミング計ってたんですね?陛下。
「な、何故陛下が、そのような……」
「何故とは、おかしなことを訊くのう」
「ええ、全く。私のこともアルスリーアのことも生死さえ問わなかった人間が一体何を言っているのか?」
「そ そんなことはない!」
上擦ったフェンティ侯爵の反論(?)に、
「では何故私が出征時“アルスリーアを頼みます“と言ったのに頷いておきながら何もしなかった?会うこともなければ手紙のやりとりひとつしなかった。だから彼女が出奔していることすら知らなかったのだろう?私はあの時だけでなく手紙で幾度も伝えたはずだ。“アルスリーアを頼む“と。貴侯が長子にしか興味のない男だと知ってはいたが、ここまで情のない男だとは思わなかったぞ?何もする気がないならはなから頷かなければよかったのだ」
言葉が進むにつれ凄みを増していくエドワードに、比例してフェンティ侯爵の顔は青くなっていく。
「驚いたぞ、最後に会ったのは俺が出征した直後の一回のみだと聞いた時にはな?」
続いたエドワードの言葉に、今度は広間にいる面々が唖然とした。
「まあ……」
「エドワード伯が出征してから一度も?」
「それで義理の父親面するなんて、」
「なんて図々しい……」
ひそひそと非難の声があがる中、
「こ、困ったことがあったら言いなさいとは言っておいた!だがアルスリーアは一度も来なかった!気付かなくても仕方ないだろう?!」
フェンティ侯爵は声を張り上げた。
十二歳の少女が気軽に侯爵に声を掛けられるわけがない。
当の侯爵がこんなザマでは助けを求められなくても当然だろう。
いや、そもそも入籍した時点で従僕を派遣するなり別邸に迎えるなりすればよかったのだ。
カネも人脈もあるのだから、それを使って報告を受けるなりすればよかったのに、本当に何もしなかったのだこの男は。
広間にいる人々は、口々にそう囁き合った。
そう微笑むエドワードの顔は蕩けそうで、とても先程まで殺気漲っていた人物とは思えない。
実は何の打ち合わせもしていない二人のうちアルスリーアは(え いいの?)と思っていたりするがエドワードはとっくにこの父親を切っていたので、アルスリーアが同じ考えだと聞いて喜んでいるだけなのだが、
「なっ、なっ、なぁあ__?!」
フェンティ侯爵は目を白黒させながら顔は羞恥に塗れて真っ赤という奇特な状態に陥っていた。
「フェンティ侯爵、勘違いしてもらっては困る。私と貴侯の親子関係は既に断絶されている。故にル・フェンティ騎士伯の結婚に対し物申す権限は貴様に一切ない」
「なっ……」
(え そうなの?)
アルスリーアも初めて聞く話なのでやや瞳を瞬かせた。
「馬鹿を言うな!私はそんな話は聞いておらぬしそんな書類にサインした覚えもないぞ!一方的に断絶など出来「出来るんですよ」るわけが、っ何だと?」
「出来るんですよ。国王陛下の許可さえあれば貴方のサインなど不要だ、フェンティ侯爵」
エドワードが薄く笑う。
さっきと違い、酷薄な笑みだった。
「なん、だと……?」
驚愕したフェンティ侯爵が国王に視線を移すと、
「おかしいのう?今日あたり書類が届いているはずじゃが。まさか儂からの書状も見ずに来たのか、お主は?」
そう嘯く国王は何故だかとても楽しそうだ。
(いや、実際あれは楽しんでいる、絶対)
「え?い いや書状は家令が一旦受け取ってから私に届きますのでまだその段階なのかもしれません。本日の陛下の呼び出しが時間指定でありましたので、それに気を取られておりましたし……」
成る程、招待客じゃなくて呼び出されてたから急に現れたのか。
ミレスナの王と同じくタイミング計ってたんですね?陛下。
「な、何故陛下が、そのような……」
「何故とは、おかしなことを訊くのう」
「ええ、全く。私のこともアルスリーアのことも生死さえ問わなかった人間が一体何を言っているのか?」
「そ そんなことはない!」
上擦ったフェンティ侯爵の反論(?)に、
「では何故私が出征時“アルスリーアを頼みます“と言ったのに頷いておきながら何もしなかった?会うこともなければ手紙のやりとりひとつしなかった。だから彼女が出奔していることすら知らなかったのだろう?私はあの時だけでなく手紙で幾度も伝えたはずだ。“アルスリーアを頼む“と。貴侯が長子にしか興味のない男だと知ってはいたが、ここまで情のない男だとは思わなかったぞ?何もする気がないならはなから頷かなければよかったのだ」
言葉が進むにつれ凄みを増していくエドワードに、比例してフェンティ侯爵の顔は青くなっていく。
「驚いたぞ、最後に会ったのは俺が出征した直後の一回のみだと聞いた時にはな?」
続いたエドワードの言葉に、今度は広間にいる面々が唖然とした。
「まあ……」
「エドワード伯が出征してから一度も?」
「それで義理の父親面するなんて、」
「なんて図々しい……」
ひそひそと非難の声があがる中、
「こ、困ったことがあったら言いなさいとは言っておいた!だがアルスリーアは一度も来なかった!気付かなくても仕方ないだろう?!」
フェンティ侯爵は声を張り上げた。
十二歳の少女が気軽に侯爵に声を掛けられるわけがない。
当の侯爵がこんなザマでは助けを求められなくても当然だろう。
いや、そもそも入籍した時点で従僕を派遣するなり別邸に迎えるなりすればよかったのだ。
カネも人脈もあるのだから、それを使って報告を受けるなりすればよかったのに、本当に何もしなかったのだこの男は。
広間にいる人々は、口々にそう囁き合った。
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