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56 レベッカ視点
しおりを挟む私は生まれながらのお姫様だった。
父が国王で、母が王妃。
父と母のロマンスは有名で、「私は凄い数の求婚者の中から、お前の母と結婚する権利を勝ち取ったんだよ」と父は教えてくれた。
彼の大国の王でさえ、お前の母の虜になったのだと。
私は母にそっくりだから、さぞ美しく成長し求婚者が殺到するだろうとも。
けど、十五になっても、二十になっても、持ち込まれる縁談はパッとしないものばかり。
小国の王様とか、そこそこ大きいけれど凄く遠くて辺鄙な島国の王太子とか……王族なのは当たり前として、そんな遠い所や小さな国は嫌よ。
私に相応しくないわ。
それに私がそんな遠くに行ったらお父様やお兄様が寂しがるでしょ?
私の侍女たちだって私が大好きなんだから、一緒に連れてってあげないといけないし、仲の良いお友達と夜会でおしゃべりしたり出来なくなるわ。
そう思っていたところに、周りの国で戦争が始まって、お城に素敵な騎士様がやってきたの。
王様がお父様のお友達だったから、この城の一部を拠点として解放したんですって。
その中にいたの。
金色の髪に、青い瞳の綺麗な騎士様が。
彼こそ私の王子様……!
いいえ、騎士様かしら?
とにかく私は彼に出会うために生まれてきたのだと確信した。
彼は「私は仕事で来ているので」と私がお茶や部屋に招いても来てくれなかった。
戦争中だから、堂々と愛し合うのはいけないことだと思っているみたいで、そんなところも素敵だけれどちょっと固すぎるわ。
この城内でくらい、堂々と触れ合っても問題ないのに。
けど、彼の側近だという男やその部下たちが邪魔してくるの。
私達が二人きりになろうとするといつも邪魔をするのよ。
自分達が相手にされないからって酷いわ。
何故エドワード様は何も言わないのかしら?
エドワード様の方が偉いんだから、あんな奴ら首を切ってしまえばいいいのに。
そう思ったけれど、「彼は騎士団長として来ているんだ、馬鹿を言うな」と上のお兄様に言われてしまった。
上のお兄様は頭が硬いのよね、下のお兄様はお父様に似ていて私に優しいのに。
けど、まあ確かに遠征中に兵士を減らすのは不味いわよね。
エドワード様はここで武勲を立ててから私を迎えたいだろうし。
エドワード様の生家は侯爵家だって聞いたわ。
王族ではないけれど騎士団長だし、あの大国の高位貴族なら当然お金落ちだろうし、王女である私が降嫁するなら恐縮してしまうかもしれないけどその分大事にしてもらえそうだわ。
そして、あの大国の夜会に豪華なドレスを着て、美しい騎士様にエスコートされるのよ。
きっと皆羨望と嫉妬の目で見るでしょうね、あまりに私たちがお似合いだから……あぁ戦争が早く終わらないかしら。
終わったらきっと迎えに来てくれるわよね?
私はそう信じて、いや確信して「直ぐに出立出来るように準備をしておかなくては」と思ったのだけど、父が「いや、戦争が終結して直ぐは無理だ。王女であるお前を望むというなら、まず国を通しての申し込みとなるだろうから、準備はそれからにしなさい」と言うから待っていたの。
なのに、戦争が終わって一週間が過ぎても、半月が過ぎても。
エドワード様は来なかった。
大国アデリアから何の書簡も届かなかった。
どうして?
この城に滞在中は何度かエスコートもしてもらったし、私達の想いは通じてるはず。
私が王女だから尻込みしてるのかしら?
手紙を書こうかとも思ったけれど、きっとフェンティ侯爵家は私達の仲を知らないから、驚かせてしまうわよね。
それに騎士団長なら王宮内に部屋を与えられているはずだからそちら宛てに送った方が良いかもしれない。
「でも__、何を書いたら良いのかしら?」
いざペンをとってみても、何を書いたらいいのかわからない。
今まで自分に言い寄って来た人は沢山いるけれど、自分からこんな風にアプローチしたことはなかった。
だから、何を書いていいかわからなかったのだ。
そう唸っていた時、衝撃の情報が齎された。
「何を考えているんだか……エドワード・フェンティ伯は王から賜った館に漸く奥方を迎えたそうだぞ?馬鹿な真似はやめろ、国の恥になる」
上の兄からとても意地悪な目でそう言われ、私はショック死しそうだった。
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